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吸血鬼ですが、何か? 第4部 人間編  作者: とみなが けい
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明石の部屋に潜入…嘘だ嘘だ嘘だ!なぜ明石は速い?汗…

エレベーターを降り地下駐車場に出ると自然と俺の視線は駐車場の隅に行った。

若い男は見えなかったのでほっとしながらランドクルーザーに乗り込んだ。

バッグと真鈴のブーツと戦闘服のジャケットを助手席に置き、四郎ははなちゃんと日本刀を抱えて後部席に乗り込んだ。

時計を見ると3時45分。

真鈴を駅のロータリーで拾って家族連れの悪鬼のマンションまで4時10分くらいには着くだろう。


「彩斗、今は隠しようが無い物騒な物を積み込んでいるから安全運転で行ってくれ。」

「うん、判った。

 四郎、他に何か判った事はある?」

「ああ、奴の名前は明石景行あかし かげゆきだとは判ったぞ。」

「明石…聞いた事はあるね。」

「ああ、われでも知ってる。

 関が原や大阪の陣で豊臣秀頼についた武将だな。

 もっとも下の名前は確か全登とか…違った気がするが。」

「まぁ、ありきたりと言えばありきたりな名前かな?」


ロータリーでは真鈴が待っていて助手席に乗り込んだ。


「お待たせ、間に合いそう?」

「充分余裕があると思うよ。

 ただ、部屋の中に入ったらテキパキこなさないといけないと思うよ。」

「わらわがいれば奴が1里以内に来ると判るから大丈夫。」


ブーツに履き替えながら真鈴が後席のはなちゃんに顔を向けた。


「え~!はなちゃん、そんなことも判るの?

 凄いんだね~!」

「もっと褒めても良いぞ~!」


はなちゃんが白目を剥いて顔をかくかくさせた。


「そうなんだよ、はなちゃんは悪鬼が1里、4キロ以内なら確実に、2里、8キロ以内なら大体どこにいるか判るんだってさ。」

「彩斗、われもそんな話は聞いてないぞ。

 しかし、それは心強いな。

 われはせいぜい100ヤードで気配を消していなければ何とか判るかな?という程度で気配を消されたら直ぐ近くにいても中々判らんからな。」

「そうだね、だから落ち着いて作業を進めよう。」

「彩斗隊長、よろしく頼んだわよ。」

「かしこまりました。」


戦闘服のジャケットを羽織って足元のバッグから催涙スプレー、スタンガン、をポケットに入れ、子猫ナイフをベルトに挟むと真鈴は髪を纏めてゴムで縛った。

俺よりも四郎や真鈴がずっと隊長に的確だと思いながら車を走らせた。


「ほかに何か奴の事が判った?」


革の棍棒をパンツのポケットに押し込みながら真鈴が尋ねた。


「ああ、奴の家族の名前も判ったな。

 奴の妻が圭子、娘が司と忍と言うのだ。」

「それにしても明石…気になるわ。」

「真鈴、大阪の陣の武将の事を言いそうになってるね。」

「うん、明石全登の事でしょ?

 でも、景行か…どこかで聞いたことあるわね。

 まぁ、良いか。」

「四郎、それで侵入するのはこの前話した手順で行くの?」

「そうだな、まずわれがカラスに変化して地下駐車場に行き、明石の車があるかどうか調べる。

 明石が出かけていたら階段の柵の隙間から1階のエントランスに入って中から開ける。

 彩斗達ははなちゃんに監視カメラの向きを変えてわれらが映らないようにしてもらい、われが中から自動ドアを開ける。

 そして非常階段でわれは人間の姿に戻り服を着て日本刀を差して階段を上り明石の部屋に行く。

 そしてはなちゃんにカギを開けてもらう。

 彩斗は明石のパソコンから映像データを吸い取る。

 そしてすべてを元に戻して退散と言う所だな。

 彩斗、データを吸いだすのにどのくらい時間がかかる?」

「何分かあれば充分だよ。

 余裕を持って10分以内。」

「それなら大丈夫かな?

 何かあっても明石は窓からは入れないからわれは玄関を警戒すれば良いな。

 真鈴はその他情報収集をして欲しいがわれらが侵入したことを悟られないように注意と言う所だな。

 はなちゃんはマンションの周りを探ってもらい、万が一明石が戻ってくるような事があったら知らせてくれ。

 以上。」

「はい!四郎隊長!」


俺は元気よく答えた。

やはり隊長は四郎だな。


「玄関だけじゃなくて階段や廊下にも監視カメラがあるかも知れないからはなちゃんに見張ってもらわないとね。

 ドアを開ける時はこういう物で用心しましょう。」


真鈴が金属の棒の先に小さな丸い鏡をつけたものを取り出した。


「真鈴、何それ?」

「えへへ、サーチミラーと言ってね、前に映画で見たのよ、特殊部隊が部屋や建物の角やドアの隙間からこれを入れて様子を窺うのよ。」

「へぇ、凄いね。」

「これ、一度使って見たかったのよね。

 高校時代に作ったのよこれ。」

「ほほう。」


真鈴がサーチミラーをポケットを入れた。


やがてランドクルーザーはマンションの裏手の道についた。

車の通りは激しくないが道が広く、ちらほらと車が駐車している。

途中で渋滞に捕まったが時間は4時25分、まだ時間は充分に余裕がある。


「ここならまず大丈夫だと思うよ。」

「よし、われがカラスに変化して地下駐車場に行き明石の車があるかどうか調べるぞ。

 奴の車が無かったらカァカァ!と2回鳴く、もしも奴の車があれば激しく鳴き喚くからその時は撤収するぞ。」

「明石とやらはここから半里は離れているから大丈夫だとは思うの。

 だが、用心はした方が良いの。」

「そうだなはなちゃん。

 では行って来る。

 2回われの鳴き声が聞こえたら玄関に来てくれ。

 われの服と日本刀は忘れずにな。」


四郎がカラスに変身して窓から飛び立った。

四郎の後ろ姿を見ながら、俺と真鈴は身につけた装備の具合を確認して車の中で待った。

俺は少しワクワクしている。


暫くして四郎が2回鳴いた。

俺と真鈴は顔を見合わせ指を2本立てて四郎が鳴いた回数を確認すると四郎の服と靴、布で包んだ日本刀とはなちゃんを抱いて車を出るとマンションの玄関に向かった。


「はなちゃん、人目がある所ではしゃべったり動いたりしないでね。

 …明石は近くにいないよね?」

「近くにはいないの。

 真鈴、安心しろ、わらわが見張っているぞ。」


俺達はマンションのエントランスに向かう。

中から中学生らしき女の子が出て来たので端によりやり過ごした後でエントランスを見た。


「はなちゃん、監視カメラの位置が判る?」

「真鈴、もちょっとわらわの顔を入り口に向けよ。」


真鈴がはなちゃんを持った手をエントランスに突き出した。

暫くエントランスを見たはなちゃんが小声で言った。


「あの玄関に3つの監視カメラがあったな。

 全て向きを変えたぞ。

 大丈夫だ。」


俺達はゆっくりした足取りでエントランスに入った。

見上げると確かに部屋の角の監視カメラはアームがぐにゃりと曲がり明後日の方向を向いていた。

オートロックの自動ドアの向こうからカラスに変化した四郎が姿を現した。

俺達は周りを見回して人が来ないか確認しながら四郎を待った。

四郎カラスは床を歩いて自動ドアのマットの上に乗ったが自動ドアは開かなかった。

何度か飛び上がって羽ばたいたがそれでも自動ドアが開かない。

四郎カラスはカァ!と鳴き、そして人間の姿に戻った。

全裸の四郎の体に反応して自動ドアが開いた。


「彩斗、早く服をよこせ!」


全裸で股間を押さえた四郎はエントランスの端により小声で言った。

俺は服を抱え、真鈴は顔を背けながら自動ドアを通り抜けて中に入った。

エレベーターが3階から降りてくる表示に気が付いた俺は四郎の腕を引っ張り階段に連れて行く。

真鈴も後を追う。

四郎が階段の陰に隠れた途端にエレベーターが開き、ゴミ袋を片手に持ったスーツの男が出て来た。

男は階段に立つ、はなちゃんを抱いた真鈴の姿を見て一瞬立ち止まったが、真鈴が引きつった笑顔で会釈をすると軽く頭を下げてエントランスを出て行った。


「ふう、やれやれ、四郎早く服を着て!」


男の後ろ姿を見守りながら真鈴は小声で言った。

四郎はトレーニングウェアの上下を着て靴を履き、幅の広い軍用のベルトを腹に巻いた。

そして日本刀を俺から受け取り布から出すとベルトに差し込み、刀のこじりを下げて腰の後ろに回した。


「本当は大太刀を持って来ようと思ったが少し小さめの打ち刀にして正解だな。

 さて、階段を上るぞ。」


俺達は指紋が残らぬように滑り止めが付いた薄手の手袋をはめて、四郎を先頭に階段の角々で警戒をしながら登って行った。

真鈴と俺は監視カメラの有無を確かめながら登ったが、どうやら階段には設置されていないようだ。

遂に5階、明石の部屋の階に着いた。

真鈴はポケットからサーチミラーを取り出し廊下を探った。


「はなちゃん、廊下の隅に監視カメラがあるのよ、手前側と突き当りに一台ずつ。

 判る?」

「真鈴、判るぞ、任せろ…向きを変えたぞ、もう大丈夫だの。」


四郎が用心しながら廊下に顔を出して監視カメラを見た。


「うむ、明後日の方を向いているぞ。

 しかし廊下が長いな。

 誰かが出て来ても慌てるなよ。」


俺達が四郎を先頭に廊下を進んだ。

腰を落とし周りを警戒し、四郎などは刀のこじりに片手を当ててまるで時代劇の忍者そのものの動きだった。

これで誰かがドアを開けて廊下に出たら俺達を見て固まるだろうなと、冷や汗が流れた。

幸い住人は誰も廊下に出る事は無く、明石の部屋の前に着いた。


「はなちゃん、お願い。」


はなちゃんがこくりと頷いて片手をドアに向けた。

微かにガチャリと音がした。

四郎がドアノブに手を掛けて開けようとするのを真鈴が制した。


「待って四郎。

 明石は何百年も用心深く生きて来てるのよ。

 部屋の中も監視カメラや仕掛けが無いかチェックしようよ。」

「うむ、それもそうだな。」


真鈴は慎重にドアを少しだけ開けてサーチミラーを差し込み、中を探った。


「見たところカメラは無さそうだけど…はなちゃん、何か判る?」


はなちゃんがドアの隙間から中を覗き込んだ。


「真鈴、何か視線を感じるな。

 お!あれかも知れぬ。

 何か白い一つ目小僧のようなものがテーブルに乗っているぞ。」


真鈴が改めてサーチミラーを覗き込んだ。


「確かにテーブルの上に監視カメラみたいなのがこっちに向いて置いてあるよ。」

「まずいな、それきっと防犯見守りカメラだよ。

 俺も買おうと思って調べたけど、いい奴だと動体感知や赤外線機能があってスマホに連動してるんだ。

 何か異常を検知するとスマホに連絡が入るな。」


俺が小声で言うと真鈴が爪を噛んだ。


「壊せば明石のスマホに通知が行くと言う事か…どうする?」


はなちゃんが真鈴を見上げた。


「明石は1里くらいは離れているぞ。」

「1里…直線距離で4キロか、明石がカメラが壊されたのに気が付いてもここに来るのに車でも15分は掛かると思うわ。」

「うむ、それなら迷う暇はないぞ。

 はなちゃん、そのカメラを壊せるか?」

「マンションの監視カメラよりもペラペラで柔らかいな、たやすい事だ。」

「では頼む。」

「うむ、任せろ」


はなちゃんがドア越しにカメラがある場所に手をかざした。


「もう大丈夫だ。

 他に視線は感じないの。」


真鈴がゆっくりとドアを開けた。

テーブルの上で白いボディの防犯監視カメラがひしゃげていた。


「ぐずぐずできないぞ、明石の部屋はこの先だ。」


監視カメラを壊してしまったから、もう侵入した事を隠せないので靴を履いたまま四郎を先頭に俺とはなちゃんを抱いた真鈴は明石の部屋の前に行く。

やはりドアを少しだけ開けて真鈴がサーチミラーを差し込んだ。


「見たところ何もないわ。」

「視線も感じないな。」


四郎はゆっくりとドアを開けた。


「待て!四郎!」


はなちゃんが小声で叫び、四郎は足を止めた。


「足元を見ろ。

 何かがあるぞ。」


四郎が足元を見て、むぅ、と唸った。


「四郎、どうしたの?」

「彩斗、マグライトを貸せ。」


俺がマグライトを渡すと四郎は足元を照らした。


俺と真鈴が目を凝らして照らした所を見ても良く判らなかった。

四郎がマグライトを動かすと、四郎の靴の少し先、ほんの微かに線状にきらりと光るものがあった。

超極細のピアノ線が床から10センチほどの高さに張られていた。

四郎がピアノ線に沿ってライトを動かすとピアノ線は壁の警報機に繋がっていた。


「あぶない…これに引っかかると凄い警報音が鳴り響くよ。

 大騒ぎになるな。」

「気をつけて通れよ。

 はなちゃんありがとう、われも気が付かなんだ。」

「巧妙な罠じゃの。

 む!明石は気が付いたようだ、こちらに向かってくるぞ!」

「1里先でしょ?車でもまだ15分くらいは…」

「真鈴、車などより速いぞ!

 ずっと速い!

 しかも殆ど真っすぐに近づいてきておる!

 物凄い殺意を持って近づいてきておるぞ!」


はなちゃんの切迫した声に俺も真鈴も、四郎でさえも顔から血の気が引いた。


「彩斗!急ごう!急げ!」


四郎はピアノ線をまたいでパソコンの電源をつけた。


「彩斗だけ来い!足元に気をつけろ!

 真鈴とはなちゃんは他の部屋を調べて何か情報を探り出せ!

 罠に気をつけろ!

 メモリを吸い上げたらさっさとここを出るぞ!

 出るのが遅れるとここで一戦交える事になる!

 明石は地下の市蔵より数倍強い奴だぞ!

 急げ!」





続く






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