表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/67

26.袁家の崩壊(地図あり)

建安9年(204年)4月 荊州 南郡 襄陽


 翌年の春になると、ようやく曹操軍が大きく動いた。

 それまでにさんざん、謀略で袁家の内部をかき回していたのであろう。

 袁譚と袁尚の関係はますます悪化し、重臣たちも2つに割れているという。


 そんな袁家軍に対し、曹操軍が魏郡の各地で攻撃を掛けた。

 正面の黎陽れいようだけでなく、河内郡かだいぐんや青州へも大軍が投入される。

 その攻撃を受ける袁家も、ほぼ同等の大軍で迎え撃った。


 しかし攻め手が自由に戦場を選べるのに対し、どうしても袁家軍は後手に回る。

 本来なら協力しあう者たちも、袁家内の派閥争いのおかげで、満足に連携が取れなかった。

 その結果、戦況を把握していた曹操軍が、弱点に戦力を集中することが可能となり、次々と袁家の戦線が崩壊していく。


 正面では負けていない袁譚も、この状況では後退せざるを得ない。

 結局、袁家軍の前線はぎょうの周辺にまで後退していた。

 もちろん、曹操軍がおとなしくしているはずもなく、追撃でそれなりの損害も与えていた。


 今回の戦いで、形勢は曹操の側に大きく傾いたと言っていいだろう。

 しかしだからといって、袁家がそのまま崩壊するわけではなく、それなりの抵抗力も残っている。

 まだ当分は、一進一退の攻防が中原で続くのではないかと、思われた。



 一方、俺の領地でも、静かな戦いは続いていた。

 程昱を筆頭とする曹操陣営との、謀略戦だ。

 相変わらず程昱と董昭は、荊州と益州で謀略を仕掛けてくる。


 異民族や豪族に資金と情報を渡して、反乱を起こさせるのだ。

 あまりにひどいので、お返しに成都と南陽郡で、逆に反乱分子をあおってやった。

 そしたら少しはおとなしくなったのだが、今度は内通者の育成に目を向けたらしい。


 たまに良い人材が仕官してきたと思えば、曹操のヒモ付きだったという例が増えていた。

 おそらく目立たない人材についても、敵の間者が入りこんでいるのだろう。

 疑いはじめるとキリがないので、今のところは泳がせている状況だ。

 まあ、重要な機密に接する連中以外は、それほど実害もないだろう。


 お返しにこちらも、曹操や孫策の支配地に、しきりに密偵を送っていた。

 あちらの情報収集だけでなく、内通者も潜ませているし、反乱分子とも連絡を取っている。

 いざとなれば、敵地をかき回すことも、不可能ではないだろう。



 それから非常時には放棄する予定の徐州でも、秘密工作は進んでいた。

 まず諸葛亮が中心になって、非常時の諜報網が整備されている。

 これは仮に徐州が放棄されても、そこに残って情報を集めたり、こちらに都合の良い噂を流す組織である。


 あくまで非常時の組織なので、人員はそれほどおらず、拠点の構築などが主な作業だ。

 こんな組織はできれば作りたくないが、最悪を想定して動くのは当然だろう。



 そしていざという時の義勇軍だが、こちらは少々、難航していた。

 徐庶が中心になって進めているのだが、本来の目的を明らかにしにくいのが難点だ。

 そりゃあ、”曹操が攻めてきたら俺たちは撤退するけど、お前たちは残って抵抗運動をやってくれ”、なんて言えないよな。


 その辺を上手いことごまかしつつ、血の気の多い奴らを見つけては、教育を施してるという。

 正直、手間のわりに効果が見込めないことから、やり方を見直してはどうかという声も上がっていた。

 しかしまあ、少しでも役に立つなら、できるだけやってみようと頑張ってる。



 最後に徐州からの撤退計画だが、龐統ほうとう陳羣ちんぐんを中心に検討してもらってる。

 現在の徐州は、陳羣が中心となって政治を切り盛りしている。

 当然、ほとんどの官吏は俺というよりも、それぞれの故郷に仕えている。


 だからいざ徐州から撤退するにしても、統治機構のほとんどはそのままだ。

 そうしなきゃあ、徐州の民が困っちまうからな。

 というわけで、いざという時に誰が避難して、誰が残るかを選別し、その逃走経路なんかを決めておかなきゃならない。


 あまりおおっぴらにできない話なので、時間は掛かってるが、この辺もだいぶまとまってきたようだ。

 まあ、いざという時に慌てないように、計画は大事だってことだな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


建安9年(204年)10月 荊州 南郡 襄陽


 袁家の拠点だったぎょうが、とうとう陥落した。

 元々、曹操は周辺の城を次々に落としたうえで、大軍で鄴を囲んでいた。

 そして城の周囲に空堀を掘ったうえで、そこへ水を流しこんだそうだ。


 これによって完全に外との連絡を断たれた袁家は、食料の備蓄が怪しくなる。

 なまじ大軍で城に籠もってたもんだから、減るのも早かったんだろうな。

 結局、やけくその脱出作戦が決行され、袁家は多大な被害を出しながらも、逃走に成功したそうだ。


 しかもバラバラに逃げたもんだから、袁家は3州に分散されてしまう。

 袁譚は青州へ、袁尚は幽州へ、そして高幹は并州へと、それぞれ逃れたわけだ。

 意外にも青州や并州は、それほど侵略されていなかったらしいが、それも曹操の罠だったんだと思う。


 わざと逃亡先を残しておくことで、袁家の分散を図ったんじゃなかろうか。

 いずれにしろ曹操は、河北で最も豊かな冀州を手に入れた。

 しかも袁家はバラバラだってんだから、各個撃破の未来しか見えない。


 そうなると俺もいよいよ、のんびりしていられなくなりそうだ。


「皆も知ってのとおり、冀州が曹操の手に落ちたそうだ。袁家の残党は残っているが、曹操にかき回されてバラバラだな。早ければ来年にでも、無力化されるかもしれない」


 久しぶりに重臣を集めた場で、そう切り出した。

 すると関羽が豊かなヒゲをいじりながら、懸念を示す。


「ふ~む、そうなれば次の標的は、我々でしょうな。以前から劉備さまが懸念されていたように」

「ああ、何か言いがかりをつけられて、戦いになる可能性が高い」


 するとここで、魏延が遠慮がちに提案をする。


「あの~、袁家につぶれてほしくないなら、援助をしてみたらどうですかね? 資金とか兵糧を送ってやれば、まだ粘れるんじゃないすか?」

「ん? ああ、実はそれ、もうやってるんだ」


 そう言って魯粛を見ると、彼が説明してくれる。


「はい、以前から袁家とは接触を持って、ひそかに援助をしております。それがなければ、もっと早く敗走していたでしょう。なにしろ曹操の謀略によって、袁家の内部はガタガタですから」

「あっ、そうなんですか。余計なことを言ってすんません」

「いや、みんなの認識を合わせることが目的なんだから、疑問に思ったことは聞いてくれ。いずれにしろ俺たちは、次の段階に備えなきゃならない」


 すると今度は、陸遜が口を開いた。


「次の段階、ですか。それは例えば、劉備さまに冤罪を掛けて、朝敵として糾弾する、などという動きでしょうね」

「まあ、そんなとこだろうな。俺も南陽で反乱分子を煽ったり、袁家を支援したりもしてるんだから、まったく無実でもないんだがな」


 自嘲気味にそう言うと、張飛が不敵に笑う。


「へへへ、曹操だって同じことをやってるんだから、お互いさまでしょう。だけど劉備さまは、おとなしくやられるつもりはないんでしょ?」

「ああ、当たり前だ。曹操が俺を潰そうとするんなら、全力で抗ってやる」

「それでこそ、劉備さまだ」


 そんな軽口を叩いていると、まとめ役の陳宮が話を戻す。


「それは勇ましいことですが、ここで基本方針を示しておきませぬか?」

「ああ、そうだな」


 俺は居住まいを正してから、改めて皆に声を掛ける。


「おそらく来年には、曹操との戦いになってるだろう。そうなった場合、徐州と九江郡。ことによっては廬江郡まで切り捨てるかもしれない。そうなればどうしたって領民に迷惑は掛けちまうが、それは最小限にしたい。今までも言ってきたように、俺は民を守る支配者でありたいんだ。それは不利な部分もあるだろうが、悪いことばかりじゃない。曹操との違いを明確にすることで、新たな味方も出てくるだろうからな」


 ここで少し言葉を切ってから、また続ける。


「それにな、その道を貫ければ、誰はばかることなく、胸を張って生きていける。時にはやせ我慢も必要になるだろうが、その価値は絶対にあるはずだ。みんなで堂々と前を向いて、勝ち抜こうぜ」

「「「御意」」」


 その日、俺たちの心はひとつになったのだ。

今回、袁家が失ったのが冀州 魏郡のぎょうです。

ここは河北の要地で、史実でも袁紹が拠点にしていました。

わりと洛陽に近く、豊かで、遊牧民族を騎兵として雇いやすいなどの利点があります。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


地図データの提供元は、”もっと知りたい! 三国志”さま。

 https://three-kingdoms.net/

ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孫呉が好きな方は、こちらもどうぞ。

それゆけ、孫策クン! ~転生者がぬりかえる三国志世界~

孫策に現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[良い点] やり直しの劉備は全体に余裕ができて、その明朗な美質を更に発揮しているように思えます。 政略は清濁合わせ呑む器量が要るのでしょうが、現代の日本人の私としては晴朗な王道はほっとする感じがします…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ