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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第5章 中原争奪編

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31.孫策の降伏

建安11年(206年)3月 荊州 南郡 襄陽


 曹操、孫策の支配地で、多数の反乱が発生した。

 我が陣営の謀臣たちが、事前に仕込んでおいた成果だ。

 これにより俺の討伐どころではなくなった彼らは、反乱の鎮圧に兵を割かねばならない。


 対する俺は九江郡も取り戻し、兵力の増強を進めていた。

 元々、治安が良く豊かな荊州のみならず、最近は益州からも兵を回せるようになっている。

 益州をかき回していた董昭を追い出したおかげで、ようやく落ち着いてきたからだ。


 それに加え、以前からやってきた宣伝効果が出ていた。

 俺は曹操と違って、民を大事にするし、漢王朝を敬っているって宣伝だ。

 実際に領地の治安を向上させ、不正の摘発や経済活動の活性化を図ってきたからな。


 俺が倒されたら、元の腐敗にまみれた世の中に戻るとあれば、民も積極的に協力してくれるというものだ。

 おかげで開戦時、10万人程度だった兵力が、今は15万人近くに膨れ上がっている。

 もっとも、その3分の1は不慣れな新兵だけどな。


 だけど新兵でも、城に籠もっての防戦になら、そこそこ使える。

 そこで俺たちは襄陽には7万の兵を配置し、残りを江東へ振り向けたのだ。

 総勢8万にもなる江東方面軍は、張飛を主将として攻勢に出る。


 他にも太史慈、趙雲、甘寧、徐盛がいたところに、魏延、厳顔、陸遜が新たに参戦している。

 軍師としても魯粛に諸葛亮、法正が同伴し、諜報活動に励んでいた。


 そんな張飛たちはまず、丹陽の秣陵ばつりょうを攻めた。

 大量の舟艇で長江を渡り、城を囲んだのだ。

 この頃、すでに孫策の軍勢は半減していて、2万人程度しかいなかった。


 敵は一応、抗ってみせたが、その士気は低い。

 ここで張飛たちは城を囲み、敵の士気を下げる戦法に出た。


”劉備さまは襄陽で、曹操の軍勢を打ち破った”

”中原の各地で反乱が起こり、曹操はその対処に手を焼いている。待っていても援軍は来ない”


 なんてことを城外から吹き込んだのだ。

 その結果、孫策軍の士気はさらに低下し、降伏も間近かと思われた。

 しかしさすがは安南将軍。


 優秀な配下も多く抱えているため、なんとか軍勢を維持して、頑強に抵抗を続けた。

 ひと月ほど囲んでから、さすがの張飛もしびれを切らし、とうとう強攻を命じたそうだ。

 孫策は4倍もの敵を向こうに、かなり粘ったらしい。


 しかしどんなに粘ろうが、援軍は来ない。

 頼みの曹操は中原各地に起こる反乱に手を焼き、南陽への援軍すらままならないのだ。

 では最も江東に近い徐州はどうか?


 一応は曹操の傘下に入ったはずの徐州も、元は俺の支配地だ。

 そんなところから援軍を送るなど、裏切りが怖くて出来はしない。

 そのような状況がようやく分かったのか、孫策はとうとう降伏したという。


 それを受けて、江東4郡は次々と恭順の意を示してきた。

 ここに安南将軍 孫策の野望はついえたのだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安11年(206年)4月 荊州 南郡 襄陽


 孫策が降伏してひと月もすると、江東を制圧した張飛が帰ってきた。


「兄貴、じゃねえ。劉備さま。張飛 翼徳、江東制圧の報告に参りました」

「ああ、張飛。よくやってくれたな。諸葛亮もご苦労さん」

「いえ、私は大したことはしておりません」


 江東ではまだ後始末が残っているため、張飛と諸葛亮だけが船で報告にきた形だ。

 俺はいくつか気になっていたことを聞くと、彼らが連れてきた捕虜を引見する。


「久しぶりだな、孫策、周瑜」

「クッ……」

「お久しぶりです、劉備さま」


 それは孫策と周瑜だった。

 俺があえて希望して、連れてきてもらったのだ。

 孫策が露骨に悔しそうな顔をする一方、周瑜は澄ました顔であいさつを返してきた。


 さらに周瑜は、何くわぬ顔で俺の意図を問う。


「劉備将軍は、我々をどうするおつもりですか?」

「……さあな。それを決めるために来てもらったんだ。とりあえず縄は、ほどいてやれ」

「はっ」


 孫策と周瑜は後ろ手に縛られていたため、近くにいた兵士にほどくよう指示をする。

 縄が外されると、彼らは手首をさすりながら立ち上がった。


「それで孫策。俺と戦ってみて、どう思った?」

「……別に。そもそもあんたとは、戦ってないからな」


 孫策はふてくされた顔で、そんなことを言う。

 直接、矛を交えれば、自分の方が強いとでも思っているのだろうか。

 そんな彼を鼻で笑いながら、今度は周瑜に話を振る。


「ハハッ、そうか。それじゃあ、周瑜はどう思った?」


 すると周瑜は少し迷いながら、その考えを語った。


「正直、ここまで見事にひっくり返されるとは、思っていませんでした。躊躇なく徐州を手放したことといい、襄陽で曹操さまの軍を跳ね返したことといい、お見事というほかありませんね」

「ハハハッ、そうか。周瑜にそう言われると、悪い気はしないな」


 すると孫策が憎々しげに口を挟む。


「ヘッ、謀略と数の暴力で押し切っただけじゃねえか。鎮東将軍が聞いてあきれらあ」

「孫策っ!」


 すかさず周瑜がたしなめるが、孫策は悪びれない。

 まったく、血気盛んなことだ。

 俺自身は大して気にならないが、あまり甘い顔ばかり見せるのも良くない。


 そこで俺は張飛に命じ、孫策をこらしめてやることにした。


「張飛。ちょっと孫策を揉んでやってくれないか?」

「ええ~? なんで俺が」

「まあ、そう言うなって。そうだ、孫策。お前の自由と将軍位を懸けて、張飛と勝負をしないか? お前が勝てば自由にしてやるが、負けたら安南将軍の地位を、張飛に譲るんだ」

「なんだとっ!」


 俺の提案に孫策は驚いていたが、やがて悪くないと思い直したのだろう。

 渋々と条件を確認してきた。


「俺が勝てば、江東へ返してくれるんだな?」

「いや、南陽郡へ逃してやるから、曹操の所へでもどこでも、行くがいいさ。ただし俺の支配領域にいれば、また捕まえるぞ」

「チッ、まあいいか。逆に負けたら将軍位ってのはどういうことだ? 将軍位は朝廷が授けるもんだぜ」

「そのとおりだ。だからお前が負けたら印綬を渡して、2度と安南将軍を名乗るな。張飛の方は、まあ当分は自称だな」

「ふ~ん……まあ、いいや。その約束、破るんじゃねえぞ」


 孫策が話に乗ってきたので、張飛に視線を向けると、彼もうなずいていた。

 その後、俺たちは場所を外に移し、刃を潰した矛を持って、張飛と孫策が向かい合った。


「へへへ、俺の自由のため、犠牲になってもらうぜ」

「いいや、お前が俺に将軍位を献上するのさ」

「そうはいくかっての!」

「おっと、なかなかやるじゃねえか」


 彼らは言葉を交わしながら、矛をブンブン振り回して、攻撃を繰り返す。

 さすが、孫策も中原で活躍しただけあって、かなりの腕前だ。

 しかしさすがに、前生経験で強化された張飛の敵ではない。


 一見すると孫策が攻めっぱなしで優勢なようだが、張飛にはまだまだ余裕があった。

 やがて少し攻め疲れた孫策の隙を、張飛が突いた。


「そこだ!」

「うおっ! ぐはあっ」


 姿勢を崩された孫策の胸部に、張飛がしたたかな一撃を加えた。

 矛を取り落とした孫策が、胸を押さえてうずくまる。

 これで勝負は決まった。


 俺は静かに孫策に歩み寄ると、冷徹な声を掛ける。


「どうだ、孫策。多少は腕に覚えがあるようだが、上には上がいるってことだ。俺が直接戦わないからずるいだなんて、言うなよ。君主ってのはいかに優秀な配下を従え、それを上手く使うかが重要なんだ。お前が求めてるのは、匹夫の勇ってやつだな」

「くそがっ……」


 罵声を放つ孫策を尻目に、屋内に戻ろうとする俺に、周瑜が声を掛けてきた。


「お待ち下さい、劉備将軍。我らをどうするおつもりですか?」

「……別に何も。しばらくはこの襄陽に滞在して、俺たちの戦いを見ていればいいさ。そしてその後の身の振り方を考えればいい」

「それは、我らに協力しろと?」

「さあな。お前たちが真剣に仕えるつもりなら、それもいいだろうさ。だけど大きすぎる野心を持ったままでは、それも難しいだろうな」

「……肝に命じておきます」


 こうして俺たちはひとまず、江東の脅威を除くことに成功したのだった。

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