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僕のライバル

作者: ゆうた

 ゆうたが高校生になって初めての試合。千葉第二高校VS小濠高校。第2クォーターが終わり{30-40}、点差は10点だ。「10点差なら逆転できる!」「まだまだ試合はこれから!」ハーフタイムになり、監督やキャプテンの熱い指示が体育館に響き渡っている。自分の実力に自信を持っていたゆうたはこの試合をずっと楽しみにしていた。高校最初の試合で活躍して1年生からチームの大黒柱になってやろうと考えていたのだ。しかし監督から声がかからず、ずっとベンチにいた。相手のメンバーには中学時代チームメイトでありライバルの存在だったりょうたが何本もスリーポイントシュートを決めている。第3クォーターが終わり、第4クォーターが始まった。{45-65}気が付けば点差は20点差に広がっていた。ゆうたは試合中ずっと考えていた。

(なんで俺は試合に出させてもらえないのだろうか。)だんだんとイライラがたまっていく中、第1クォーターから出場し、活躍を続けているりょうたを見て複雑な気持ちになった。(どうしてこんなにも差ができてしまったのだろう。俺の方があいつより上手かったはずなのに…)

 チームメイトだった時にはお互いを高めあっていた仲だったが、今ではりょうたの眼中に自分はいないようだった。試合終了のブザーが鳴った。{60-85}最終的には25点差をつけられて大敗だった。この試合で35点を取ったりょうたは得点王になり、先輩からも監督からも絶大な支持を得ていた。一方でゆうたは最後までこの試合に出場することができなかった。なぜ自分を試合に出してくれなかったのか監督に聞きに行ったが、「自分で考えろ」と試合に負けて機嫌が悪く、何も教えてくれなかった。

 試合が終わり、久しぶりにりょうたと話したくなったゆうたはミーティング後、「一緒に帰らないか。久しぶりに話がしたい。」と声をかけた。しかし1年生ながらすでにチームの中心を担っていたりょうたからは「バスケが下手くそな奴と一緒にいると自分も下手になる。試合に出られるようになってから話しかけてきてくれ。」と言われてしまった。この瞬間、これまでゆうたが積み重ねてきたものがすべて無くなったように感じ、目の前が真っ暗になった。(自分にバスケは向いていないのではないか。)(自分はりょうたの足元にも及ばないのではないか。)今まで自分の才能を過信しすぎていたゆうたは地獄を見た気分だった。そんな事を考えながら、仕方なく1人で帰ろうとしていると校門で先輩マネージャーのみさとさんに会った。「少しついてきてほしい所がある。」と言われたゆうたはテンションが上がらなかったが仕方なくついて行くことにした。向かった先は近くのスーパーだった。落ち込んでいる自分を見て励まそうと「おいしいご飯を作ってあげる」と言って買い物を始めた。

 買い物を終えたみさと先輩は1人暮らしをしている自宅にゆうたを招待した。部活後で汗をかいていたゆうたはシャワーを借り、リビングに戻ると手料理がたくさん並んでいた。おいしいご飯を食べていると「今日の試合どうだった?」とみさと先輩が話題を切り出した。試合に出場できなかったゆうたは「俺が出ていたら絶対に勝てた。」と言い、心に残っていたモヤモヤを全て吐き出した。静かに聞いていたみさと先輩だったが、ゆうたの愚痴を聞き終えると「確かに君の実力は素晴らしいけれど、そのフィジカルやメンタルじゃ千葉第二との試合には出られないよ」と言った。ゆうたはこんなにストレートに言われたことがなかったのでとてもショックを受けた。「どうすればフィジカルとメンタルが強くなって試合に出られるようになると思いますか?」と聞くと先輩は「いつもきちんと栄養の取れたご飯食べてる?」と言った。机を見るとアスリートに必要な栄養がすべて詰まった先輩の手料理が並んでいた。思い返せばゆうたは部活後にお菓子だけ食べたり朝ご飯を食べない日があったりした。さらに、メンタルの弱いゆうたにとってきつくてしんどい筋トレは地獄のようなものでいつもサボっていた。が、それも先輩には見つかっていたようで、「こっそり筋トレをサボってるのも知ってるよ。」と言われた。「実は私、一人暮らししながらジムを経営しているんだけどトレーニングしに来ない?フィジカルも強化されるし、メンタルも強くなるから良いことばっかりだよ!」と先輩はゆうたを誘った。試合にも出られず、先輩に散々ダメ出しされ本気で悔しかったゆうたは即答でジムの入会を申し込んだ。

 次の日、部活終わりにさっそく入会したジムに行くと、幼馴染でバスケ部マネージャーのはなりがいた。もともとバスケをしていて体を動かすことが好きだった彼女はこのジムでバイトをしているとのことだった。ゆうたは少しうれしく思い、その日から一緒にトレーニングを頑張った。そして、ゆうたは覚悟を決めた。「りょうたを追い越すにはあいつの練習量の二倍ではなく三倍、四倍しないと追い越せない」と試合で実感したゆうたは毎朝、練習に誰よりも早く行って、シューティング、ドリブル練習をした。りょうたの学校は私立の学校であり、夜遅くまで体育館を使用できるのだが、公立の学校であるゆうたはあまり夜遅くまで体育館を使用することができない。そこでゆうたはできる限りのことは全力でやろうと、朝の練習に行く前に3キロのランニングをするようにした。さらに、放課後の練習が終わるとジムに行かない日はすぐに家に帰り、近くのバスケットゴールがある公園に練習をしに行くというスケジュールを作った。「無茶なスケジュールだからやめときな」「どうせ続かないだろう」ゆうたの周りの友達から言われた。だが、そんなことは気にならないほどゆうたは強い覚悟を決めていた。久しぶりに再会して、実力の差を実感させられたりょうたの存在がゆうたに火をつけた。ゆうたの中には「りょうたを追い越してやる」という強い覚悟と「もっと練習しなくては追いつけない」「友達の言う通り無茶で実現なんてできないのでは」という不安の気持ちが混在していた。

 そんな曖昧な気持ちのまま、朝練習に行く前にランニングをしていた時、「おい、君」と知らない人に声をかけられた。見た目は40代前後の男性で、身長は自分よりも少し高い人だった。早朝ということもあり、知らない男の人に話しかけられ思わず驚きながら「何ですか!」と大きな声を出してしまった。「急にすまないね、千葉第二高校という学校はどこにあるか知らないかい?」と言われた。ゆうたはまた驚いた。というのも、千葉第二高校はゆうたが通っている学校だったからだ。「知っていますよ、僕が通っている学校ですけど何か用事があるんですか?」というと、「いやー、助かったよ、私はそこで男子バスケットボール部に用事があって千葉第二高校に行きたいんだけど、この辺の土地勘が全くなくて困っていたんだ」と言った。ゆうたは「僕はその学校の男子バスケットボール部ですよ」というと、「おお、それは本当かい?それならまた放課後に会うことになるだろう」と言いどこかへ行ってしまった。どういうことなのかよく分からなかったが、無心でまたランニングを続けた。

 放課後、体育館へ向かうと、入り口あたりに人溜まりがあった。かなり多くの人が体育館の中を覗いていた。ゆうたも同じように覗くと、朝話しかけてきたあの男の人の姿があった。「誰だろう」「まさか不審者!?」「先生呼ぶ?」と周りにいる人達が大騒ぎしていたが、ゆうたは知っていたので「自分知っている人なんで話かけてきましょうか?」と言い、体育館の中へ入って「なんでそこにいるんですか?というか学校の先生に許可もらっているんですか?」と聞いた。「もちろん、許可はもらっているよ。はやく練習の準備をしてもらっていいかな?」と言われた。(なんでこんなに上から目線なのだろう?)と心の中で思ったが、部員たちに「あの人は男子バスケットの外部顧問で学校の許可はもらっているらしいです」「早く練習の準備をしてくれ、とも言っていました」と伝えた。部員達は「すごく上から目線だな」「偉そうな人」とぼそぼそ言っていた。すると、キャプテンが「あの人どこかで見たことがあるような…」といったので「有名な人なのですか?」と聞くと、「俺が想像している人なら、相当すごい人だ!」と言った。体育館に入って練習の準備をし、あの外部顧問の周りに集合した。「今日からこの学校の男子バスケットボール部の外部顧問をすることになった洲鎌といいます、よろしくお願いします」と挨拶をした。すると周りにいた2、3年生が急にざわざわしだした。「洲鎌ってあの」「無名の公立高校を優勝させたあの」。ゆうたは高校バスケに詳しくなかったので、なぜこんなにざわついているのかをキャプテンに聞くと、「洲鎌先生はプレーヤー時代から有名で大学のインカレで最優秀選手賞に選ばれ、プロ、実業団から声がかかっていたが、なぜかプロにならず消えたが何年かたった、現在無名の高校バスケ部を優勝に導いた有名顧問として現れたんだ。」とキャプテンが嬉しそうな顔をしながらいきいきと語り始めた。(そんなすごい監督がなんでこの学校に来たんだ)とゆうたは思った。「洲鎌先生、質問があります」ゆうたがそう言うと、洲鎌先生は驚いた顔をしながら「おお!君は今朝ランニングをしていたあの少年か!今朝はありがとう!それで、質問とはなんだい?」「先生はなんで千葉第二高校の男子バスケットボールの顧問を受けてくださったんですか?」というと「君は私が顧問になるのは不服なのかい?」「いやそんなことは無いんですけど、有名な監督がなぜこの高校に来たのか疑問に思い聞いただけです」「あ~、なるほどね、普通にただの気まぐれだよ」と真剣な表情で言った。すると、また周りの人が「気まぐれでこの学校に来たんだとしたら、俺たちラッキーだな」「‘ただの気まぐれ’って、そんなので移動できることなの?」「あの人は特別なんじゃない?」とまたざわざわしだした。すると、早速「今から練習をするが、その前に一度試合をしてくれないか?」と言われた。「試合をするのは試合に出るメンバー10人と、ゆうただけでしてくれ。ゆうたはAチームの方の交代として入ってくれ。他の出ない選手は審判、タイマー、オフィシャルに入ってくれ」と洲鎌先生が言った。「何だよそれ」「俺らいらないのかよ」「あの先生有名なのにこんな教え方なのかよ」と試合に出れない人たちは文句を言い始めた。一年生で唯一名前を呼ばれたゆうたは不安になった。その様子に気づいた、あゆむが「めったに来ないチャンスなんだ、不安とか先輩に申し訳ない気持ちとか今は忘れて、自信を持って自分のできる最大限のプレーをしてアピールしろよ!」と背中を押してくれた。あゆむは、りょうたと同じ、中学校同じチームだった友達で一年生の中で一番仲のいいやつだ。試合に出たいという気持ちがあるのにも関わらず自分を応援してくれるあゆむにすごく安心し、感謝しかなかった。「しっかり、自分のプレーをしないとあゆむに申し訳ない。今までりょうたに追いつくためにあれだけ練習したんだ、だから大丈夫だ!」と思った。試合が始まり、顧問からゆうたに声がかかる。「大丈夫いける」そう言い聞かせてコートに入った。

 結果はあまりにもひどかった。自分は一年生の中でもできるほうだし、毎日誰よりも練習してきた。だから、選ばれたんだ。そう思っていたのに、何もできなかった、というかむしろ足手まといですぐに交代させられた。その後すぐにはあゆむと目を合わせることが出来なかった。試合が終わり、落ち込んでいるゆうたを気にも留めず、「明日からは今回のゲームを踏まえて、私が考えた練習をしてもらう」と言って洲鎌先生は帰ってしまった。「自分勝手な人だな」「本当に無名高校を優勝させたのか」「メンバーが良かったんじゃない?」など周りの人が言っていたが、ゆうたは呆然としていた。「お前は一年生だろ?あんまり深く落ち込むな」とキャプテンが声をかけてくれた。「今回の試合で色々課題が見つかったからいいじゃん、しかも、二年生がいる中で選んでもらったんだからゆうたは期待されているんだろ」とあゆむも声をかけてくれた。「あゆむ、ごめん何もできなかった。」すると、「ん?何で俺に謝るんだ、お前は本気でプレーしたんだろ?実力確認できたからいいじゃん!」とあゆむは何も気に留めていないかのようだった。

 次の日、「今日から休日は一日練習にする。とりあえず、このメニューをしてくれ」と洲鎌先生から渡されたそのメニューにはほとんどボールを持つ練習はなく、ランニングばかりだった。地獄だった、朝は校舎の外周から始まって体育館の中に入っても走る、走る、走る。

 毎朝のランニングのおかげでゆうたはしんどいが何とか最後まで終えることができた。「やっと終わった」時間は夜の八時をまわっていた。「今日の練習はここまで。体育館で自主練習をしたい人は十時まで残っていいぞ」と言われたが、ほとんどの人が帰り残ったのはたったの8人だった。その中にはAチームの6人とゆうた、あゆむだけだった。この地獄の練習が続き、三年生最後の引退試合が始まろうとしていた。ゆうたはユニフォームをもらった。一回戦目にりょうたの高校と当たることに少し緊張はしていたが、嬉しかった。「絶対にあいつより活躍してやる!」と強く意気込んだ。

 試合当日、ゆうたはコートで試合のアップに入った。りょうたは驚いた顔をしていた。試合が始まり最初のメンバーが出てきた時、りょうたがその中に入っていた。「あいつ、一年生でスタメンかよ」ゆうたは驚きを隠せなかった。試合が始まった。試合は均衡していた。相手が点を取ればこちらもとり、こちらがとれば相手もとる、という試合が続いた。試合時間が5分経過したとき、ゆうたに顧問から声がかかる。なぜだかとても落ち着いていた。自信がついたのか、いつもより良いプレーができた。しかし、点差は開くことなく常に均衡していた。

 均衡が崩れたのは急だった。55対58で相手がリードしている状況で、どちらのチームも限界だった。試合残り時間2分の時、シュートチャンスがゆうたに回ってきた。3ポイントシュートが狙える位置だった。「おれがここで決めて同点にして、次相手の攻めを守って連続で取れば勝てる、2分しかない、というか俺が打ってもいいのか?俺より決めれる確率が高い人が打った方がいいんじゃないか…」そう迷い考えながらフリーのキャプテンにパスをした。一瞬だった、そのパスコースにりょうたが出てきてパスカットをした。そのまま、りょうたはゴールに目掛けて走った。ゆうたは頭が真っ白になった。「俺のせいで負ける、引退試合なのに、しかもりょうたにとられた」必死に走った、あいつに追いつかなければすべて終わると思い、ただ走った。結果は55対60で千葉第二高校は負けた。 

 春、俺たちは学年が上がり高校二年生になった。クラスは二年三組になりあゆむとはなりと同じクラスになった。「やったー同じクラスだね」とはなりが言う。正直嬉しかったが照れ隠しで「そうだね」としか言えなかった。学校生活はとても順調で毎日が楽しい。しかし部活面では去年の悔しさがまだ残っていた俺は、バスケの練習に悔しさをすべてぶつけるように練習した。ランニングや筋トレなどの身体づくりをジムなどで補い、ドリブルやシュート練習、自分でできることはすべてした。はなりからも「無理しすぎだよ」と言われるほどだった。しかし、練習の量とは裏腹に成果があまり出ずに伸び悩んでいた。(どうしてこんなに努力しているのにうまくいかないのだ)ゆうたの気持ちは落ち込んでいた。するとある日、監督から「お前はやり方を間違えている。お前は別メニュー」と言われ紙にびっしり書かれた練習メニューを渡された。(こんな量できない。それにこんな基礎練習ばかり...)と思いつつ練習をする。初日、部活時間が終わりあゆむや部員達が帰る中、まだ特別メニューをうまくこなすことができなかったゆうたは練習が終わっていなかった。「ゆうたじゃーなー」と帰っていく。あゆむ達に腹がたった。しかし日にちが立っていくごとにゆうたの頑張りを見ていたあゆむが「俺も一緒にさせてくれ」と一緒に残って練習をしてくれるようになった。それから部員たちが次々と参加していきその人数は1人、2人と日に日に増えていった。気がついたら部員全員が特別メニューに参加していた。そのおかげか、きつかった練習がだんだんこなせるようになっていた。

 気が付けば季節は変わり俺たちは夏の合宿を迎えようとしていた。夏の合宿では他府県の強豪校が集まり合同練習や練習試合をしていく。しかし合宿の前にゆうたには大きな壁があった。それは「期末テスト」だ。夏の合宿に参加するためには、期末テストで赤点を取ってはいけない。(やばい)バスケしかしてきていなかったゆうたは勉強が大の苦手だった。練習合宿の前に勉強合宿がみさと先輩の家で開かれた。みさと先輩はとても頭がよく、教えるのが上手だった。見る見るうちに勉強がはかどった。そして期末テストを何とか乗り越えることができた。ついに迎えた夏の合宿。去年の練習試合でぼろ負けした俺たちは正直乗り気ではなかった。「はーもうこの季節か」あゆむが言う。しかし他のチームの練習を見て「これは簡単すぎる」と感じた。ゆうた達は特別メニューのせいで、感覚がおかしくなっていた。練習試合でも他の強豪校を相手に全く引きを取らない結果だった。「お前たちならインターハイで優勝狙える」強豪校の監督から言われたその言葉はゆうたを含めチームのやる気をさらに高めた。「やってやるぞ」ゆうたは気合いに満ちていた。合宿が終わり、今までの練習の成果が監督に認められ「ゆうた、お前が新キャプテンだ」と俺はチームのキャプテンに任命された。(努力が認められて嬉しい、けど俺がチームを引っ張っていけるかな)嬉しさと不安が入り混じったとても言葉では表せない気持ちになった。しかし、あゆむを含む部員達はゆうたがキャプテンにふさわしいと疑う予知さえなかった。

 そしてついに、夏のインターハイをかけた地区予選が始まった。(絶対にインターハイに行き、りょうた達にリベンジするのだ)ゆうたはやる気に満ち溢れていた。俺たち千葉第二高校は5回勝つとインターハイに出場できる。俺たちは1回戦2回戦と苦戦する事もなく次々試合に勝ちあがっていき、決勝で『96対63』という圧勝で俺たちはインターハイ出場を決めた。りょうたのいる高校もインターハイ出場が決まったとマネージャーから聞き、俺は久々にりょうたに連絡をした。「インターハイ決まったそうじゃん」するとりょうたが「当たり前じゃ、お前たちとは違う」(相変わらず口が悪いな、今年こそ見とけよ)俺たちはインターハイ出場を決めた次の日からいつもよりもさらにきつい練習が始まった。監督からの特別メニューも2枚に増え、夏の地獄のように熱い体育館で立ってはいられなくなるほど練習に励んだ。(りょうた達にリベンジする)この気持ちがもはやゆうたの気持ちの支えになっていた。あゆむや部員達と共に声を掛け合い励まし、お互いの気持ちを鼓舞しあった。インターハイ前日監督から「今まで見てきた教え子達の中でお前たちが一番強い、明日は絶対に勝てる」そう言われ、なぜか涙が出た。

 そしてついにインターハイ当日。トーナメント表を見るとりょうたのいるチームと戦うには4試合勝ち、決勝まで勝ち進まないといけない事が分かった。

 第1試合目、相手は大阪の強豪校「阪西高校」だ。第1クオーター目、相手の威圧に押されうまく試合を進めることができない。(みんないつもの調子じゃない、まずい)とゆうたが焦っていると、「バン!!」大きな音が体育館中に響いた。はなりがゆうたの背中をたたいた。気持ちがすっと楽になった。「ありがとう」そこからというもののこの試合の流れをつかみ『73対79』という接戦で勝った。ゆうたは79点の内、35得点をたたき出し、キャプテンとしてチームを引っ張ることに成功した。

 第2試合目、相手は北海道の「北海大高校」だ。去年までなら大差で負けた相手だっただろう。しかし練習の成果や前の試合の流れに乗ったのか全クオーターをリードしたまま試合が進み『66対83』という大差で勝利をおさめて今日の試合は終わり次の対戦相手の視察をしに行った。次の相手は今大会優勝候補である愛知の「名古屋高校」だ。高い身長と早いカウンターを持ち味としていて、去年の主力メンバーがほとんど残っている。(俺たち勝てるだろうか)急に不安に襲われた。いてもたってもいられなくなったゆうたは皆が休む中、ひとりシュート練習に励んだ。バスケをしている時だけは不安を忘れることができた。そしてついに迎えた、第3試合。試合が始まった。第1クオーター目相手のペースト威圧に押され『15点差』という点差を離され、会場の雰囲気は名古屋高校に傾き俺たちのチームの雰囲気は最悪だった。第2クオーター目もその点差を縮めることはできず、チームは諦めムードに入っていた。(このままじゃまずい、りょうたと戦う前に負けてしまう)ゆうたも気持ちが折れそうだった。その時、「お前ら、そんなもんやったんか」と試合を見に来ていたりょうたが一言声をかけた。その一言にチームの全員が腹を立て、息を吹き返したようにやる気が戻った。「見とけよりょうた。決勝で戦うのは、俺たち千葉第二高校だ。」そこから嘘のように点差を縮め第3クオーターが終わった時には5点差まで点差を縮めた。そして最終クオーターお互い体力はほとんど残っておらず、エースの点の取り合いになっていた。ゆうたはこの試合ですでに30点を超える点を取っていて優勝候補相手に引きを取っていなかった。終わりの時間が迫ってくる。残り30秒最後の攻撃、ゆうたは相手選手からファールをもらいながら点を決め4点プレーをし、優勝候補を『90対92』という僅差を制した。会場はまさか名古屋高校が負けると思っていなかったため、どよめき一気に千葉第二高校は優勝候補に躍り出た。

 第4試合目、自身に満ち溢れた俺たちは準決勝にもかかわらず『97対77』という圧勝で試合を制し「やっとりょうた達にリベンジできる」そう確信していた。しかしりょうた達は準決勝で負けたという情報ゆうたの耳に入ってきた。「嘘だろ」信じられなかったゆうたは、りょうたに会いに行った。するとそこには車椅子に乗ったりょうたがいた。「ごめんな、ゆうた決勝では会えなさそうだ」りょうたは準決勝の相手に怪我をさせられ、エースの抜けたりょうたのチームは負けてしまったらしい。いつも口の悪いりょうただったが誰にも負けないくらいバスケが好きだった。こんな結果悔しいに決まっている。「ちょっと敵を取ってくる」そうりょうたに言い残し、決勝に向かった。

 決勝戦、バスケをしている人なら誰しもがあこがれる優勝まであと一歩。ゆうたは緊張などしていなかった。去年の悔しさやこれまでしてきた努力、部員全員で頑張ってきた地獄のような特別メニューすべて全力でしてきた。(本当はりょうたと戦いたかった、けど今はチームで優勝)決勝戦の相手はりょうた達小濠高校を倒した宮城県、仙台高校だ。決して弱くはない相手だが、今のゆうた達の勢いを止めることはできなかった。最後まで相手にリードを許すことなく『77対86』というスコアで夏のインターハイを優勝した。チームは試合が終わるとすぐにゆうたのところに駆け寄り皆で泣いた。「ここまでついてきてれて、よく頑張った」これまで笑顔すら見せなかった洲鎌先生がメンバーひとりひとりの顔を見て、言葉を詰まらせながらそういった。先生の目には、いつの間にか涙らしい光の影がだんだん溜まっていくように見えた。これまでの道のりが走馬灯のように流れ全身が震えた。この経験は絶対に忘れないだろう。そして洲鎌先生はたったの二年で千葉第二高校を去ってしまった。部員にはっきり別れを告げることなく次の練習からはもう来なかった。(また突然無名高校に移動して生徒を困惑させるのだろう...)冬の大会でもう一度優勝して、成長した姿を見せられるようにと皆で誓った。表彰式、小濠高校は結局4位という結果で終わり、りょうたの姿はなく1通のLINEだけがゆうたのもとに届いていた。「冬で勝負だ」ゆうたはにやりと笑った。

 季節は変わり冬、ウィンターカップ決勝戦。夏の覇者千葉第二高校と小濠高校の試合が始まった。


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