幕間: 孫策は中原に奮戦す(地図あり)
ここから幕間3連発で、ライバルたちの事情を描きます。
「劉備がとうとう、劉表を降したそうだよ、孫策」
「マジかよ……劉備が南郡に侵攻してから、まだひと月も経ってねえんだぞ」
「どうやら事実らしいね。襄陽に籠城した劉表を、あの手この手で降伏させたそうだ」
「すげえな。襄陽はほとんど難攻不落だって言われてたのに……」
「ああ、それをこの短期間で落とすんだから、大したものさ」
劉備が曹操の指示で、劉表を攻めたとは聞いていた。
しかしそれはあくまで劉表への牽制であって、本気で攻めるとは思ってなかったんだ。
ところが劉表の籠もる襄陽が、ひと月足らずで落ちたというじゃねえか。
これじゃあ、ただでさえ強勢な劉備が、さらに強くなっちまう。
それに比べて俺は、この呉郡を支配するので精一杯。
このままだと、差は広がるばかりだ。
だけど俺にだって、全く策がないわけじゃない。
「他の郡への根回しは進んでるか?」
「ああ、ちょうど回答が来てるとこだよ。丹陽、豫章、会稽の全てが、出兵に応じてくれた」
「よしっ! これで俺にも、手柄を立てる機会が回ってくるぞ」
中原で対立を深める袁紹と曹操を見て、周瑜が俺に提案してくれたんだ。
”孫策を旗頭にして、江東から曹操に援軍を出そう”ってな。
それに一も二もなく飛びついた俺は、丹陽、豫章、会稽の太守に使者を送った。
そして各郡から兵を出してくれれば、俺が率いて中原に援軍に行くと、提案したんだ。
各太守は多少しぶってたが、兵の移動や兵糧の手配はこちらでやると言ったら、出兵に応じてくれたって寸法だ。
俺だけじゃあ、とてもまとめられない話だったが、周瑜や張昭、張紘が頑張ってくれた。
やはり持つべきは、優秀な臣下だな。
もっとも、相変わらず名家連中には嫌われてるから、人材の強化はあまり進んでいないんだが。
しかし、ここで俺が手柄を立てれば、また変わってくるだろう。
まずは中原まで遠征して、活躍しないとな。
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その後、俺は2万の兵を率いて、兗州は東郡へ到着した。
そうしたら噂の司空閣下が、じきじきに俺を出迎えてくれたんだ。
「おお、貴殿が孫策どのか。儂が曹操 孟徳だ」
「は、はじめまして。孫策 伯符と申します。司空閣下みずからのお出迎え、痛み入ります」
「フハハ、そう固くなるな。貴殿は揚州からはるばる駆けつけてくれた、貴重な援軍なのだからな。2万もの兵力は、とても心強く思うぞ」
「ははっ、これも江東4郡の協力があってのもの。他の太守どのも、司空閣下のご武運を祈っているとのことです」
「そうか。その気持ち、ありがたく受け取っておくぞ。長旅で疲れているだろうから、まずは体を休めよ。明日にでもまた、酒食を共にしようではないか」
「はっ、お気遣い、ありがたく」
そんな感じで曹操は、上機嫌で去っていった。
そうか、あれが今をときめく、司空閣下か。
体は小柄だけど、なんかこう、貫禄があるな。
彼に認められれば、俺にも栄達の可能性が出てくる。
なんとか手柄を立てて、褒美をもらいたいもんだな。
江東での指揮権とか、もらえないもんかね?
それからしばらくは、黄河をはさんで袁紹軍とにらみ合う時間が続いた。
しかし春になると急に、敵が攻めてきたんだ。
「袁紹軍が白馬を襲う構えを見せた。江東軍には大至急、援軍に赴いてほしいとの、司空閣下の仰せである」
「その任、承りました」
よ~っし、いよいよ俺の出番だぜ。
ここで手柄を立てて、褒美を勝ち取らなきゃな。
ヘヘヘ、腕が鳴るぜ。
その後、俺たちは大急ぎで白馬へ駆けつけ、袁紹軍と対峙している味方に合流した。
全体の兵数は向こうが少し多いようだが、それほどの差はない。
これなら十分にやり合えるってもんだ。
やがて前線で戦闘が始まると、戦場は一気に混乱した。
そんな中で俺は曹操さまの指示に従い、味方右翼の応援に駆けつける。
そして俺が先頭に立って矛を振るえば、江東の兵も負けじとついてきた。
よ~し、いいぞ。
その調子だ。
それ、もっと敵を押し返せ。
夢中になって矛を振るっていると、敵の指揮官らしき武将が、馬に乗って登場した。
「我が名は淳于瓊 仲簡。そこな武将よ、尋常に勝負せよ!」
「おう、俺の名は孫策 伯符。その勝負、受けた!」
ワハハ、味方が劣勢なんで、一騎打ちに持ちこんできたか。
だがそれこそ、こっちの思う壺だ。
叩きのめしてやる。
俺は矛をしごくと、堂々と淳于瓊の前に立ちはだかった。
すると相手も馬を降りてきて、矛を構える。
ふむ、なかなかの武将のようだな。
「ゆくぞっ!」
「おおさっ!」
淳于瓊が鋭い突きを放ってきたので、それを矛ではじきとばす。
すかさず反撃に出るが、敵もさるもの。
こちらの攻撃も淳于瓊には届かない。
それでも手を変え品を変え、攻撃を繰り出していると、敵がわずかにたたらを踏んだ。
「そりゃっ!」
「ぐうっ、やるな」
致命傷にはならなかったが、淳于瓊の左腕に傷をつけた。
その傷の痛みで、敵の動きが徐々に悪くなっていく。
やがて体勢を崩した隙を見逃さず、俺は渾身の突きを放った。
「うりゃあ!」
「ぐはあっ……む、無念……」
俺の矛に腹を深く貫かれ、淳于瓊がガクリと足を着いた。
どうやら勝負、あったようだな。
俺はすかさず敵にとどめを刺すと、高らかに勝ち名乗りを上げた。
「敵将 淳于瓊、この孫策が討ち取った~っ!」
「「「おお~っ!」」」
「うわ~、将軍がやられちまった~!」
「逃げろ~!」
味方が歓声を上げると、敵兵の士気が一気に下がり、我先にと逃げはじめた。
おかげで敵の左翼が崩壊し、形勢が味方に傾いたのだ。
おいおい、ひょっとしてこれって、けっこうな戦功なんじゃねえの?
これなら江東の指揮権を得るのも、夢じゃねえかな。




