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          ☆


「うーん、こんな感じかな。」

ローザは地面に『剣』と書いた。

ジェイと空き地で文字の練習をするのが日課になった。

王子様のお世話はいいのかな?とローザは思うが、じゃあ来ないと言われたら嫌なので何も言わずにいる。


「…本当に結婚するのかよ?」

結婚か。よく分かんない。


「うん。するよ。それが女の幸せだもん。」

「それだけじゃねーだろ。」

「…ねえ、触らないと子供は出来ないんだよね?」

「っ!お前!何言ってんだ!?」

ジャイが真っ赤になって大声を出す。

それにびっくりしたローザは、へにょりと眉を下げた。


「…やっぱり触らないとだめなんだよね。好きな人にしか触らせちゃダメって約束したんだけど…」

約束したのだ。おねいさんと。

でも、結婚はする。結婚して、子供を産むのが、女の幸せのはずだ。


「そいつのことは好きじゃないんだな?」

「好きって言うか、兄弟みたいなんだってば。」


ちょっと煩わしくなってきたローザはジェイを見た。

よく見るとジェイのまつ毛は茶色じゃなくて——


—— 銀色?

あれ、王子様と一緒の——


「じゃあ結婚はするな。」

ジェイのまつ毛に気を取られていたローザは、ジェイの声ではっと意識を戻した。


「だから、結婚は —— 」

「それだけが女の幸せじゃない。」

「じゃあ何?」


「…やりたいこととかないのかよ?」

「冒険がしたい。カクタスの冒険みたいに、いろんなところを回るの。」

海が見てみたい。太陽が届きそうなくらい高い山も、地獄の底みたいな谷も、見てみたい。

遠くの地には竜が住んでいるという。どれくらい大きいんだろう?話はできるのかな?


「じゃあ冒険すればいいじゃねーか。」

「無理だよ。うちは貧乏だし、私は女だし。」

「女だって冒険はできるだろう。一人が怖いなら、俺が一緒に行ってやる。」

「ジェイ…」


ジェイと一緒に冒険したら楽しいだろうな。ジェイは背はちっちゃいけど、意外に力持ちっぽそうだし。大きな鍋をひょいと持ち上げてるのを見かけたことがある。


剣と盾を持って、二人で悪党を退治するのだ。で、お礼に財宝をもらって、ぱあっと花街?で使うの。花街がなんなのか分からないけど、主人公のマサラが楽しいって言ってたから、きっとおとぎの国みたいなところなんだろう。


「俺と、来るか?」

ジェイが真剣な顔をしてローザを見た。その顔が怖くなったローザは、咄嗟に下を向いた。

「…無理だよ。」

ローザは小さな声で返した。


冒険はしたい。本ももっと読みたい。でもローザももう15歳なのだ。できることとできないことの区別くらいできる。

「…考えておけ。」

そう言うと、ジェイは立ち上がった。


その日は二人は無言で林を通り抜けた。


          ☆


…考えておくって、何を。


ローザは茶葉を摘みながら、こっそりとため息をついた。

考えることなんてなにもない。

結婚して、子供を産むのが、女の幸せ…なんだよね?


そろそろ茶摘みも終わりだ。あと数日したら、ローザは村に帰る。


ジェイも王子様と一緒に王都に帰っちゃうんだな。


胸がぎゅっと痛んだ。ローザはそれにびっくりして胸を押さえたが、痛みはすぐに消えてしまった。


フルフル、とローザは首を振った。


王子様のおかげで班員は前より真面目に仕事をしてくれるようになった。

去年よりはすごく大変だけど、その分給金もたくさんもらえるだろう。

それを持って、村に帰るのだ。

久しぶりに会う家族。少し奮発して砂糖を買って帰ってもいいかもしれない。


楽しいこと、楽しいことを思い浮かべないと。


気がつけばジェイのことを考えてしまう頭を振っては、ローザは家族のことを考えるようにした。


班員みんなの分の後片付けを一人でしていると(見えないところは手を抜くことにしたらしい)、きゃきゃとはしゃぐ声がした。またか…と思って無視していると、

「ねえ、ジェイったら。」

と言う声がして、ローザは顔を上げた。

遠くから、ジェイと茶摘み娘が腕を組んで歩いてきた。ジェイは少しイラついているように見える。

「放せ。」

「そんなこと言わないで。あっちで二人っきりになりましょ。ね?」

「放せ。」


「ジェイ…」

ローザは思わずジェイの名前を呼んだ。

「ローザ!」

ローザの胸がズキンと痛んだ。目の奥がツンとする。


「ローザ、違うんだ!放せって!」

ジェイが無理やり腕を解こうとすると、

「きゃ!」

と茶摘み娘が地面に倒れた。

「すまない。」

「もう、ジェイったら乱暴なんだから。起こして?」

茶摘み娘のすらりと伸びた綺麗な指先を見たローザは、自分のボロボロの手をぎゅっと握りしめると、逃げるようにその場を去った。

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