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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第3章 荊州攻略編

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幕間: 曹操は朝廷を主宰する

 儂の名は、曹操そうそう 孟徳もうとく

 今は漢の司空にして、車騎将軍を務める者よ。

 今年、すでに46歳になる。


 今でこそ、たいそうな立場になったが、それまでの道のりは長かった。

 若い頃は騎都尉として黄巾賊を討ちやぶったり、太守として政治に関わったこともある。

 やがて董卓などという田舎者が朝廷を牛耳ったので、袁紹たちと共に反旗を翻した。


 あいにくと周りのボンクラどもに足を引っ張られ、董卓を討つことは叶わなかったがな。

 しかし世の中は上手くしたもので、長安に逃げた董卓が、初平3年(192年)に暗殺されおった。

 呂布という飼い犬に背かれたというのだから、いい気味だ。


 この頃には儂も、兗州えんしゅうの東郡に招かれて、太守に収まっていた。

 とはいえ周辺には賊徒どもが割拠しており、決して楽な状況ではない。

 そんな中で儂は、次々と賊軍を打ち破り、着々と力をつけていったのだ。


 ところが興平元年(194年)、徐州を攻めている間に、本拠の兗州で反乱を起こされてしまう。

 信頼していた張邈ちょうばく陳宮ちんきゅうが結託して、呂布を招き入れたのだ。

 この動きに州内の大部分が呼応することで、危うく兗州を失ってしまうところだった。


 幸いにも荀彧じゅんいく程昱ていいくが頑張ってくれたおかげで、なんとか巻き返しに成功し、翌年には兗州を取り戻すことができた。

 あの時は本当に苦しかったし、よく耐えたものだと思う。


 しかしそんなことをしているうちに、徐州牧の陶謙が死んでしまった。

 陶謙には我が父が殺された責任の一端があったのだが、死んでしまっては仕方ない。

 そしてまんまと徐州牧に収まったのが、劉備という男だ。


 聞けば、徐州の防衛にも加わっていたというが、大した男ではなさそうだ。

 しかし劉備は州牧への就任に際し、儂と袁紹に使者を送ってきた。

 そして今後は袁術への押さえになるので、よしなに願いたいとすり寄ってきたのだ。


 ついこの間まで敵対していたというのに、あっさりと寝返るのだから、なんとも抜け目のないヤツよ。

 しかし儂としても兗州を立て直さねばならんので、徐州が味方になるのは助かる。

 ちゃんと役目を果たすのならば、使ってやってもよいだろう。


 そう思っていたのだが。


「呂布の首を持ってきただと?」

「は、不届きにも歯向かってきた呂布を、劉備さまは返り討ちにいたしました。しかし呂布のことを最も憎く思っているのは、曹操さまであろうと考えられ、私を遣わした次第でございます」

「そ、そうか。その心遣い、実にありがたく思うぞ」


 なんと逃亡していた呂布が、劉備に討ち取られたと言うのだ。

 そして劉備の使者が、呂布の首を持ってあいさつに来た。

 たしかに呂布はこの兗州で反乱を起こし、儂をさんざん困らせてくれた男だ。


 何度、殺しても気が済まん程度には、ヤツを憎んでおる。

 それを察して首を届けるとは、劉備もなかなかに気が利くな。

 いや、どちらかといえば、抜け目がないと言うべきか。


 ヤツはこの件で儂に恩を着せ、今後も親しくお付き合いしたいと言ってきた。

 現実問題として、それが最も合理的なのだから、始末に悪い。

 しかしまあ、ここは表向きだけでも、親しいふりをしておくか。



 その後、徐州方面に兵をく必要が薄れたのもあって、兗州の立て直しは早く進んだ。

 そればかりか豫州方面に兵を出す余裕すら生まれ、その大半を制圧できてしまった。

 少々複雑だが、これも劉備のおかげと言うべきか。



 そうこうするうちに、天子が長安を出て、洛陽へ向かっているとの情報が入ってきた。


「天子さまをお迎えするべきであろうか?」

「はい。今、天子さまは洛陽への帰途についておりますが、都は荒廃しており、なまなかなことでは朝廷の再興はならないでしょう。しかし心ある士人は朝廷の存続を願い、万民は昔を懐かしんで悲嘆にくれております。この状況で天子さまを奉じて号令することは、天下の倫理、知略、徳義にかなうものでございます。たとえ少々の困難があったとしても、なし遂げるべき責務であると存じます」

「私も同様に考えます」

「……分かった。天子さまに使者を送ろう」


 天子を我が陣営に迎え入れるべきかどうかを問えば、荀彧じゅんいくが熱心に勧めてきた。

 程昱ていいくもそれに賛同したので、儂は天子を迎え入れる決心をしたのだ。



 その後、紆余曲折があって、儂は豫州 潁川郡えいせんぐんの許県に、天子を迎えることができた。

 さらに許への遷都を宣言すると、平原の諸勢力は軒並み、儂に恭順の意を示したのだ。

 これで天下の統治ができると喜んでいたが、そうは簡単にいかない。


 まず袁紹を太尉に任命しようとしたら、大将軍の儂に命令されるのが嫌だと言って、辞退してきおった。

 今、ヤツと敵対するのはまずかったので、儂は大将軍の地位を辞退し、それを袁紹へ譲ったのだ。

 まったく、子供のようなことを言いおって。


 さらに中原の諸勢力も、表向きは敬っているふりをしながら、虎視眈々と勢力拡大の機会を狙っておる。

 油断も隙もあったものではない。


 しかしそんな中、さらに抜け目なく動いている連中がいた。


「揚州が平定されただと?」

「はい、揚州牧の劉繇りゅうように、徐州の劉備が協力し、袁術軍の討伐に成功した模様です。さらに寿春を明け渡した袁術は、袁紹どのを頼って冀州へ向かった模様です」

「なんと……一体、どんな手を使ったのだ?」

「さすがにそこまでは分かりかねます」


 なんと劉備が劉繇と組んで、袁術を倒したというのだ。

 落ちぶれたとはいえ、袁術は寿春周辺にそれなりの勢力を張っていたはずだ。

 いざとなれば、数万の軍勢も集められただろう。


 それをこの短期間で倒すなど、ちょっとあり得ない話だ。

 しかしこうして報告が入っているからには、何かが起きたのだ。

 これは詳しく調査せねばならんな。


 その後、劉備や劉繇とやり取りをすることで、全貌が見えてきた。

 まず劉備が劉繇に軍勢を預け、丹陽郡を制圧させたそうだ。

 そのうえで巧みに情報を操って、寿春周辺の豪族を取りこんだ。


 そして精強な軍勢で寿春を強攻し、袁術を降伏に追いこんだようだな。

 その後は袁術を袁紹の下へ追放し、九江郡と廬江郡を制圧した。

 さらに呉郡にいた残党の孫策を、劉繇と和解させることで、揚州に平穏を取り戻したという。


 う~む、見事な手際であるな。

 このまま放置していると、油断できない存在になってしまうかもしれない。

 しかし揚州に平和をもたらしたのは事実なので、九江郡と廬江郡の太守は、劉備の推薦する者を認めるしかなかった。




 その後、南陽に割拠していた張繍ちょうしゅうを攻めたのだが、不覚にも敗北してしまう。

 しかも儂は長男を失い、自身も傷を負うという体たらくだ。

 天子を擁立してから、調子に乗っておったのかもしれんな。


 儂は気を取り直して、再び張繍を攻めたのだが、どうにも上手くいかん。

 それもこれも、荊州の劉表が張繍を支援しているからだ。

 袁紹との関係が悪化して、北の守りをおろそかにできないのもある。


 おお、そうだ。

 儂にも手頃な駒があるではないか。

 劉備のヤツに、荊州へ兵を出させよう。


 そうすれば劉表も、張繍の支援どころではなくなるだろう。

 その間に、一気に揉み潰してくれる。



 この一手は有効に働き、儂は張繍を降伏させることができた。

 しかし劉備のヤツも江夏郡を奪い、さらに長沙、零陵、桂陽までが協力体勢にあるという。

 なんと運のいい男だ。


 いや、運だけで片付けてはいかんな。

 今後もヤツの動きには注視しよう。



 やがて建安4年(199年)となり、袁紹が公孫瓚こうそんさんを降したとの知らせが入ってきた。

 これで袁紹は、河北の4州を領する大勢力となり、儂との対決姿勢を隠さなくなってきている。

 儂も早急に北の守りを固めねばならんな。


 そのためには荊州の劉表を、動けなくしておきたい。

 また劉備に指示をして、圧力を掛けさせよう。

 そうすれば儂も北に注力できる。



 な、なんだと!

 劉備が襄陽を落とした?

 華北と華南をつなぐ要衝である、あの堅城をか?


 信じられん。

 ヤツには何かついておるのか?

 いずれにしろこれ以上、劉備の勢力を広げさせたくない。


 とても袁紹との戦いには呼べんな。

 しかしそれでは儂が、自前の兵力しか使えなくなる。

 さて、どうするか……


 すると孫策という小僧が、江東から援軍を出したいと言ってきた。

 これは好都合だ。

 即座に許可を出すと、孫策は2万もの援軍を率いてきた。


 少し話をしてみると、なかなかに見どころがありそうな若者だ。

 これなら多少は役に立ってくれるだろう。


 そう思っていたら、孫策は予想以上に活躍してくれた。

 淳于瓊じゅんうけいという武将を討ち取って、敵陣の一翼を崩したのだ。

 おかげでほとんどの戦線で味方は優位に立ち、袁紹軍を黄河の向こうへ追い返すことができた。


 フハハ、よ~し、この調子で中原を制覇してやろうではないか。

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