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吸血鬼ですが、何か? 第4部 人間編  作者: とみなが けい
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はなちゃんの修理完了!真鈴がはなちゃんに新しい服を作ってあげたよ!

はなちゃんの塗装は完璧に乾いた。

俺ははなちゃんに改めて話しかけてみた。


「はなちゃん、はなちゃん、体の具合、どうかな?」

「おお、彩斗、すこぶる調子が良いの。」

「それは良かったよ。

 はなちゃんが寝ていたようでその間に直したよ。」

「そうかそうか、わらわは何やら変な夢でも見ていたのか、今まで見た事も無い面白い情景が目の前に浮かんでな~、気分がウキウキしていたぞ。

 彩斗が体を直してくれたのだな?

 誉めてやろう。」

「それは光栄だよはなちゃん。

 …あと、変な夢を見た事はあまり真鈴に言わないでね。」

 

 はなちゃんはじっと俺の顔を見つめた後でこくりと頷いた。


「まぁ、彩斗は何か隠したい事があるようじゃが、変な夢の事は真鈴には言わないでおこうかの。」


俺はほっとした。


「ありがとうはなちゃん。

 真鈴がはなちゃんに新しい服を用意してるってさ。」

「それは楽しみじゃな!らりらり~!」


はなちゃんがらりらり~!と言った後で含み笑いのような表情を浮かべて俺を見上げた気がしてぞっとした。

はなちゃんを抱えてリビングに戻ると真鈴がはなちゃんを待ち構えていた。


「彩斗、はなちゃん乾いた?」

「うん、もう大丈夫。

 体も元通り…どころか前より頑丈になったと思うよ。」


真鈴がはなちゃんを抱きとり笑顔で話しかけた。


「はなちゃん、もう大丈夫?

 少し身が詰まったのかしら?

 重くなった感じがするわね。

 手足や頭とかちゃんと動く?」


はなちゃんが片手を上げて真鈴に答えた。


「もう大丈夫!

 体の調子も元通りじゃの!

 彩斗に感謝してやっても良いぞ!」

「うわ~良かった~!

 彩斗、褒めて遣わすぞ~!」


キッチンで料理を一段落終えた四郎がナッツバーを何本もむしゃむしゃと食べながら真鈴とはなちゃんを笑顔で見ていた。


「彩斗、やるじゃないか!

 なかなか便利な特技があるんだな。

 われも感心したぞ。」

「いや~それほどでも…四郎、食時の前にそんなに食べて大丈夫なの?」

「うむ、左手の修復にかなり血やエネルギーを使ったからな。

 そろそろ食事も出来上がるが待ちきれないで食べているぞ…しかし、われは明石のパソコンのデータが気になるな。」

「俺も早く見たいよ。

 食事の前に見てみる?

 食欲無くすかも知れないけどね、音声付きで見て確かめたいよ。」

「私も何を見て明石が激怒したのか知りたいわね。

 でもその前にはなちゃんが素っ裸だからちょっと待って。」


リビングのソファに座った真鈴ははなちゃんを抱えて中身を抜いたクマのぬいぐるみの背中のジッパーにはなちゃんの足を入れ、そのまま胴体を入れて両手をクマのぬいぐるみの手に入れてはなちゃんをすっぽりクマのぬいぐるみに中に入れるとジッパーを上げ、ハサミで切り取った顔の部分からはなちゃんの顔を出した。

そして、はなちゃんの顔周りをチェックして少し鋏を入れて調整をした。


「うん、こんな物かな?」


真鈴がリビングのテーブルにはなちゃんを立たせた。

キッチンにいる俺と四郎からはなちゃんの後ろ姿が見えた。

それは何と言うか、クマのぬいぐるみの中身の綿を抜いたので心なしかスリムに見える。

後ろ姿を見ていると昔どこかのデパートとかに出没した頭でっかちのチープな着ぐるみのようだった。


はなちゃんをじっと見ていた真鈴も気になったようで背中のジッパーを開けて抜いた綿を細かく千切りながら中に押し込んでいった。


「真鈴、少し窮屈じゃな。」

「はなちゃん我慢して、少しシルエットを矯正するからね。」


そう言いながら真鈴は割り箸を持ってきてジッパーから中に差し込んで綿を全体的に均一に行き渡るよう押し込んでいった。


「真鈴、少し動きにくいの。」

「我慢して、もうすぐ終わるから…よし!こんなもんかな?」


綿を詰め終わった真鈴がジッパーを上げてはなちゃんから手を離した。

はなちゃんのシルエットはふっくらとしたクマのぬいぐるみに戻った。


「真鈴、済んだか?」

「うん、はなちゃん、新しいお洋服買うまでこれでいてね。」

「わかったぞ、彩斗、四郎、どうだ?

 可愛いか?」


はなちゃんがキッチンにいる俺と四郎に向き直った。

四郎が口の中のナッツバーを噛む動きが止まった。

俺もコーヒーを飲もうとした手が止まった。


「え~と…何と言うか…え~と…。」

「ゴホン!うむ…なかなか…その…。」


俺も四郎も言葉に詰まった。

想像してほしい。

可愛いクマのぬいぐるみの顔の部分だけがリアルなビクスドールの顔になっているのだ。

正直に言って…キモイ、はっきり言って気持ち悪い。

昔キューピーのコマーシャルで、たらこの着ぐるみを着たキューピーの気持ち悪さが『1キモいキューピー』だとすると、今のはなちゃんのキモさは優に『6・8キモいキューピー』と言える。


はなちゃんが顎を上げ、白目気味に俺達を見た。

『8・5キモいキューピー』に数値が跳ね上がった。


「なんじゃ?

 なんか、顔が引きつっているようじゃが…」


真鈴が取り繕うようにはしゃいだ声を上げながら立ち上がった。


「ちがうよ~!はなちゃん!

 あまりにも今のはなちゃんが可愛く見えるから四郎も彩斗もびっくりしてるんだよ~!」


…嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁ~!


真鈴もこの試みが失敗しているのを絶対に自覚している!

自分の試みが失敗して何か気持ちが悪いはなちゃんを生み出してしまった事を自覚してる!

あの必死な笑顔、あの妙に裏返った声、今にも変な振り付けで踊り出しそうな手足の動き。

その全てが真鈴がはなちゃんを見た時の感情が俺と四郎の感情と完全一致して、それを何とか取り繕おうとしている事がありありと判った。


「はなちゃん!可愛いよ!似合うよ!凄いよ!

 気持ちわ…気持ち良いよ!見ていて癒されるよ!

 はなちゃん最高だよ!

 は、な、ちゃん!

 は、な、ちゃん!

 は、な、ちゃん!」


真鈴が小刻みに飛び跳ねながら変な踊りを始めた。

踊りながら真鈴は必死の笑顔のまま、俺と四郎に視線を送ってこの狂乱な踊りに加わるように懇願していた。

テーブルの上で仁王立ちのはなちゃんは猜疑心を浮かべた視線で踊る真鈴を見つめている。


やがて四郎がため息をつき、小刻みに飛び跳ねながら「は、な、ちゃん!は、な、ちゃん!」と言いながら引きつって笑顔で飛び始めた。

そして茫然と突っ立っている俺の脇腹を肘でつついた。

俺が横目で見ると四郎が笑顔のまま血走った横目で俺を見返し、お前もやれ!という感じで顎をしゃくった。

仕方なしに俺も「は、な、ちゃん!は、な、ちゃん!」と声を上げて引きつった笑顔で飛び始めた。


俺と四郎と真鈴の3人でリビングのテーブルの周りを廻りながら踊りながら、はなちゃんコールを続けた。


初めは無表情で俺達を見ていたはなちゃんは段々と小刻みに跳ね始めた。

そして、いつしか俺達に合わせて声を上げて飛び始めた。


「まるで盆踊りみたいじゃの!

 たのしいの!

 そうかそうか、わらわは可愛いか!」

「はなちゃん!可愛い!」

「はなちゃん!可愛い!」

「はなちゃん!可愛い!」

「わらわは可愛い!」


踊っているうちに楽しくなって来た。

飛び跳ねて踊るはなちゃんもだんだん可愛く見えて来た。

俺達は暫くはなちゃんを囲んで踊った。

俺の両親が今の俺を見たらきっと泣くだろう。

やがて真鈴が息をゼイゼイ切らせながら踊るのを止めた。


「はなちゃん、可愛いのが判ったでしょ?

 じゃあ、今日吸い上げた明石のパソコンのデータを見ましょうか!」

「うむ、そうじゃな!

 可愛いわらわも明石のデータを見て見たいぞ!」

「そうだね!データを見よう!」

「うむ!そうだな!コーヒーのお代り淹れよう!」


俺はほっとして自室からパソコンを持ってきてテーブルに置いて開いた。

その間に四郎はナッツバーをむしゃむしゃ食べながらコーヒーのお代りを淹れ、真鈴はクマのぬいぐるみの残りの綿と切り取ったクマの顔を片付けた。





続く



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