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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第5章 中原争奪編

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38.最後の交渉(地図あり)

建安12年(207年)7月 兗州 済陰郡 鄄城けんじょう


 曹操は予想どおり、俺の降伏勧告を一蹴してきた。

 そんな状況を確認すると、ただちに俺たちは動きだす。

 まずは遠巻きに城を囲み、攻略に適した地形を2ヶ所えらび、準備を整える。

 それが終わると、我が軍は二手に別れて、前進を始めた。


 大ぶりな盾を構えた歩兵を前に出し、ジリジリと城壁に近づいていく。

 当然、城壁上からはバンバン、矢やら石やらが飛んでくる。

 しかしこちら側も弓矢で応戦しながら、とうとう水濠の手前までたどり着いた。


 ここで我が軍は準備しておいた板塀を地面に突き立て、とりあえずの安全地帯を確保した。

 板塀の表面には獣皮を貼り付けてあるので、火矢を射たれても簡単に燃えることはない。

 そうして確保した空間に、今度は猛烈な勢いで木材や石、土を運びこんだ。


 それらを適度に組み合わせて、味方は着々と土塁を築いていく。

 その労力ときたら、とんでもない規模だ。

 しかし我が軍は少し減ったとはいえ、20万人近い兵士がいる。


 二手に分けても10万人もの人手があるわけで、それが入れ代わり立ち代わり作業するのだから、工事の進みは速い。

 みるみるうちに土塁は大きく、高くなっていった。

 そんな様子を少し離れた所から眺めながら、俺は諸葛亮に話しかける。


「さすが、諸葛亮たちがお膳立てしただけあって、見事なものだな」

「いえ、これも現場指揮官の監督よろしきをもってのことかと」

「そう謙遜しなくてもいいだろう。あの荷車や土掘りの道具は、諸葛亮が考えたそうじゃないか。貴殿はモノ作りの才能があるようだな」

「お褒めにあずかり、光栄にございます」


 実際問題、目の前の土木作業の速度は驚異的なものだった。

 従来の常識からして、何割か増しで早く進んでいる。

 その秘密のひとつとして、諸葛亮が考えた道具類があった。


 例えば資材を運ぶ荷車や、土を掘るための道具などに、見たことのないモノが使われている。

 それらは諸葛亮が研究を進めるうちに、考え出したものだそうだ。

 さらに土塁を築く工法や手順についても、よく考えられており、より効率的に工事が進んでいた。


 一方、鄄城に籠もる敵兵も、ただ指をくわえて見ているはずがない。

 しきりに矢を放って邪魔をしようとするし、時には投石機によって人頭大の石を飛ばしてくる。

 もっとも、投石機の命中率は高くないし、こちらも盛大にお返しをするので、敵の攻撃は続かない。


 そうこうするうちに、どんどん土塁が大きくなっていくのだから、敵も驚いているだろう。

 かといって、城内からできることは限られており、それを阻む術はない。

 その結果、わずか2日ほどで、敵の城壁を超える高さの土塁が、完成していた。


 こうなると投射武器による戦闘は、こちらが俄然有利になる。

 高い位置から撃った方が威力は高いし、身を隠す防壁もあるのだ。

 逆に敵は撃ち上げねばならないし、身を隠せる部分が大幅に減ってしまう。


 もちろん敵側も盾を立てたり、櫓を増設するなどして対抗していた。

 しかし限られた城壁上の空間では、そんな努力にも限りがある。

 しかもより高い位置から、ひっきりなしに攻撃を加えられるのだから、敵兵はたまったものではないだろう。


 おかげで数日間の攻防で、敵に疲弊感が見えてきた。

 さらにその間も、土木作業は続けられていた。

 敵が土塁上からの攻撃に苦慮している間に、まず水濠を埋め立てた。


 これだけでも城壁に取り付きやすくなっているのだが、さらに土塁と城壁の間にも、続々と土が積み上げられていく。

 みるみるうちに城壁の高さが無効化されていくのを、敵兵は満足に邪魔もできないのだ。

 さぞかし歯がゆい思いをしていただろう。


 そして作業を始めてから4日後、我が軍は総攻撃に移った。


「野郎ども、突撃だ~!」

「「「おお~~っ!」」」


 魏延が指揮する決死隊が、一斉に城壁へ押しかける。

 城壁と土塁の間は大きく埋め立てられ、城壁との高低差はほんの3歩(約4メートル)足らずに縮められていた。

 それぐらいであれば短いハシゴで登ることができるので、攻撃される時間も少ない。


 さらに土塁上から全力で支援射撃がされるため、敵からの抵抗も弱い。

 結果、魏延たちはあっけないほど簡単に、城壁上を占拠した。

 その後も続々と兵士が登っていき、さらに城内へなだれ込んで、城門を開けはなつのだ。

 曹操軍にそれを止める力は、すでになかった。


「どうやら趨勢すうせいは決したようだな」

「ですな。問題は曹操が素直に降伏するかどうか、ですが」

「だよなぁ。まあ、それはじっくりと交渉してみよう」


 こうして鄄城の陥落は確実となったものの、俺たちにはまだ問題が残っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 城壁の無効化自体は成功したが、その後の攻略は簡単に進まなかった。

 なにしろ城内にはまだ数万の兵力があったし、漢の高官や名士も多くいる。

 そんな奴らがあちこちで建物に籠もって、抵抗するもんだから、けっこう手を焼かされる。


 しかも誰が考えたのか、領民を肉の盾にして、攻撃を阻もうとする連中までいた。

 そのあまりの悪辣さに、俺たちは呆れたが、硬軟織り交ぜての交渉を進める。

 中には血が流れる場合もあったが、多くの領民を救うことができた。

 逆にこの非道なやり方を広めることで、投降してくる兵士もいた。


 そんな掃討作戦を進めていくうちに、とうとう曹操の居場所も突き止めた。

 あいつは案の定、天子さまを人質に取って、立て籠もったからだ。

 こうなると俺たちはその建物を遠巻きに囲んで、降伏を促すしかない。


 それでも曹操はだんまりを決め込んでいたが、さすがに3日も囲んでいると、使者が出てきた。


「お久しぶりですな、劉備どの」

「ああ、久しぶりだな、程昱どの。ところで天子さまはご壮健かな?」

「それはもちろん。我々も十分にお世話をしております。しかし現状のように建物に押し込められることに、天子さまもご不満を漏らしております」


 そう言ってきたのは程昱だ。

 俺と面識があることを買われ、交渉を命じられたのだろう。


「そうであろうな。俺も天子さまには、ご自由にしてほしいと思う。そこで曹操どのには、速やかに降伏していただきたいのだがな」

「それはできぬお話です。なぜ天子さまを支える曹操さまが、降伏などせねばならないのでしょうか。劉備どのの方こそただちに軍を引き、曹操さまの慈悲を乞うべきではありませんか?」


 ここぞとばかりに強気に出る程昱は、さすがと言うべきか。

 しかしなんの実態も伴わない高言は、いっそ滑稽ですらある。


「ハハハ、いかに虚勢を張っても、なんの意味もないぞ。曹操どのの軍勢は負け続け、残るはここにいる兵士ぐらいのものだ。中原の諸勢力にも、すでに見限られているであろう?」

「そんなことはありません。曹操さまが号令を掛ければ、たちどころに各地から援軍が駆けつけましょう」


 程昱はなおも虚勢を張るが、それは誰の心にも響かなかった。

 むしろ周りにいる者たちの失笑を買うほどだ。

 そんな程昱を見かねて、陳宮が助け舟を出した。


「もうそれぐらいにしておきませんか? ただ時間をムダにするよりも、現実的な交渉をするべきかと」

「……時間のムダとまで言われるのは、心外ですな。しかし何を言っても信じてもらえないのなら、もう少し現実的な話をいたしましょうか」

「そうですな。して、曹操どのは何をお望みで?」

「天子さまと共に、この城を退去させていただきたい」

「論外だ」

「まったくですな」


 程昱がしれっと図々しいことを言ったので、即座に却下した。

 もっとも、どの道、退去しても行く所などないのだから、彼も本気ではないのだろう。

 すると程昱は悪びれもせず、次の要求を提示する。


「それでは、潔く降伏しますので、命の保証と名誉ある扱いを要求します」

「ふむ、命の保証はいいとして、名誉ある扱いとは?」

「司空は辞任するので、なんらかの地位をいただきたい。可能であればこの済陰郡に、王としてほうじていただくのもいいですな」

「ハハハッ、そいつは大きく出たな」


 あまりの要求に俺が笑うと、程昱はジロリと睨んでくる。


「認めてはいただけませんか?」

「ダメだな。重職なんか任せられないし、ましてや王なんて論外だ」

「それはなぜでしょうか?」

「そんなの、分かりきったことだろうに。曹操ほどの男に大きな権力を持たせたままでは、いずれまた敵になる。それでは結局おれは、彼を殺さねばならないだろう。それぐらいだったら、列侯にでもなって、静かに生きていくべきだと思うがな」

「……なるほど。一度、曹操さまと相談させてもらってもよいでしょうか?」

「ああ、じっくり相談してくれ」


 その後、程昱はまた籠城した建物の中へ帰っていった。

 はたして曹操は、こっちの条件を受け入れるだろうか。

今回の主な舞台は兗州えんしゅう 済陰郡せいいんぐん鄄城けんじょうです。

呂布に反乱を起こされた時、曹操が拠り所とした要地です。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


地図データの提供元は、”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

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[良い点] さぁ、大詰め。一手間違うと大逆転もあるから気をつけないと。
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