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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第5章 中原争奪編

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39.曹操の降伏

建安12年(207年)7月 兗州 済陰郡 鄄城けんじょう


 鄄城の陥落後も、曹操はある建物に立て籠もっていた。

 やがて程昱が出てきて交渉が始まったものの、なかなか合意には至らない。

 ただの列侯に降格されることを、曹操が良しとしなかったからだ。


 しかし何度か交渉を重ねるうちに、とうとうヤツも観念した。


「曹操 孟徳だ」

「劉備 玄徳です。ようやくお会いできましたな」

「フンッ、まさか儂が、貴様に膝を屈する日がくるとはな」

「それもまた戦場の習いでしょう。以後は私どもに任せて、ゆっくりお休みなされ」

「……悔しいが、そうするしかないであろうな。約定をたがえることは、なきようにな」

「承知しております」


 ようやく出てきた曹操は、一見すると飄々としていた。

 しかし言葉の端々に悔しさが垣間見られ、はらわたが煮えくり返っているのは間違いないだろう。

 それでも醜態を見せまいとする態度は、さすが英雄の1人といったところか。


 そして曹操の後には、皇帝 劉協にも謁見した。


「劉備 玄徳にございます。陛下にはご不便をお掛けしてしまい、深くお詫び申し上げます」

「良い。こうして穏便に救い出してくれただけでも十分だ。今後もちんの手足となって、働いてくれ」

「ありがたきお言葉」


 劉協陛下は今年27歳になる青年で、聡明そうなお顔をした方だ。

 しかし昔から傀儡にされ続けてきたせいか、どこか自信なさげに見える。


 いずれにしろ俺は、曹操を武力で打ち負かし、天子さまを保護することに成功した。

 それは徐州で記憶を取り戻してから、ちょうど10年後のことだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その日は天子さまたちと簡単な話し合いをしつつ、鄄城の片付けを行った。

 幸いにも曹操の降伏はすばやく広がり、無用な混乱は避けられた。

 その日の内にできることを終えると、俺たちは建物のひとつを貸し切り、ささやかな酒宴を開く。


「プハ~ッ、勝利の後の酒は美味いな!」

「フハハ、まあたしかにそのとおりなのだが、今後のことを考えると、少し気が重いであるな」

「そうだなぁ。これから河北を制圧しなきゃならない」

「大丈夫、大丈夫。俺たちに掛かれば、その辺の雑魚なんて軽いもんよ」

「張飛は気楽でよいのう」

「まったくだ」


 そんな話を関羽や張飛としつつ、俺たちはくつろいでいた。

 実際に河北の制圧は必要なものの、曹操ほどの強敵はいない。

 張飛のことをからかいながらも、わりと楽観的だった。


 すると趙雲が、感慨深げに語りはじめる。


「私が劉備さまに仕えた時、まさか天子さまを直接お支えすることになるとは、思いもよりませんでしたね」

「うむ、儂もだ。しかしそうなったらなったで、難しい問題も出てくるであろうな」

「ああ、曹操どのもそれで苦労したようですね。劉備さまはその辺、どう対応するのですか?」


 黄忠と趙雲が、早くも天子さまとの距離感を心配している。

 それを問われた俺は、素直な気持ちを打ち明けた。


「そんなの、やってみなきゃ分からんさ。だけど譲れないところ以外は、天子さまにお任せするべきだと思っている」

「その譲れない部分とは?」

「基本的には漢王朝を安定させ、民に安寧をもたらすってことだ。それ以外の細かいことは、官吏たちに任せればいいんじゃねえかな」

「なるほど。いかにも劉備さまらしいですね」


 そんな話をしている所に、兵士が飛びこんできた。


「りゅ、劉備さま。北の空に何やら、異変が発生しております!」

「異変だと?」

「おう、なんだなんだ?」


 みんなで外に出てみると、北の空に流星が次々と降り注いでいた。

 無数の星が流れては消え、流れては消えする様は、まさに幻想的である。


「あれは一体?」

「う~む、見事なものだのう」

「そうかぁ? 何か不吉な兆しじゃねえのか?」

「いやいや、そうは思えんな。どちらかというと、我らの勝利を祝っているのではないか?」

「う~ん、言われてみればそうかもしれませんね。凶兆というよりは、吉兆といった方がしっくりきます」

「うむ、そうだな」


 雨のように降り注ぐ流星を見ながら、それぞれに思ったことを口にしている。

 そして俺にとっても、それは吉兆であるように思えた。


「たしかにあれは、俺たちの勝利を祝ってくれてるみたいだな」

「うむ、曹操を降したその日に起きたのだ。天がそれを、よみしてくれているのであろうよ」

「へへへ、ってことは、天が兄貴を認めたってことだよな」

「ハハハ、今後も天子さまを、しっかり支えろってことなんじゃないか」

「なんにしろめでたい話だ。改めて乾杯しようぜ」

「おう、そうしようぜ」


 その後も流星の乱舞を見ながら、しこたま酒を飲んだのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「うぷっ、ちょっと昨日は飲みすぎたな」

「フハハ、まあ、めでたいことがあったのだ。たまにはよいであろう」

「そうだな。張飛みたいに絡まなければな」

「え~、俺そんなに絡んだかな?」

「うむ、いつもどおりだ」


 次の日はさすがに二日酔いで気分が悪いものの、朝から仕事に取り組んでいた。

 すると昼前に、陛下からお茶のお誘いを受ける。


「陛下がぜひ劉備どのと2人だけで、お茶の時間を共にしたいとの仰せです」

「……分かりました。後ほどお伺いさせてもらいます」

「よしなに」


 そう言って去っていく使者を見送りながら、俺は周りに訊ねた。


「俺ひとりだけ来いって、どういう意味かな?」

「さあ、今後のことについて、お話をしたいのではないですかな」

「まあ、そんなとこか。とりあえず身なりを整えないとな」

「そうですな」


 その後、できるだけ身なりを整え、指定の時間に陛下を訪ねる。

 すると想像以上にていねいに対応され、陛下の下に案内された。

 適当にあいさつを終えると、お茶を飲みながらのお話となる。


 最初はなんでもない話から始まり、しばし雑談が続く。

 やがてちょっと間が空いたかと思ったら、陛下がまた語りはじめる。


「ところで劉備よ。昨日の流星は見たか?」

「もちろんでございます。実に見事な光景でしたね。まるで流星が、雨のようでした」

「ふむ、流星の雨、か。言い得て妙だな」

「ええ、さしずめ”流星雨”とでも呼びましょうか」

「ホホホ、それは良い」


 しばし陛下が笑うと、また少し沈黙が訪れた。

 そこで何か言おうかと思っていると、陛下がまた口を開く。


「実はな、昨日の流星雨を見て、思ったのだ」

「はあ、それはどのようなことでしょうか?」

「うむ、そなたに禅譲ぜんじょうをするべきでないかということだ」

「ええっ!」

次回、エピローグです。

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