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吸血鬼ですが、何か? 第4部 人間編  作者: とみなが けい
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自分や仲間の命を守るため以外に人を殺しちゃ駄目…そして、はなちゃんの壮絶な過去…

俺達は吐き気を押さえ、パソコンを叩き壊す衝動を抑えながら何とか動画の犯行全部を見た。

俺と真鈴は画面から、音から読み取れるヒントを何とか読み取ろうとメモを片手に全ての残虐な殺人を見届けた。

被害に遭ったのは女の子が7人男の子が3人だった。

いずれもひどい暴力を受けた後で性的暴行を受け、ナイフもしくは鈍器で殺害されていた。


「…ふう…」

「なんとか…全部見たな…」

「彩斗、真鈴、食欲が無いかも知れないが夕食を食べようか?」


いつになく優しく四郎は俺達に尋ねた。


「いや、四郎。

 先にトレーニングしましょうよ。」


真鈴が答えた。

俺も全く同意だった。

食事を摂る事よりも今は無性に体を動かしたかった。


「俺も同感だよ。

 トレーニングしよう。

 それから夕食、食べ終わったら、あのくそ忌々しい動画から読み取った情報をまとめようよ。」

「よし、そうしよう。

 着替えて日本間に集合。

 準備体操をしてトレーニングに出かけよう。」


俺達はトレーニングウェアに着替えて日本間で準備体操をして体をほぐし、10キロのランニング、公園でストレッチをしてマンションに戻って来た。


「よし、日本間でナイフトレーニングだ。」


四郎が紙の棒を手に持って日本間に行った。

いつも通り最初は四郎と1対1で、その後俺と真鈴二人がかりで四郎を襲うと言う訓練を始めた。

いつも息が切れて動けなくなるまで無様なダンスを踊らされて一度も四郎の体にナイフに見立てた紙の棒を当てる事が出来なかった。


最初は真鈴、その間俺はゆっくりとスクワットをしながらそれを見る。

そして、大体5分位で真鈴と交代して四郎に立ち向かう。


「おっと!

 彩斗、今のは中々危なかったぞ。」


四郎が俺の突きを紙一重で優雅にかわしながら、滅多に言わない誉め言葉を言った。


「まだまだ、次は当てるよ。」


滅多に聞けない四郎の誉め言葉を聞いても俺は大して興奮しなかった。

まだまだ、もっと上達しないと、せめて悪鬼じゃなくとも人間相手には、という思いになっていた。

俺と真鈴は何度か交代しながら1対1のトレーニングをした。


そして、俺と真鈴2人がかりで四郎を襲う訓練になった。

四郎を挟んで俺と真鈴はいつしか目線で対話らしき物をする事が出来始めていた。

そして、四郎が誘いでわざと作る隙と、俺か真鈴どちらかのタイミングが良い攻撃を避ける時に生じるほんの些細な隙との違いが判るような感じがして来た。

何度目かのコンビネーション攻撃の後、ついに真鈴の突きが四郎の後ろ右肩に当たった。

その瞬間、ほんの数舜間、四郎に隙が出来た。

俺は四郎の左胸の紙の棒を突き立てた。

俺と真鈴は初めて紙の棒で四郎の体に触れる事が出来た。


「よし!今日の訓練終了だ!

 言っておくがわれは手加減はしていなかったぞ!

 彩斗も真鈴もひよっこのひの時くらいまではこれたようだな。」

「まだやりましょうよ、四郎。」


真鈴がまだ紙の棒を構えたままで言った。


「そうだよ四郎、まだまだ俺と真鈴は動ける。」


四郎は俺と真鈴を交互に見た。


「なるほど、あまり科学的とは言えないが、闘志が少しばかり技術と持久力を向上させたかな?

 しかも君らはその闘志を押さえて冷静に攻撃する事も学んだようだな。

 この前われが見たアニメとかいう物で闘志をこれ見よがしに剥き出しにして強力な相手を倒すなんて代物を見たが、あれは完全なおとぎ話だぞ。

 闘志むき出しにすると余分な力が入り体の動きが鈍くなり力を100パーセント出すことも難しくなるのだ。

 闘志に引きずられるな。

 闘志を見せびらかすな。

 闘志を制御して体が自由に動く事に気を配れ。

 相手に悟られないように闘志を隠して猛烈に攻撃するんだ。

 どっちにしろ君らがどれほど威嚇しても悪鬼には通用しないからな。

 人間相手でもそうだぞ。

 下手に威嚇するより的確な攻撃を仕掛ける事が余程に重要なのだ。

 よし、われもさらに本気モードでお二人のお相手しようじゃないか。」


四郎の言葉が終わらないうちに俺は紙の棒を四郎の体に突き出し、同時に真鈴が突き出した紙の棒も両方とも四郎の体すれすれで躱された。


「お坊ちゃんお嬢ちゃん来い!」


俺達はその後、やはり畳に伏せて動けなくなるまで四郎を追ったが紙の棒を四郎の体に触れさせる事は出来なかった。


「夕飯を温めて置くぞ。

 シャワーを順番に浴びて来い。」


四郎はキッチンに向かった。


「せめて人間相手なら私達でも問題無く制圧できるようになりたいよ。」

「真鈴、まったくその通りだよ。

 もっと上達しないとね。」


俺達はがくがくと震える筋肉に苦労しながら立ち上がり、真鈴はバスルームに、俺はダイニングに向かった。

俺がダイニングでタバコを吸っていると真鈴がシャワーを終えてダイニングにやって来た。

俺はシャワーを浴びて汗を流した。

そして四郎は俺と真鈴に先に夕食を始めろと言い、シャワーを浴びに行った。

俺と真鈴は口数少なく、そしてあの動画を見た時のメモを見ながら夕食を摂った。

やがて四郎もシャワーを済ませて夕食に加わった。

夕食が終わり、俺達はコーヒーを淹れてリビングのソファに座った。


「さて、まず犯人は二人組と言う事で間違いは無いな。」


四郎が確認した。


「そうね、他の人間は存在しないと思うよ。

 あの鬼畜の二人組だね。」

「あの動画に出ている奴が子供をいたぶって殺した後でスマホで撮影してる奴が子供の遺体に…」


そこまで言って真鈴が唇を噛んだ。

俺も動画の中で子供をいたぶり殺しながら犯した外道がカメラに向かって死体しか犯せないチキン野郎とからかい、カメラ側の声が、俺はじたばた邪魔されると勃起しねえんだよ、死んだ後なら好き勝手に壊せるじゃねえかと言う胸糞悪くなる会話を思い出して顔をしかめた。


「もう1人の奴は遺体に興奮するんだろうな。」

「私、明石が殺したのはあの屍姦野郎でいて欲しいわね。

 もう一匹の外道野郎を私達で片をつけたいわ。」


真鈴の言葉に俺も四郎も無言で頷いた。

あの思い出したくも無い容赦無い暴力をそっくりそのままあの外道に返してやりたい。


「でも…私達で殺しちゃいけないと思う。

 奴を殺したい、お願いですから殺してくださいと泣き叫ぶような目にあわしてからじわじわと殺してやりたいけど…でも、私達が殺しちゃいけないと思う。」

「確かに…真鈴の言う通りだと思う。

 うまく言えないけど…俺達が奴を嬲り殺して、俺もそうしてやりたいけど…それをしたら俺達も奴らと同じレベルに落ちると思うんだ。」


それまで沈黙をしていたはなちゃんが口を開いた。


「わらわもそう思うぞ。

 殺された復讐で相手を殺して良いのは殺された本人だけじゃ。

 そして正当な権利で相手を殺した者でさえ、命を奪った代償に天に上がれないのかもと思うのじゃ。

 たとえ正当な権利でも、同族を殺した者はその罪を背負う事になると思うのじゃ。」

「はなちゃん…」

「わらわはあの動画を見た時にわらわが人間としての終わりを迎えた時のことを思い出した。

 わらわの家族、父御も母御も兄者も姉者も、そしてわらわの妹も、使用人たちも全員、屋敷に押し入って来た賊共にあのような地獄のような目に遭わされたのじゃ。

 ある者は散々に斬られて虫の息になっておるのに止めも刺されず、ある者は犯され、ある者は生きたまま臓物を引きずり出され、ある者は生きたまま火で焼かれ、わらわの妹は足を掴まれさんざん庭を引きずり回された後で木の幹に頭を叩きつけられて死んでしまった…」

「酷い…」

「はなちゃん…そんな目に…」

「わらわはわらわの家族が全部死に絶えるのを顔を掴まれて無理やり全部見せられた。

 そして、髭面の賊が笑いながらわらわの首を絞めたのじゃ…わらわは事切れる瞬間に、わらわの首の骨が折れる音を聞きながら復讐を誓った。

 こいつらを全部、もしも時間がかかって本人共が先に死んだら、その一族郎党を皆殺しにして根絶やしにしてやろうとな…誓ったのじゃ。」

「…」

「…」

「わらわは子供の時から死霊が見えた。

 話すことも時々出来た。

 もともとそう言う資質があったのかも知れんの。

 わらわの親族全てが、時間がかかった者も中にはいたがやがて天に昇っていった。

 わらわは一人怨霊となって屋敷に入り込んだ賊全てを根絶やしにした…50年ほどかかったがな…そしてわらわは天に昇らず、いまだに現世にいるのじゃ。

 もう気が遠くなるほど現世をさまよっているぞ、その間、困っている人を助けた事もあるし、神と崇められた事も有ったが、いまだ天に昇れずにいる。

 彩斗も真鈴も、自分や仲間の身を守るために仕方が無い限り同族を殺してはいかんのじゃ。」


俺達は今まで知らなかったはなちゃんの壮絶な過去を知り、言葉を失った。


「はなちゃんの言う通りね。

 やはり残った奴を殺すのは無し。

 警察に捕まるようにしましょう。

 …でも、はなちゃん、死なない程度に痛めつけるのは駄目?

 それくらいも許されないのかしら?」


はなちゃんは真鈴を見上げて手を振った。


「いやいや真鈴。

 まぁ、あれだけの事をしでかした奴じゃからの。

 目玉を抉り取るなり金玉を叩き潰すなり両手両足をへし折るなりおでこに肉と落書きするなり死ぬ一歩手前くらい痛めつける分には構わんじゃろ。

 それくらいは神も多めに見てくださると思うぞ。

 今まで家族や大事な人を殺されてそのくらいの復讐をした者で死後に天に昇った者を沢山見ておるからな。

 もっともわらわは正真正銘本物の、大元の神と言うのを見た事は無いがの。」

「それは良かったわ。

 死なない程度ならオッケーなのね。」


はなちゃんの言葉を聞いて真鈴は実に凶悪な笑顔を浮かべた。

俺は真鈴の笑顔を見ても恐くなかった。

きっと俺も真鈴のような笑顔を浮かべていたはずだからだ。


その後俺達は奴らの殺しの周期や2人の役割などを調べ、動画のメタデータから犯行が行われた大体の場所を割り出した。

だが、殺した子供たちの遺骸をどうしているかは動画からは判らなかった。

そして、真鈴が写してきた写メの中で冷蔵庫に張り付けられた小さなカレンダーに『パパお出かけ朝早くから夜遅くまで』と書かれた日付けを見つけた。

これはもしや残る1人を殺す予定ではないかと俺達は思った。

日付は今から3日後になっていた。


俺達は明日か明後日までに明石と会って説得しなければならない。

そして俺は明日、四郎の身分証明を取るために探偵事務所に行かなければならない事を思い出して四郎に告げて、四郎と真鈴から言うのが遅いとこっぴどく怒られた。









続く

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