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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第5章 中原争奪編

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幕間: 曹操は敗北を思い知る

「曹操さま、程昱どのはなんと言ってきているのですか?」

「うむ、劉備は着々と兵を鍛え、樊城の周辺にも支城を築いているとのことだ」

「それではやはり?」

「うむ、もう我慢ならん。ただちに襄陽を攻める準備を進めよ。そのうえで劉備を州牧から解任し、許都への出頭を命じる」

「素直に出頭には、応じないでしょうな」

「ハッ、それがどうした? その時は一気に叩き潰してくれるわ」

「承知いたしました」


 ようやく河北のほとんどを制圧し、袁家もほぼ壊滅に追いこんだはいいが、華南では劉備が一大勢力を築いておった。

 ヤツは徐州と益州の他、荊州と揚州の一部をも支配し、その税収で軍備を増強しているのだ。

 南陽にいる程昱の報告によれば、もはや儂に歯向かうのは時間の問題だという。


 ならばこちらから先手を打って、叩き潰してやるわ。

 できれば河北をもっと落ち着かせたかったが、この状況では仕方ない。

 こちらは孫策の軍勢も使えるから、さほど時間は掛かるまい。



 その後、劉備が支配地の富を収奪し、私腹を肥やしているとして、徐州牧の解任と出頭を命じた。

 そうしたらあの野郎、漢王朝からの離反と、襄陽王の僭称を宣言しおった。

 おまけに儂を君側の奸と断じ、その討伐を呼びかけるほどだ。


 その面の皮の厚さときたら、もう呆れるほかない。

 必ず奴をひっつかまえて、生皮をはいでやるわい。


 儂はかねてから準備していた討伐軍を襄陽へ向け、徐州と揚州へも兵を入れた。

 当然、孫策からも兵を出させ、南北から挟み撃ちにする。

 しかし徐州と九江郡からは、早々に劉備の軍勢は退却し、廬江郡の守りに入ったという。


 しかも廬江郡の守りは想像以上に堅いらしく、ほとんどの攻撃がはね返されてしまう。

 さらに襄陽へ送った10万の討伐軍も、いまだに樊城の守りを抜けていなかった。


 おのれ、劉備め。

 一体、どんな手を使っているのか?


 いずれにしろ、このままでは敵の守りを破れない。

 このうえは兵士をかき集めて、ありったけ前線へ送ってやるわ。

 さすればさすがの劉備も、音を上げるほかあるまいて。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ば、馬鹿なっ!

 襄陽の討伐軍が、後退させられただと?

 おまけに従兄弟いとこの夏侯淵が、敵に討ち取られたという。


 あの、あの剛勇無双の夏侯淵が、やられた?

 儂の掛け替えのない武将が、もうこの世にいないだと?


 くそっ、くそっ、くそっ!

 許さん! 絶対に許さんぞ、劉備!


「荀彧! ありったけの兵力を、南陽へ送るのだ。全力で劉備を叩きつぶせ!」

「落ち着いてください、曹操さま。残念ながら中原の各地で不穏な動きがあるため、南陽へ兵を回す余裕がありません。今しばらく時間が必要かと……」

「しかし荀彧! 夏侯淵が殺されたのだぞ。儂の、大切な親類が……」

「心中、お察しいたします。しかしここは私情を抑え、冷静に判断をしていただきたく」


 そう言って頭を下げる荀彧に、それ以上は言えなかった。

 儂は最善の手段を講じろと命じ、皆を下がらせる。


 今はひとりで、悲しみに浸りたかった。

 夏侯淵よ、なぜ儂を置いていってしまったのだ?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しかしその後も、劉備の攻勢は止まらない。

 ヤツは江東で孫策を打倒したばかりか、討伐軍が籠城する鄧城とうじょうを抜き、南陽の中心である宛にまで攻め寄せた。

 しかも劉備は宛を無理攻めせず、押さえの兵を残して、南陽郡全体の制圧に動いたのだ。


 宛にいる夏侯惇や程昱にこれを阻む術はなく、南陽の諸都市が次々と敵に寝返っていった。

 そしてとうとう夏侯惇たちも、宛を明け渡して退避してきたのだ。


「お役目も果たせず、おめおめと逃げ帰ったこと、まことに申し訳なく。このうえはこの首を――」

「やめい、夏侯惇。夏侯淵だけでなくそなたまで失ったら、儂は、儂は耐えられんぞ。今後も軍を率いてくれ」

「ははっ、この身を懸けて」


 その後、儂は程昱とも話し合った。


「程昱よ、貴殿は劉備とじかに話したと聞くが、どのように感じた?」

「は、あの者、身に過ぎた望みを持ちますが、その実力は侮れません。数多あまたの勇将・賢人を従え、その軍勢は精強。さらに情報を重視しており、我らの謀略にも対抗してきます」

「う~む、それほどか……しかし何か、弱点はあるであろう?」


 儂の問いに、程昱はしばし考える。


「正直いって、ほとんど思いつきませぬ。しかしあえて言えば、領民を大事にしすぎる傾向があるようですな。非情になりきれないとも言えます」

「なるほど。しかし領民を盾にするというのは、あまりに外聞が悪いな。ただでさえ儂は、徐州で大虐殺を行ったと悪評を流されているのだ」

「しかしこの際、徹底的にやるのも手ではありませんかな?」

「う~む、覚えておこう……」


 さすがに領民を盾にするのは、外聞が悪すぎるであろう。

 しかしいざという時は、やらねばならんか?


 いやいや、そんな弱気でどうする。

 気を強く持たねば。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 それからしばらくすると、劉備軍は豫州に侵攻してきた。

 こちらも大軍を投じて対抗したが、とにかく敵は強い。

 鎮西将軍にしてやった関羽だけでなく、張遼や黄忠などの猛将が軍を率いているのだ。


 我らは潁陽えいようで負け、許都も放棄して兗州へ逃げこんだ。

 さらには陳留で最後の戦いを挑んだが、やはり敗北を喫してしまう。

 ほとんどの軍勢を失った我らは、鄄城けんじょうへ籠城するしかなかった。


 そしてその鄄城もとうとう、敵の大軍に囲まれてしまう。


「くそっ、なんとかならんのか?!」

「残念ながら、敵は圧倒的多数にて。外部とも連絡が取れなくなっております。仮に連絡が取れたとしても……」

「まとまった兵力を持つ味方が、ほとんどおらんか。くそっ!」


 忌々しいことに、儂が負けたという噂は、矢のように速く広まっていた。

 おかげで中原の反乱分子が勢いづき、反乱が一層ひどくなっている。

 このような状況では、味方の武将や豪族も、自分の身を守るだけで精一杯だ。

 つまりここでいくら籠城しようとも、援軍は望めないということだ。


「どうする……」

「できる限り敵の攻撃を退け、そのうえで天子さまの名で号令を掛ければ、あるいは……」

「それしかないな。よし、夏侯惇。全力で敵を迎撃せよ。矢玉は惜しむな」

「は、この命を懸けまして」


 こうして苦しい籠城戦が始まったが、敵は思わぬ行動に出る。

 降伏勧告を蹴るやいなや、ふた手に別れて土塁を築き始めたのだ。

 もちろん全力で阻止しようとしたが、敵も周到に準備をしていて、とても止められはせん。


 さまざまな道具を使って、こちらの攻撃を防ぎつつ、着々と土塁を大きくしていくのだ。

 それがほんの2日ほどで城壁より高くなると、すでにこちらの攻撃の優位は失われていた。

 その土塁上の攻撃にひるんでいるうちに、今度は水濠を埋め立てられ、さらに城壁との間にも土を盛られる始末だ。


 城壁の高さが半分以上つぶされると、とうとう敵の総攻撃が始まる。


「多数の敵兵が城壁上へ到達し、制圧されつつあります! 城門を奪われるのも、時間の問題かと」

「城内の主要な建物に立て籠もり、全力で抵抗させるのだ! 必要とあらば、平民を盾にしてもかまわん!」

「「「はっ」」」


 馬鹿な、なんという非常識な戦をするのだ。

 このままでは抵抗したという実績すら認められん。

 このうえは、平民を盾にしてでも抵抗してやる。

 場合によっては、天子すらも……



 天子が滞在する建物に立て籠もっていると、やがてそこも囲まれる。

 劉備はしきりに降伏を勧めてきたが、さすがに強行突入するつもりはないようだ。

 この状況を打開する手段について問うも、重臣たちは誰も答えない。

 しかしやがて程昱が口を開いた。


「私を交渉の使者として行かせてください。私は劉備とも面識がありますので、いくらかはマシかと」

「行って、何を話す?」

「そうですな。天子さまを盾に、この城を退去させるよう、要求いたします。しかしまず受け入れられないでしょうから、後は条件交渉を」

「条件交渉とは、どのようなものだ?」

「さて、それは相手次第ですが、我らの命の保証と、曹操さまの名誉ある扱いが焦点になるでしょう」

「くっ……儂は朝廷の主宰者なのだぞ。それが劉備ごときに、命乞いとはな……」

「それ以上はおっしゃいますな。生きていればこそ、花開くこともありましょう」

「そうだな……交渉は程昱に任せる」

「かしこまりました」


 ここまで来て、劉備ごときに負けるとはな。

 しかしこれも世のならいというやつか。

 このうえは、運命を受け入れるしかないのかもしれん。

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