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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第4章 益州攻略編

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20.新たな目標へ向けて

建安6年(201年)5月 荊州 南郡 襄陽


 袁紹が河北に後退してから、すでに1年近く経つ。

 その間、袁紹も曹操も、兵力の増強と防衛設備の構築に勤しんでいた。

 たまに小競り合いぐらいはあったが、それもすぐに収まり、基本的にはにらみ合いが続いている状況だ。


 もちろん両陣営ともに支配領域の統治を進め、中原は表向き、平穏と言っていいぐらいだ。

 その支配人口は、袁紹が冀州、青州、并州、幽州で約1200万人だ。

 対する曹操は兗州、豫州、司隷、荊州南陽郡で、約1500万人てとこだろう。


 その軍勢はそれぞれ20万人を超え、激突の時を待ち構えているという。

 いずれにしろ中原にはまた、戦乱の嵐が吹き荒れる可能性が高い。


 ちなみに曹操を援軍にいった孫策は、今は江東に戻っている。

 彼は対袁紹戦での功績によって、安南将軍の地位を賜ったそうだ。

 これは3ほんの将軍位であるだけでなく、江東4郡への軍権を持つというのだから、けっこうな出世である。


 ぶっちゃけこれって、俺への牽制なんだろうな。

 華南の3州にまたがって広大な領域を支配する俺が、曹操は目障りなんだろう。

 まあ、警戒されるのは想定の範囲内なので、どうってことはないが。



 一方の我が陣営だが、こちらも着々と強化が進んでいる。

 俺が実質上、統治する領域は徐州の全てと、揚州の2郡、そして南陽郡を除く荊州6郡だ。

 徐州と揚州では治安の回復と、貨幣経済の促進が先行していた。


 そこで荊州でもそれを実行し、3州にまたがる経済圏を築いている。

 しかし支配領域はより広大になっているので、それだけじゃ足りない。

 そこで情報の伝達と物流を円滑にするため、主に水路の整備に取り組んだ。


 それは長江を基幹とする、広大な水路網を整備するということである。

 まずは各地に存在する港やら船着き場を整備し、新しく設けたりもしている。

 壊れた設備を修理・増強することで使い勝手を良くし、さらに数を増やすことで利便性を上げるのだ。


 もちろん、それには膨大な金が掛かるから、豪族や商人からの出資も募っている。

 特に商人にとっては、自分たちの商売がしやすくなる話なので、積極的に金を出させていた。


 別に無理強いしたわけじゃないよ。

 協力的でない人には、俺の領地内で仕事がしにくくなるかもしれないけどね~。


 そんなことをやってるおかげで、最近の長江周辺は移動がしやすくなり、好景気に沸いていた。

 おかげで俺も徐州から荊州までを飛び回りながら、統治に取り組んでいる。

 もっとも、最近の主な根拠地は荊州の襄陽だ。


 なにしろ襄陽は華北と華南をつなぐ結節点みたいな場所だし、荊州でやる仕事はいくらでもある。

 逆に徐州や揚州は安定しているので、陳羣や陳珪に任せっぱなしでもけっこう回るのだ。



 こうした領内経営が一段落してきたので、俺は久しぶりに重臣を集めて、大方針を議論することにした。


「みんな、今日はわざわざ集まってもらって、悪いな。今日は久しぶりに、俺たちの大方針ってやつを、話し合いたいんだ」

「フフフ、この程度の労力なぞ、大したことはありません。最近は移動もしやすくなりましたからな」

「然り然り。それよりも大方針の話し合いに呼んでいただけたこと、光栄に思います」


 そう嬉しそうに話すのは孫乾と魯粛だった。

 最近の孫乾は徐州で、魯粛は揚州でそれぞれ、内政や情報収集に取り組んでもらっている。

 それぞれ徐州と揚州の代表みたいな形で、今日は呼んでいた。


「そう言ってもらえると、俺も嬉しいな。それじゃあ、まずは周辺情勢について、陳宮の方から頼む」

「かしこまりました」


 それから陳宮が周辺情勢について、かいつまんだ説明をする。

 まず袁紹と曹操については、中原でにらみ合いの真っ最中だ。

 そして孫策は江東で軍権を握り、軍備を増しつつあるという。


 さらに司隷の西側に位置する涼州は、馬騰ばとう韓遂かんすいたちが争っていたが、曹操の仲介で和解し、将軍位を与えられたそうだ。

 一応、曹操の下についている形だが、事実上は独立勢力みたいなもんだな。


 そして荊州の西に位置する益州だが、劉璋りゅうしょうが州牧として君臨している。

 ただしその統治は盤石というには程遠く、度重なる反乱に悩まされていた。

 というのも益州は元々、劉璋の父親である劉焉りゅうえんが治めていた。


 さらに劉璋の上には3人の兄がいたので、益州を治めることになるなど、予想もしていなかったのだろう。

 しかし興平元年(194年)に2人の兄と劉焉が、立て続けに亡くなってしまった。

 そんな状況で臣下が次の州牧にと担ぎだしたのが、劉璋だったわけだ。


 おそらく臣下にとっては、扱いやすい人物と見られたのだろう。

 そんな劉璋の益州統治の手際は、お世辞にも良いものではない。

 まず父親の代に採用された東州兵とうしゅうへいの統制ができず、州内に大きな混乱を起こしていた。


 東州兵は元々、司隷の三舗地方さんぽちほうや荊州南陽郡に住んでいた者たちが、中央の混乱で益州に流れこんできたものだ。

 劉焉はこれを強権で統制していたが、惰弱な劉璋の言うことなど聞きはしない。

 その結果、元から益州に住んでいた領民の方へシワ寄せがいき、不満が高まっていた。


 さらにその不満を抑えさせようとした趙韙ちょういが、住民をあおって反乱を起こしてしまう。

 今は蜀郡だけでなく、広漢郡や犍為郡けんいぐんにまで戦火が広がり、その鎮圧に手一杯な状況だそうだ。


「というのが、現状における周辺情勢です」

「うん、ご苦労さん。分かりやすい説明だった」

「恐縮です」


 陳宮の説明が終わると、俺は出席者を見回しながら先を続ける。


「今、聞いてもらったとおり、小康状態な中原に対し、益州が混乱している。俺はここに介入してもいいんじゃないかと思ってるが、皆はどう思う?」


 すると黄忠が面白そうな顔をして、俺に問うた。


「仮に益州に介入して、その混乱を収めたとします。その先はどうなるのですかな?」

「う~ん、まあそれは成り行きしだいなんだが、基本的には劉璋を下ろすか傀儡にして、実権はこっちで握るだろうな」

「ほほう……しかしそうすると、劉備さまは4州に渡る広大な領域を支配することになりますな。それにたしか益州には、700万人以上の人口があるはず。それはちと、司空閣下に危険視されませんか?」


 黄忠はどこかおもしろそうに、話の核心を突いてくる。

 そこで俺も、軽い感じで答えを返した。


「ああ、何も言わずにやれば、危険視されるかもしれないな。だけど俺は中原から動けない司空閣下の代わりに、益州の混乱を収めようと上表するつもりだ。それなら感謝されこそすれ、怒りはしないと思うぞ」

「フハハッ、本当にそうならいいですがな」

「ああ、それは大丈夫だろう。聞けば劉璋は、朝廷から正式な州牧として認められていないだけでなく、ほとんど職貢しょくこう(朝廷への納税)もしてないらしいぞ」


 俺がにこやかにそう言ってやると、今度は魯粛が口を開いた。


「ホホホ、それはいけませんな。不法な州牧を更迭して、職貢を復活させる。これこそまさに、漢王朝に仕える臣のかがみです。ぜひやるべきでしょう」

「うん、そうそう。それでこそ忠臣ってもんだよな」


 そう言う魯粛の顔も、俺の顔もニヤニヤと笑っている。

 それだけでなく、関羽や張飛、張遼や趙雲、太史慈や甘寧もニヤニヤ笑っている。

 逆に陳宮や諸葛亮、龐統や徐庶は、訳知り顔で澄ましていた。


 そんな中で、魯粛がまた口を開く。


「仮に劉備さまが益州まで統べるようになれば、長江流域の大半を押さえる形になります。さらにこの襄陽を強化しておけば、仮に中原と敵対しても、十分に持ちこたえられそうですな」

「ああ、そうだな。だけど持ちこたえるだけじゃ、ダメだ。仮に敵対するなら、完全に打ち倒す算段もしておかねばならない」

「そうですな。そしてゆくゆくは、またこの中華をひとつにしたいものです」

「そのとおりだ。そのためにはみんなの協力が必要なんだが、俺についてきてくれるか?」


 そう問うと、そこにいる全員が、即座にうなずく。


「フハハッ、当然ですぞ」

「ああ、どこまでもついてくぜ、兄貴」

「我らも同じ思いです。良い夢が見られそうですな」

「なんだか胸が、ワクワクしますな」

「クククッ、腕が鳴るな」


 こうして俺たちはまた新たな目標へ向けて、動き出したのだ。

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