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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第4章 益州攻略編

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幕間: 程昱の謀略

 私の名は程昱ていいく 仲徳ちゅうとく

 今は曹操さまに仕える臣だ。


 曹操さまとは、兗州牧時代からのお付き合いになる。

 一時は呂布たちに兗州えんしゅうを奪われそうになったこともあるが、それも皆で乗り越えた。

 今では良い思い出だ。


 その後、敵であった徐州が味方についたこともあり、兗州の立て直しも上手くいった。

 それどころか、新たに徐州牧となった劉備は、仇敵の呂布を返り討ちにし、その首を送ってきたのだ。

 あれは久しぶりに、胸のすくような思いであったな。


 それは劉備との信頼関係構築にも寄与し、周辺状況が安定したのは幸いだった。

 おかげで我らは兗州だけでなく、豫州の制圧にも取り組めたのだ。

 それは我が陣営の足元を固めることにつながり、十分に力を蓄えることができた。


 そして運命の建安元年、曹操さまは天子さまを許都に迎え、天下に号令する立場となったのだ。

 それまで仕えてきて、本当に良かった。

 このうえは中華をまとめなおし、平和をもたらそうではないかと、皆で誓い合ったものよ。


 幸いにもその頃、劉備が揚州牧の劉繇りゅうようと協力して、揚州を平定したとの知らせも入ってくる。

 奴らは曹操さまへの恭順を示しており、我らの前途は明るいと思えた。


 しかしその一方で、河北の袁紹は不穏な動きを見せる。

 あやつは大将軍となった曹操さまに嫉妬し、協力を拒んできたのだ。

 曹操さまが大将軍の座を譲ったことにより、決裂は避けられたが、今後も協力的な姿勢は期待できないであろう。



 その後、袁紹は河北で勢力を拡大していった。

 さすがは何進大将軍の下で、辣腕を振るっていただけはある。


 しかしその陰で勢力を広げる男が、他にもいたのだ。

 そう、徐州の劉備だ。

 劉備は揚州の2郡を手に入れただけでなく、荊州でも4郡を支配しつつあるという。


 それは曹操さまの命令に従っている部分もあるのだが、これほど早く勢力を広げるとは思わなんだ。

 今後も劉備の動向には、注意が必要だな。



 その後、袁紹に備えるため、劉表を攻撃するよう、劉備に指示が下った。

 とはいえ、さすがに襄陽は落とせんであろう。

 そう思っていたのだが、なんと半月足らずで襄陽を落としたとの知らせが入る。


 おかげで劉備は武陵郡も制圧し、南陽を除く荊州の大半を手に入れたことになる。

 ううむ、恐るべき手腕だな。

 これは本格的に、劉備への備えをする必要がありそうだ。



 しかし我が陣営は袁紹との戦いに忙しく、あまり手をかけられないでいた。

 すると劉備は、さらなる勢力拡大を目論んできたのだ。


「劉備が益州へ出兵したいだと? たしかに劉璋は朝廷に逆らう存在だが、そこまでするか?」

「おそらく荊州同様に、各郡を支配下に置きたいのでしょう」

「むう、これ以上、ヤツを肥え太らせたくはないのう」

「しかし劉璋が職貢(朝廷に納める税金)を納めていないのも事実です。その点、荊州や揚州でもちゃんと納めている劉備の方が、我らにとってはマシかと思いますが」


 やはり曹操さまも、劉備が大きくなり過ぎることに懸念を抱いている。

 そこで私は、今まで温めてきた策を進言することにした。


「よろしいではありませんか。劉備にはせいぜい朝廷の代理人として、劉璋を討伐してもらいましょう。そのうえで彼奴きゃつの力が大きくなり過ぎないよう、手を打てばよいのです」

「む、何をすると言うのだ? 程昱」

「もし劉備が益州を平定したのならば、策に長けた者を州牧として送りこみます。さらに私も南陽郡へ赴き、劉備の足元を弱めるよう、妨害工作を致しましょう」

「妨害工作というと、例えばどのような?」

「そうですな。悪い噂をばら撒いたり、反乱分子に援助をするなどは、いかがですかな」

「ふうむ……」


 私の提案に、曹操さまが考えこむ。

 おそらく袁紹と戦っているこの状況で、そこまでやるべきかを考えておられるのであろう。

 すると郭嘉かくかが、私の提案に賛同してくれた。


「私も程昱どのに賛成です。袁紹に対しては、私や荀彧じゅんいくどの、荀攸じゅんゆうどの、そして賈詡かくどのがいれば対応できるでしょう。ならば劉備に対しても、早めに手を打っておくのが至当かと」

「うむ、そうかもしれんな。目先のことだけでなく、早めに手を打っておくのは、後々のために良いだろう。よかろう、劉備には討伐指示を出せ。そして程昱は、妨害工作の準備をしておくのだ」

「「「かしこまりました」」」


 ふう、思ったよりも簡単に納得してもらえたな。

 これも郭嘉の口添えがあったればこそだ。

 あまり人間的には感心できん男だが、謀略については一級品だ。

 袁紹のことは彼らに任せて、私は劉備に備えるか。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、劉備は、思った以上に早く益州を攻略してしまう。

 あまりに早かったため、こちらの準備が追いつかぬほどだ。

 奴らは軍事に優れるだけでなく、情報の操作にも長けているようだな。


 これはますます侮れなくなってきた。

 私は董昭とうしょうという男を益州牧に抜擢すると、彼に策を授けた。


「董昭よ。お前は益州の成都に赴き、益州牧に就任するのだ。表向きは各郡の監査などを、適当にやっておればよい。しかしその裏で劉備の情報を集め、さらに反乱分子を支援せよ。まだ不完全だが、その伝手は準備してある」

「程昱さま。そのように言われるということは、劉備には反乱の恐れがあるのですか?」

「いや、今のところ、そのような兆候はない。しかしヤツは曹操さまの敵を討伐しているように見せつつ、着々と力を増している。袁紹が片付いた暁には、激突は必至であろう」

「……そうですな。たしかに劉備は、潜在的な敵と言えましょう」

「うむ、そのような存在の芽は、早めに摘んでおくに越したことはない。私も南陽郡へ赴き、荊州での妨害工作を指揮する。その方も協力せよ」

「はっ、了解いたしました」


 そうして董昭と打ち合わせを済ますと、私は南陽郡へ向かった。



 南陽へたどり着くと、劉備についての最新報告を聞く。


「荊州の統治状況はどうなっている?」

「はっ、劉備は南陽を除く6郡に太守を送りこみ、大過なく統治を行っております。最近は盗賊の被害も少なく、官吏の汚職も減っていると聞きます。それどころか、豪族とも話をつけることで、税収も上向いているようです」

「むう、それほどか……豪族まで手懐けるとは、なかなかの行政手腕よ。これだけのことをやってのけるのだから、有能な配下も多いのだろうな」

「はい、元は劉表に仕えていた者から在野の者まで、幅広く人材を募っているようです。有名なところでは、陳宮ちんきゅう韓嵩かんすう劉先りゅうせんなどがおります」

「陳宮、か。曹操さまに仕えていたこともある、裏切り者だな? ヤツを内応させることはできないか?」

「いえ、陳宮をはじめとする主な家臣たちは、献身的に勤めていることで評判です。つけ込む隙は、ほとんどないかと」

「むう、ますます厄介な……」


 ある程度は聞いていたが、改めて聞くと凄まじい話だ。

 治安を向上させ、汚職も厳しく取り締まる。

 さらに税収も改善しているからには、豪族に対して硬軟織り交ぜての対策をしているのだろう。


 さらに家臣団の忠誠心も高いとは、一体どのようにやっているのか。

 やはり早めに手を打っておいて、正解だったな。

 劉備はいずれ、曹操さまの最大の敵になるであろう。

 その認識を新たにした私は、精力的に妨害工作に取り組みはじめた。



 私は多くの人材と資金を使い、荊州の各地に反乱の芽を仕込んでいった。

 最初はいくらでもつけ込む余地はあると思っていたが、劉備の統治は思った以上に巧妙だった。

 盗賊はほとんどいないし、豪族も巧みに懐柔されている。


 異民族でさえ劉備と協定を結び、交易すら行われているのだ。

 おかげで荊州の民は平和を謳歌し、劉備の治世を褒め称えているという。

 恐るべし、劉備。


 しかし完璧な治世などあり得ぬ。

 いかな劉備とて、荊州全ての民を満足させることなどできないだろう。

 私は地道に調査を続け、盗賊や豪族、さらには異民族の不満分子を探り当てた。

 そして彼らに資金や兵糧の支援を行い、反乱の機運を煽ったのだ。


 それと並行して、益州の董昭とも連絡を取り、益州での反乱工作も進めさせた。

 益州の方ではまだまだ統治が固まっていないため、面白いように反乱が起きているようだ。

 これは劉備も、相当に堪えているであろう。


 クククッ、身の程しらずにも、曹操さまに歯向かおうとするからだ。

 この中華に覇を唱えるお方は、曹操さまだけで十分だ。

 新たな時代のために、葬ってくれるわ。

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