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元首相だけど暗殺されて異世界転生したら陰陽師になった

作者: 御湖面亭

「今回の選挙は何卒、国民統一党に投票ください」


 梅雨が開けそうな蒸し暑さが高まるある日、街頭に立つ男は民衆に向かって声高に叫ぶ。

 彼こそ元首相まで上り詰めた政治家、阿部 万里生(あべ まりお)だ。


 同じ党の若手議員の応援演説に駆けつけた彼は、現役を退いたものの未だ大きな存在感を示している。


「我が国を取り巻く安全保障は、年々厳しいものとなっており――」


 そんな大物政治家を見つめる男が一人。

 存在感を周囲に溶け込ませ、警備に警戒されることなく阿部の背後へ歩を進める。


 あまりにも大胆で、それでいて堂々としている様から、警備はおろか民衆ですら気に留めない。

 まさに道端に転がっている石ころのように、存在しているものの意識が向かないような。


 そして男は阿部にめいいっぱい近づくと、手に持った筒を向けた。

 かんしゃく玉が破裂したような乾いた音が二回響く。


 あたりは一瞬静寂に包まれ、やがてザワザワと違和感に気付き始めた。

 火薬の臭いが民衆の鼻腔に流れた時には、既に阿部は地面に倒れ込んでいた。


 元首相の大物政治家、阿部 万里生の人生は突然幕を閉じた。


――


「奥様、立派な男の子ですよ」


(ここは、どこでしょうか……)


「おお! 我が家にもようやく跡継ぎが」


(跡継ぎ? 私はたしか、新人の応援演説中に暗殺されたはず)


「名は晴明(はるあきら)と名付けよう。我が土御門家の長男にふさわしい名だ」



――10年後


「晴明、今から私と共に帝都ホテルで開かれる会合に同席しなさい」

「はい、父さん」


 ここは帝歴130年の日本。どうやら私は前世で暗殺された後、この世界に転生したようだ。

 転生先は、日本の中心である帝都を魑魅魍魎から代々守ってきた土御門家だった。


 土御門家は表向き政治家一族だが、裏では陰陽師として都を守り続けている。


 私は幼少の頃から政治家の息子として、そして陰陽師の息子として数々の知識と技術を学んできた。

 今日の会合は陰陽師としての父に同行することになっている。


 車で向かった先は帝都ホテル、政府要人御用達で一般人が使うことはほぼ不可能だ。

 案内され和室に入ると、一人の男が先に座って待っていた。


「やあ土御門君。いつも突然呼び出してすまないね」

「いえ、これも務めです。晴明、こちら首相補佐官の大田さんだ」


 大田は温厚な表情をしているが、その視線は相手の素性を丸裸にするかのような鋭いものだった。


「はじめまして。土御門 晴明です。若輩者ではございますが、よろしくおねがいします」

「よろしく。晴明君はもう?」


 大田は視線を父に向けて問いかける。


「はい。私の後継者としてそろそろ出てもいい頃かと」

「そうかい。お父さんの姿をしっかりと見ておくといい。それで、今回の件なんだがね――」


 父と大田は会話を続けた。

 ここ最近、ある新興宗教団体が大量の信者を集めて多額の献金をさせており、政治的にも非常に大きな力を持ち始めている。

 それだけなら政治の力でどうにかなるのだが、その宗教団体は妖魔の力を利用して信者を洗脳しているらしい。

 そこで、父には宗教団体の本拠地を調査し、妖魔がいれば滅してほしいという依頼だった。


「承知しました。では早速その宗教団体の施設へ向かいましょう」



――


向かった先の施設は、いかにも宗教団体が好みそうな異質な雰囲気を出す洋風の建物だった。

教祖の教えを聞きに来たという体で施設内には簡単に入ることはできたが、既に妖魔の雰囲気が辺りを取り巻いている。


「父さん、これ……」

「ああ、どうやら小物ではないらしい」


 奥の教祖の間へ案内されると、部屋の奥に祭壇のようなものが見えた。

祭壇には壺のようなものが祀られている様子だった。


「あそこは御神体を祀っている祭壇なんですよ」


部屋の暗がりから出てきた男は、どこにでもいる小汚い爺だった。


「はじめまして、私が三千世界平和協会の教祖です」


 見た目から教祖としてのカリスマ性は一切感じ取れないが、どこか神聖性を感じる。これが妖魔の力なのだろうか。


「はじめまして、土御門です」

「存じ上げております。我が教は政治家の方も多く入信くださっているのですよ」


 既に政治の世界にも食い込んでいたようだ。言い方からして、政治家だけでなく公安や軍にも影響を及ぼしているのだろう。


「そしてあなたがこの御神体目当てで当施設を訪れたこともね」


 突然耳鳴りとともに視界が歪む。御神体から何やら邪の気が発せられているようだ。


「晴明! 六根清浄!」

「はい!」


 呪力には呪力で対抗する。相手の邪の気を弾く気を体内で練り発散させる。


「ほほう。さすがは土御門家ですね。しかしこれならどうでしょう」


 四方八方から信者が父の方へ集まり、肉の壁となった。


「あなた方陰陽師は妖魔に対しては強力ですが、ただの人間には無力でしょう」

「どうかな。破邪!」


 妖魔の力によって洗脳されているのであれば、それもまた呪力。呪力を取り払うことで強制的に洗脳を解けば信者が何人いようが関係ない。


 しかし、信者たちは動じない。洗脳が解けた気配がまったくないのだ。


「きっかけは御神体の力ですが、信仰は本人の意志です。それを取り除くことなんてできませんよ」


 この信者たちは妖魔の力によって動かされているのではなく、個人の信仰心で動いていた。これでは呪力は意味をなさない。


「さあ! 異教徒の血を祭壇に捧げましょう!」


 信者たちは一斉に父の体に刃を突き立てた。これまで妖魔のみを相手にしてきた父に為す術はなく、妖魔ではなく人間に命を奪われる結果になった。


「さて、土御門家の跡取りよ、あなたはまだ利用価値があります」

「くっ! 青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女」


 刀印を切り周囲の邪の気を一時的に固定する。増やしも減らしもしない、ただ停滞させる。

 これは父の修行の中で編み出した私のオリジナル呪術で、人間を呆気に取る事ができる。


 今の私ではこれが精一杯。今はこの場から逃げることを優先すべきだ。

 だがその前に一矢報いなければ父が浮かばれない。大田より預かった9mm拳銃を御神体に向けて数発の弾丸を撃ち込む。


 9mm弾といえど10歳の体には大きな反動が伝わり、照準がぶれて当たらない。


 呪力を目と腕に注ぎ、一時的に肉体を強化する。これまで呪力は外に使うものと教えられてきたが、死線の中で最も生存確率の高い応用が体を操る。


 再度照準を御神体に向けて銃を発射。一発目は外れたが、二発目で御神体の壺に命中した。


「クソガキが! 御神体になんてことを!」


 御神体の壺を破壊したことで教祖が常軌を逸した反応を見せた。体が雑巾を絞るようにねじれ、血が噴出した。

 そして噴出した血の代わりのように、壺の残骸から滲み出る邪の気が教祖の体に充満してく。


 背筋が凍るような錯覚を覚え、これ以上は対処できないと判断し施設からの逃亡を計る。


「父さん、必ず敵を討ちます」


 私は逃げた。だが恥じいてはいない。前世では逃げるも戦略のうちと何度も野党の質問を避けてきた。

 今回も戦略的に撤退して最後に私が勝っていればいい。そう言い聞かせ施設を後にした。


 今の私ではあの妖魔に勝つことはできない。しかし、将来に渡って勝てないわけではない。

 土御門家の先祖にあたる最強の陰陽師が使ったという呪術「阿部之身玖珠(あべのみくす)」があれば必ず。

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[気になる点] 流石に不謹慎が過ぎませんかね
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