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吸血鬼ですが、何か? 第4部 人間編  作者: とみなが けい
19/43

はなちゃん核爆弾並みに恐い…そして四郎の身分を手に入れたけど名前が…

「それで?

 彩斗、あんたまだ私達に言わなきゃいけないことあるんじゃないの?」


俺でも判るタイトなスケジュールの中で明日の予定を今さっき言った事で怒られた俺に真鈴は猜疑心を浮かべた視線で見た。


「彩斗、われらは今非常に忙しいのは判っておろうが。

 急にそんな事言われてまたスケジュールを変更すると言うのは無しにしてくれ。

 他に何かわれらに報告する事は無いのか?」


四郎も呆れた表情で俺を見ている。

俺は自分のとろさに凹みながらスマホに目を落とした。

…未読のメールが一つある。


「え~と、他にも今日死霊屋敷の件で金額が決まった事と…これは6千万円であの屋敷と隣接した敷地が手に入ると言う事でかなり安く、いやいや、破格中の破格の値段で手に入る事になったよ。

 それと、気になる事があってあの死霊屋敷を紹介してくれた岸本君から聞いた話なんだけど、岸本君にあの死霊屋敷の売買を依頼したのが岩井テレサ、この人は昭和22年に蔵六から土地を購入した名義の木戸商会が解散した時にその土地を手にした人と同じ名前なんだよ。」

「ふぅん、じゃあその岩井テレサってもうかなりのおばあさんでしょ?」

「それが岸本が言うには見た目はどう見ても40代後半程度だと言う事と、俺が四郎が入った棺を買い付けてから1週間位で岸本のところに現れたと言う事もなんか引っかかるんだよね。」

「うむ、確かにそれは何と言うか…タイミングがな。」

「そうね、それちょっと気になるわね。」

「でしょう?一応岸本から岩井テレサの住所が入った名刺のコピーは貰っているよ。」

「それも調べた方が良いわね~やれやれ、謎がどんどん出てくるじゃないのよ。

 …で、他には?」

「え~と、今未読のメールに気が付いたけど四郎のスーツの仮縫いでもう一度銀座に行かなくちゃいけないと…あと、屋敷の買い付けをしたから早ければ数日以内位に正式に売買契約を完了させる時は俺が岸本の事務所に行かなければならない事…くらいかな。」

「…きぃいいい!

 私達ってなんか忙し過ぎよ!

 まるで会社で働いてるみたいじゃないのよ!

 今どき会社だって週に2回はお休みなのよ!」

「われも訓練を一通り終わった後はポール様から週1回は休みをもらっていたな。

 今から160年も昔だが、しっかり休みは貰ったぞ。」


「でも、四郎、この前俺達は仕事以上の事をするんだって…」


四郎の顔が凶悪な吸血鬼に変化した。


「何を言う彩斗!

 それとこれとは別の事!

 戦士にだって休息は必要なんだぞ!」

「そうよそうよ!

 四郎の言う通りよ!

 大体彩斗に拉致されて変なハーブティー飲まされてから今日まで1日も休み無しだし、2回も死にそうな目に遭ってるし…正社員にすると言っておいて給料日だって給料の金額だって、そもそも正式な雇用契約も交わしてないし、はなちゃんの新しい服だって買わないといけないし…何かと大変なんだから!」


なんか会社の待遇闘争賃上げ闘争みたいな感じになって来た。

四郎、真鈴の従業員連合に押され気味の俺は何か言い返そうと小声で答えた。


「はなちゃんには真鈴が新しい服を作ってあげたじゃないか。」

「なによ!あのクマのぬいぐるみいくらしたと思ってるのよ!

 ドイツ製の高級ぬいぐるみで8万円以上してるのよ!

 それをおしゃかにしたのになんか、はなちゃんが気色悪い感じになっちゃったし…」

「……きぃいいいいい!わらわはやっぱり変な感じになったのじゃなぁああああ!

 変な気色悪い感じに!きしゃぁああああ!」


真鈴の言葉を聞いてはなちゃんが顔を押さえてテーブルに突っ伏した。


「あ!はなちゃん!違うのそれは!…違うのよ~!」

「何が!何が違う!きしゃぁあああ!貴様らがやったことはお地蔵様にブラジャーとパンティーの落書きをした事位、いやいやその上更にお地蔵様のおでこに肉と落書きするその何十倍もひどい事をしたのじゃ~!きしゃぁあああああ!」


地鳴りが響いて来てはなちゃんが突っ伏しているテーブルがメキメキメキ!と音を立ててひびが入り、更にそのひびが広がって行く。


「ああああ!やめて!やめてよはなちゃん!

 このテーブルはかなり特別なテーブルで椅子4脚とセットで43万円もしたんだよぉ~!

 家具屋の店員が呆れてしまうくらい時間を掛けて選んだテーブルセットなんだよぉ~!」


俺は目の前でテーブルがめきめきと音を立てて粗大ごみになって行くのを見て悲鳴を上げた。

テーブルだけじゃなく、はなちゃんが座っている椅子の背もたれも奇妙に歪み始め、床のタイルにも亀裂が走り始めた。

不吉な感じの地鳴りさえ聞こえて来た。


「はなちゃん!ごめんね!悪気は無かったのよ!ただ、はなちゃんが裸じゃかわいそうだと思って!!新しいお洋服直ぐに手配するからぁ!堪忍してぇええええ!おさまって!鎮まってぇええええ!」


真鈴がはなちゃんを抱きしめて叫んだ。


「真鈴!早くはなちゃんを落ち着かせろ!

 この建物が崩壊するかも知れんぞ!」


さすがに四郎も慌てふためいて椅子から立ち上がり右往左往している。

やがて、地鳴りは収まり、床のひびの侵攻も止まった。


静まり返った室内にはなちゃんの荒い息使いだけが聞こえた。


「…今回は許してやろう…だが、新しいお洋服を早く作らないと…ここにいるすべての奴らを…根絶やしにするぞよ。」


はなちゃんが押し殺した老婆の声で呟いた。

あああ!やっぱりはなちゃんは神様並みだよ!神様みたいにいきなり理不尽に怒りだして大災害を巻き起こしたりする神様みたいな…まぁ誰だって体にブラジャーとパンティーの落書きされて更におでこに肉なんて落書きされたら激怒するけど、やっぱり神様みたいな存在だよ!怖いよ怖いよ!マジになった四郎なんかよりも何十倍も恐いよ!やだよ!根絶やしなんか嫌だよ!俺はまだ3回、いや2回と…そんな事はどうでも良いんだよ!でも、鮭なんかはあれだけ辛い苦しい旅を続けて仲間もどんどん死んだ後でやっと目的地に辿り着いたら1回こっきりの射精をしたらすぐに死んじまうんだよ!彼女の体に触れた程度で射精を1回しただけで死んじまうんだよ!俺なんか鮭よりはずっとましだよ!3回は…2回ちょっとはセックスしてるんだもんね!それに比べたら俺は!もう、鮭が可哀想で食べられなくなるよ!どうしよう!回転寿司でサーモン食べられなくなるよ!ああそうだよ!宝くじ当てても俺は回転ずし好きだよ!あの雰囲気わくわくするよ!どうせ俺は庶民だよ!最初にサーモン食べるよ!高い寿司屋とか行ったらきっと気後れしてしまうよ!だから折角高いと思いながら買ったテーブルが目の前でメキメキと音を立てて粗大ごみになるとショックだよ!

誰か!誰か俺の思考の暴走を止めてくれ!このままじゃヤバいよ!吉岡彩斗はヤバい奴だと思われるよ!しかしはなちゃん恐いよ!3重の安全装置が全部外れてる1メガトンの核爆弾と一緒にいるようなものだよ!鮭は嫌だよ!生まれ変わっても鮭なんかになったら俺は直ぐに首を吊るよ!でも!でも!鮭には手足が無いんだよ!首吊りも出来ないよ!鮭は嫌だよ!可哀想だよ!誰か!誰かぁああああ!


「彩斗!彩斗!しっかりせんかぁ!」


四郎のびんたが飛んできて頬を直撃して俺は正気に戻ったようだ。

鼻からだらだらと血が流れているような感触がするが、なんとか俺は正気に戻り、はなちゃんのお怒りも何とか収まりマンションの崩壊も免れたようだった。


「いささか強く叩いたようだな。」


四郎が俺にティシュを差し出した。


「これで鼻血を拭け。冷やすか?」

「うん、大丈夫。」

「彩斗、今まで言わなかったが、お前は時々頭の中から何か変な物がとめどもなく流れ出る時が有って、われも少し調子が狂う時があるのだ。

 もうちょっと気をつけてくれるか?」

「うん、わかった、ごめんね、気をつけるよ。」

「ごほん、うむ、判れば良いさ。

 ところで明日はあの探偵事務所にわれと彩斗が行き、その後で銀座に仮縫いの様子を見に行くと言う事だな。」

「私は講義が終わり次第はなちゃんの新しいお洋服の手配をするわ。

 それで明後日に明石の所に行くと言う事で良いかしら?」

「うむ、そうだな。

 われは今夜、一応明石のマンションに行き家族で身を隠していないか確かめておくよ。

 あのマンションから移動されては困るからな。」

「そうね、子供がいるから早々簡単に引っ越したりはしないとは思うけど確認はして置いた方が良いわね。」

「真鈴、わらわの新しい洋服を頼むぞ。」

「わかったはなちゃん、ごめんね、悪気は無かったのよ。」

「許してやろう。」

「あのう…はなちゃん。」


俺はおずおずとはなちゃんに話しかけた。


「なんじゃ彩斗。」

「あの~このテーブルとか…椅子の背もたれとか…床のタイルのひび割れとか…直らない?」


はなちゃんはじっと無表情に俺を見た。


「悪いが彩斗、わらわは壊す専門じゃ。」

「はぁ、やっぱりね。」


予想はしていたが俺ははなちゃんの答えにガックリと首を垂れた。


「それにしてもはなちゃん、あれだけ力を使って体のどこの何ともないの?」


真鈴の問いにはなちゃんは両手を動かしたり首を傾げたりした。


「そう言えばどこもひび割れや亀裂は入ってないの。

 彩斗、前より頑丈になったぞ。

 誉めてやろう。

 これからも尽くせよ。」

「かしこまりました。」


という訳で、俺達はガムテープで応急補修をしたテーブルで今後の予定を立てた。

まず今夜、四郎が明石のマンションに行きまだいるのかどうか確かめる事。

明日、俺と四郎で途中四郎の写真を撮り探偵事務所に行って新しい身分証明を手に入れる手続きを進める事。

真鈴は大学の講義の後はなちゃんの新しい服の手配をする事。

明後日は明石と全員で会いに行き、あの外道の事について話し合う事。

岩井テレサについては外道の件が済んでから改めて調べる事。

四郎の報酬や真鈴の給料などについては四郎の身分証明が出来次第正式に取り決めをして会社の約款の書き換えと真鈴との雇用契約を結ぶ事。

それまでのつなぎとして真鈴に30万円の仮払いをする事。

はなちゃんの服に使ったクマのぬいぐるみの代金8万円と新しい服の代金は必要経費で落とす事。

新しい車の選定は時間があり次第急いで進める事となった。

そしてそれらの事と並行して収益物件の選定購入も進めて安定的な収入を確保する事など、そして可能な限り週2日は休みを取れるようにする事と決まった。

この前、四郎に俺達は仕事以上の事をしていると言われたが、休みや報酬の条件などは全く別の問題だと四郎は言い切った。

俺達がすることは色々と盛り沢山にある事が改めて判った。


四郎がコウモリとなって明石のマンションに行き、明石がマンションに滞在している事を確認して俺達は寝た。

なんだかんだで色々あったが午後11時になったばかりだった。


翌朝、午前5時30分に四郎に叩き起こされて俺と真鈴は朝のトレーニングをこなし、シャワーを浴びて朝食を済ませ、真鈴は大学に、俺と四郎は一応スーツを着て時田の探偵事務所に向かった。


「やあ、吉岡君、四郎さん、いらっしゃい。」


吉岡が愛想よく迎えた。

俺と四郎と吉岡でテーブルにつき、おばちゃん事務員がお茶を入れてくれた。


「さて、まず写真をもらおうかな?」


俺は時田に写真を渡した。


「おお、これで大丈夫です。

 それで、これがドナー、四郎さんの新しい身分になる人です。

 年齢は37歳になっているけど、四郎さんの落ち着きの良さを考えたら違和感は無いと思いますよ。」


時田が書類を俺と四郎の前に置いた。

俺がまず書類を手に取った。

四郎の新しい名前は何だろうかと書類の名前の欄に目を通した。


北斗拳四郎


え?


「時田さん…これって本名なんですか?」

「うん、そうだよ。

 ちょっと珍しい名前だけど、名前に四郎と入ってるし、近しい家族は全員死亡しているし、犯罪歴も無いし、借金は清算済み、本人は金を渡されて新しい身分を手に入れて海外に出ているからね、どこからも発覚する可能性が無い申し分ないドナーだよ。」


北斗拳四郎…


目立つ、目立ち過ぎないか?


北斗…拳四郎…





続く





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