表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第4章 益州攻略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/67

22.曹操との違い

建安6年(201年)5月 荊州 南郡 襄陽


「だけどな、諸葛亮。それをやると困るのは、善良な領民じゃねえのか?」


 諸葛亮の提案に許容できないものを感じた俺は、厳しい声で問いただした。

 すると彼は戸惑いながらも、それに答える。


「……それはつまり、反乱軍の討伐などを曹操が大々的に行うことで、民が巻きこまれる。そういうことですか?」

「ああ、そうだ。反乱組織を狩り出すために、いくつの集落が襲われるか、分かったもんじゃねえぞ」


 俺の一番の懸念は、反乱組織に手を焼いた曹操が、無差別に集落を襲うようなことだ。

 そもそも軍隊なんてものは、ただでさえ暴力のかたまりなのだ。

 本来は民を守るはずの官軍でさえ、兵糧を調達するため、そして己の欲望を満たすために、集落を襲うなんてのは普通にやる。


 ましてや反乱組織が地下に潜ってるなんて理由を与えれば、どれほどの災難が民に降りかかるか、分かったもんじゃない。

 すぐに思いついたということは、諸葛亮もその危険を承知のうえで提案したということだ。

 俺はそれだけは許せないと、彼をにらみつける。


 すると諸葛亮は、ため息をつきながら懸念をもらす。


「フウ……やはり劉備さまはそれを気にされるのですね。少し安心する反面、そのような甘いことでこの先、生き残っていけるのかと、心配にもなります」

「……俺だって、甘いことばかりじゃいけねえのは分かる。だけどな、最初から諦めてちゃ、何もできねえだろう。別にお前に、全てを考えろとは言わねえ。ここには陳宮や魯粛、徐庶に龐統だっているんだ。みんなで考えれば、もっといい案が出てくるだろう」


 それが俺の我がままだとは承知のうえで、訴えずにいられなかった。

 本来、この中華を支えるはずの領民たちが、為政者の都合で虐殺されるなんて、あっちゃいけねえんだ。

 そんな想いが通じたのか、まず陳宮が居住まいを正して、口を開いた。


「劉備さまのお心ばえは、誠にすばらしいものと考えます。正直、諸葛亮どのの案も悪くないと思った自分が、恥ずかしくなりました」


 すると魯粛や徐庶、龐統もそれに続く。


「たしかに。この中華に安寧をもたらそうとする我々が、率先して民をしいたげてはなりませんな」

「ええ、たしかに甘い考えですが、最初から諦めることはありません」

「そうだな。俺だってついこの間までは、虐げられる側だったのを忘れてた。俺たちはもっと、知恵を絞るべきなんだ」


 そう言ってくれる彼らに安堵しつつ、俺は諸葛亮に向き直った。


「お前の提案の全てを否定するつもりはねえ。だけど民を犠牲にしないで済む方法を、みんなで考えねえか?」


 するとしばし迷ってから、諸葛亮が少し恥ずかしげに答えた。


「……そう、ですね。皆さんと相談すれば、もっといい案が浮かぶかもしれません。私も少し、焦っていたようです。申し訳ありませんでした」

「いや、そういう考えがあるって知れただけでも、価値がある。実際にやるかどうかは別としてな」


 ここで俺は居住まいを正して、皆に向き合った。


「ちょうどいいから言っておくが、俺はこういう考え方に、曹操に勝つ道があると思ってるんだ」

「それはどういう意味ですかな?」


 興味深そうに問う魯粛に、俺は以前から温めていた考えを説明する。


「曹操も俺も、生き残るために戦ってるのは一緒だ。そして曹操は、現状で天子さまの身柄を握ってるわけだが、そこに皇帝陛下への敬意なんてものはない。どちらかというと、自分が守ってやってるんだって意識だろうな」

「ええ、残念ながらそうでしょうな。天子さまをないがしろにし、どちらが主人か分からぬような行状が目立つとか」

「ああ、そのとおりだ」


 陳宮が言うように、曹操はすでに天子さまへの横暴を隠さなくなってきた。

 もちろん天子の側でも、身の丈に合わない要求をするなどの問題があり、曹操の気持ちも分からないではない。

 しかし天子さまをないがしろにし、さらに民をも顧みない曹操のやり方には、大きな反発があるのも事実なのだ。


「そんな曹操とは違うんだってことを、俺は訴えたいんだ。俺は天子さまは敬うし、民を見捨てることはしねえ。もちろん、なんでもできるってわけじゃねえが、時にはやせ我慢をしてでも、違いを打ち出していきたいと思ってる。そうすることによって、俺に協力してもいいって人間は増えるだろうし、兵士の士気も高まるんじゃねえかな」


 そう言ってみんなを見ると、それぞれに感心するような顔を見せた。


「なるほど。単純に司空閣下と戦うだけでなく、かの御仁との違いを打ち出していくのは、後々に効いてきそうですな」

「はい。天子をないがしろにし、民を顧みない曹操に対し、劉備さまは仁義と慈愛を前面に出す、と」

「そのためには、時としてやせ我慢も必要だというわけですな。しかもちゃんと、副次効果も計算できる」

「フハハッ、それってけっこう、悪どくないか?」

「いえ、それでこそです。ただ甘いことを言うだけより、よほど信頼できます」


 俺は手応えを感じつつ、話を元に戻した。


「みんながそう言ってくれて、嬉しいぜ。そのうえで改めて相談だが、俺たちはどうやって生き残る? まず益州を取るのは変わらないが、その先はどうすればいい?」


 期待を込めて問うと、皆がしばし考えはじめる。

 やがて口を開いたのは、諸葛亮だった。


「やはりどう考えても、徐州は保てません。無理に保とうとすれば、全てを失うでしょう」

「……ああ、その可能性は高いだろうな。やはり徐州牧の地位を返上するのは、避けられないかもしれねえ。それで、その後はどうする?」

「はい、地下組織がだめなら、素直に明け渡してしまいましょう。そのうえで、そうですねえ……密偵による情報操作をします。曹操の軍がいかに横暴に振る舞っているか。朝廷から遣わされた役人が、また汚職をするようになったなどと、噂を広めます」

「フフフ、それでいかに劉備さまの治世が良かったかを、強調するのですね」

「ええ、そのとおりです」


 諸葛亮の意図を徐庶が指摘すると、諸葛亮は楽しそうに肯定する。

 すると龐統も意見を出しはじめた。


「う~ん、それだけじゃあ、あまりおもしろくないな。いっそ任侠気取りの野郎どもを、反乱分子として組織したらどうだい?」

「おい、それはダメだって――」

「まあ、まずは聞いてくださいって」


 即座に否定しようとすると、龐統は右手を突き出して俺の言葉を遮る。

 その勢いに、何やら考えがありそうだと思い直して、耳を傾けた。


「劉備さまの心配は分かりやすよ。下手に抵抗運動なんかやらせたら、民が犠牲になるってんでしょ。だけど放っておいても、そんな組織は自然に出てきますよ。劉備さまの善政に慣れた徐州なら、なおさらだ」

「……うん、たしかにそれはあるかもしれないな」

「でしょう? それぐらいだったら、俺たちがお膳立てしてやって、一般人に迷惑がかからねえように誘導してやればいい」

「具体的には、どうするんだ?」


 すると龐統は無精ヒゲをジョリジョリといじりながら、考えを語る。


「今のうちから徐州の各地で、旗頭になるような男を探します。そしていざという時の義勇兵ってことで、組織を作らせて、訓練を始めるんですよ」

「ふむ、それから?」

「そうやって各地に種を仕込んでおいて、曹操が攻めてきた時は蜂起させます。ただしどこかの集落に寄生させるんじゃなく、山の中にでも本拠を作らせます。そして俺たちは資金を供給して、兵糧なんかは買わせりゃいい。そのうえで敵さんの食料を奪ったりして、邪魔をさせるんですよ」

「う~ん、そんなに上手くいくかぁ?」


 俺が疑いの目を向けると、龐統は笑う。


「俺だってそんなに期待してないですよ。言ってみれば、曹操軍に対する嫌がらせですな。逆にあまり上手くいきすぎると、周辺の集落ごと討伐されかねないから、そこそこでいいんですよ」

「なるほど……本格的な抵抗じゃなく、あくまで嫌がらせに徹するのか。皆はどう思う?」


 そう言って他の者に目を向けると、口々に賛同しはじめた。


「よろしいのではありませんか。絶対に跳ねっ返りは出てきますから、その方向性を誘導するのはむしろ民のためになります」

「そうですね。嫌がらせをするだけでも、敵の進軍を遅らせるぐらいはできるでしょう」

「その辺が限界でしょうね。そのうえで情報操作をすれば、そこそこの効果が見込めるかもしれません」


 より良い案が出てきたことに安堵しつつ、俺は仕事を振る。


「よし、素案としてはそんなところだろうな。後は状況を見ながら、修正していこう。それじゃあ、諜報網の構築については、諸葛亮に任せていいか?」

「はい、承りました」

「うん、それで義勇軍の方だが……」


 そう言って見回すと、徐庶が手を挙げた。


「私が動きましょう。腕には覚えがありますし、侠者との付き合いもあります」

「ああ、昔はヤンチャしてた徐庶なら、ピッタリか」

「フフフ、まあ、若気の至りですよ」


 徐庶は以前、任侠気取りでヤンチャをしていたと聞く。

 そんな荒くれどもを相手取るのには、ピッタリだろう。


「そうだな。じゃあ、そっちは徐庶に頼む。龐統には徐州からの撤退計画を、お願いできるか? 他のみんなも相談に乗ってやってくれ」

「ええ、構わねえですよ」

「後は今までどおり、敵地での情報収集の傍ら、あっちでも反乱を起こせないか、検討したいな」

「かしこまりました」


 敵地での諜報網について陳宮が受けると、いざという時の方針は決まった。

 徐州を捨てるのは心苦しいが、全てを守りきることなどできはしない。


 そして少しでも生き残りの可能性を上げるためにも、益州への侵攻は手早く済ませたい。

 俺はその方策について、改めて考えを巡らせていた。

劉備が聖人君子みたいなことを言ってますが、それは前生での後悔から来ています。

そしてなんだかんだいって、転生特典(未来知識、政務能力や武力の向上)で余裕があるから、そんな甘いことを言ってられる、と。

ちゃんと実利も考えてますしね。w

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孫呉が好きな方は、こちらもどうぞ。

それゆけ、孫策クン! ~転生者がぬりかえる三国志世界~

孫策に現代人が転生して、新たな歴史を作るお話です。

― 新着の感想 ―
[一言] 長坂坡みたいに徐州の民が付い来そう。 民族(州民)大移動… 移民の準備も必要かも
[気になる点] 孔明は諸葛玄が死んでないから戦乱に巻き込まれた経験がないのが正史との違いなのかな?
[良い点] ああそういう描き方もあるのだなと徐庶のイメージが変わりました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ