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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第3章 荊州攻略編

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幕間: 甘寧は将軍にあこがれる

 俺の名は甘寧かんねい 興覇こうは

 益州生まれの無頼者だ。


 一時は官吏をやったこともあるが、性に合わなくて辞めちまった。

 その後は似たような半端もんとつるんで、馬鹿をやってたな。

 やがて荊州の南陽郡に流れてきて、やはり徒党を組んでいた。


 そしたら董卓の残党みたいなヤツがのさばってきたので、俺はまた拠点を移すことにしたんだ。

 噂では徐州牧の劉備ってのが、揚州でも勢力を伸ばしてるらしい。

 おもしろそうだったんで、俺は揚州を目指したんだが、江夏郡で足止めを食らってしまう。


 大勢の配下を連れてたもんだから、目をつけられたんだ。

 それで兵士の真似事をやってたら、なんと例の劉備が攻めてきやがった。

 しかし大した兵力じゃなかったから、黄祖のおっさんが防ぐだろうと思ってた。


 敵はなかなか巧みな戦をするそうだが、夏口の城を盾にすればどうってことない。

 しかしそんな感じで防いでいたら、長沙や零陵で反乱が起きたってんだ。

 おまけになにやら、味方の中に不穏な噂が立つようになった。


 なんか、劉表は朝敵だとか、いずれ曹操の大軍が攻めてくるとか、そんな話だ。

 これが巧みに流布されたおかげで、味方の士気はどんどん下がっていく。

 さらにダメ押しとばかりに敵の兵が増強され、夏口城は猛攻撃を受けた。


 援軍もないままに戦っていたら、とうとう黄祖が降伏してしまう。

 さすが、飛ぶ鳥を落とす勢いの劉備軍だな。

 できれば俺も、雇ってもらえねえかな。


 そう思っていたら、本当に仕官のお誘いがあった。

 嬉しいことに、劉備さまは俺のことを知っててくれたらしいんだ。

 それで顔合わせをしたんだが、想像以上に普通で拍子抜けした。


「俺が甘寧かんねい 興覇こうはだ」

「おい、無礼だぞ、貴様」

「いいって、関羽。ようやく会えたな。俺が劉備 玄徳だ」


 劉備さまは大きな耳と長い腕が目立つが、見た目はあまり冴えない感じだ。

 言葉遣いにうるさくないのは、助かるけどな。

 それであっさり採用が決まった後、関羽の旦那に訊ねられた。


「どうであった? 劉備さまは」

「……なんていうか、思ってたより普通でしたね。袁術を追い払って、揚州に平和をもたらした英雄って感じじゃあねえです」

「フフフ、そうか。あれでけっこう、戦も強いのだがな。まあ、兄者の本質はそこではない。我らのような将を引き寄せ、上手く働かせてくれるようなお方だ」

「へ~、将の将たるお人ってことですかい。ずいぶん信用してるんですね」

「うむ、生死を共にすると誓った義兄弟だからな」

「へえ、それはうらやましい」


 思わぬ主君自慢に鼻白んでいると、旦那が話題を転換した。


「ところで甘寧」

「へい」

「劉備さまはいずれ、襄陽じょうようへも侵攻するつもりだ。何か良い方策はないか?」

「へ?……すぐにですかい?」

「そんなわけがなかろう。しばらくは江夏郡の制圧で手一杯だ。しかしそれが終われば、劉表の討伐に動くだろう」

「は、はぁ。しかし襄陽は難攻不落の堅城ですよ。ちょっとやそっとじゃあ、落ちねえと思いますがね」

「うむ、それは聞いている。力攻めをすれば、相当な犠牲が出るだろうな。だからそれを減らすための策が欲しい。何か考えてくれんか?」

「……配下の野郎どもと相談するんで、少し時間をください」

「うむ、頼んだぞ」


 この夏口城の攻略だけでも大したもんだってのに、もう襄陽攻めを考えているときた。

 劉備さまってのは、そんなに戦が好きなのかねえ。

 これは思ってた以上に、厳しいお勤めになりそうだな。


 その後、俺は配下を集めて、相談を持ちかけてみた。


「というわけで、襄陽の攻略について、知恵を貸してほしい」

「なるほど。そういうわけですかい。しかし大将。よりによって襄陽城を落とすなんて、無茶ぶりが過ぎやせんか?」

「分かってるよ。だけどできればここで一発、俺たちの価値を示しておきてえな」

「「「う~ん……」」」


 みんなが悩む中、1人の男が手を挙げた。


「まあまあ、大将。別に俺たちだけで落とせってんじゃないでしょう? それならやりようはありまさあ」

「やりようって?」

「あっしらの中には、襄陽出身の者もいるし、知り合いも多いです。その伝手で城に潜りこんで、お味方を支援するってのはどうですかね?」

「密偵を送りこむのか。しかしそれぐらいで、どうにかなるもんか? それにあまり危険なことは、させたくねえぞ」

「まあ、そこはそれ。関羽の旦那ともご相談ってことで」

「う~ん、まあ、とりあえず俺たちができそうなことを洗い出すか」


 そうしてやれそうなことを洗い出して、関羽の旦那に相談にいった。

 そしたら思いのほか好評で、いろんな助言をもらったんだ。

 旦那が歴戦の勇士だってのは知ってたつもりだが、想像以上だな。


 密偵の使い方とか攻城戦のやり方を、よく知ってるんだ。

 すげえ勉強になるぜ。


 その後、思い切った提案も盛りこんで、襄陽の攻略案を作り上げた。

 それを旦那と相談していると、真剣な顔で問われたんだ。


「甘寧。この案だと、お前が最も危険な目に遭うのだぞ。その覚悟はあるのか?」

「う……もちろんです。こうでもしなけりゃ、襄陽は落とせないすからね。ただしこれが上手くいったら、褒美の方は弾んでくださいよ」


 すると旦那は腕組みをして、少し考えてから、言ったんだ。


「たしかに、これぐらいやらねば城は落ちんかもしれんな。しかしお前たちをむやみに失うつもりもない。我らも精一杯、支援をして、成功率を上げようではないか」

「さすがは関羽の旦那。頼りにしてますぜ」


 こうして襄陽の攻略案は完成し、劉備さまの許可も得られた。



 そしてとうとう、襄陽の攻略が始まったんだ。


「予定どおりに籠もってくれたな」

「ええ、これも劉備さまが、噂をばらまいたおかげでしょ」

「ああ、味方は来ないとか、劉表は逆賊だとか、盛大にばらまいたようだな」

「言うのは簡単ですが、おっそろしい話ですね」


 そう、これが劉備さまの恐ろしいところだ。

 事前に情報を操作することで、敵の兵力を減らしてしまう。

 今回も思うように兵が集まらなかった劉表は、早々に籠城を決めたと聞く。

 おかげで作戦の成功確率が、高まったってもんだ。


 その後もむやみに攻めるのではなく、軽く圧力を掛けながら、城内の士気を下げる工作を続けた。

 もちろん俺の配下やその手勢が城内に潜りこんで、内側からも不安をあおっている。

 そうこうするうちに敵の士気低下が、外からも明らかになってきた。


「そろそろ攻め時かな?」

「ええ、そろそろよろしいのでは」

「ヘヘヘ、それじゃあ、今夜にでも」

「ああ、任せたぞ」


 こうして襄陽への、本格的な攻撃が決定したんだ。


 そしてその日の晩、俺は東門の近くで出番を待っていた。

 やがて城内が騒がしくなると、関羽の旦那が攻撃を指示する。

 どうやら俺の配下の誰かが、撹乱工作に成功したようだ。


 同時に西門と南門でも陽動攻撃が始まり、襄陽の周辺がにわかに騒がしくなる。

 そんな中で我が軍は、大ぶりな盾や竹束を前に出して、ジリジリと城門へにじりよった。

 そしてある程度、近づくと、その陰から弓矢や強弩で城壁に攻撃を掛けていく。


 当然、敵の反撃もあるが、その勢いはそれほど強くない。

 なぜならこの東門では2万人もの兵力を投入し、敵を圧倒しているからだ。

 しかも関羽の旦那の指揮で、ほとんど切れ目のない攻撃を実現している。


 その采配は実に見事なもので、思わず惚れ惚れするほどだ。

 そうこうするうちに、敵の方で何か手違いでもあったんだろう。

 ふいに抵抗が弱まったんだ。


 それを絶好の機会と見た俺は、すかさず配下に号令を掛ける。


「野郎どもっ、突撃だ!」

「「「おお~~っ!」」」


 恐れを知らぬ野郎どもが、一斉に城門へ押し寄せる。

 こいつらは城門を内から開けるために組織した、決死隊だ。

 俺たちはハシゴを立てかけたり、カギ爪つきの縄を城壁に投げかけて、城壁上を目指す。


 しかしその程度でたどり着けるほど、敵も甘くない。

 雨のように石や矢が降り注ぎ、配下どもが傷ついていく。

 味方もここぞとばかりに攻撃を強めるが、敵も必死だ。


 ああ、あいつが落とされた。

 大きなケガをしてなけりゃあ、いいんだがな。

 うおっ、あいつも落ちてきやがった。

 頼むから、死ぬんじゃねえぞ。


 くそう、俺が先頭をきって登れれば、どんなに気が楽か。

 だけどまだ俺の出番じゃねえ。

 隊長が突っこんでケガをしてたんじゃ、洒落しゃれにならねえからな。


 もう少しだ。

 もう少しで仲間たちが、城壁上にたどり着く。

 頼むぜ、兄弟。


 ……

 ……

 ……


 やがて城壁上に、ポッカリと空間ができた。

 数人の仲間がたどり着いて、敵と戦っているんだ。


「野郎どもっ、俺に続けえっ!」

「「「おお~っ!!」」」


 すかさず号令を掛けながら、俺はハシゴを駆け上がった。

 それを登りきると、当たるを幸いと敵に斬りかかる。


「お前らっ、よくやった。ここからは俺も一緒だぜ!」

「おうっ、兄貴が来たなら百人力だ!」

「この勝負、俺たちの勝ちだな!」


 その後は無我夢中で戦ったんで、よく覚えてねえ。

 とにかく敵を斬りまくって、東門の内側にたどり着いたんだ。

 そして門を内側から開け放つと、趨勢は決まった。


「城門が開いたぞ。皆の者、突入せよ~!」

「「「おお~~っ!」」」


 次々と入ってくる味方を先に行かせると、ようやくひと息つけた。

 そしてしばらく息を整えていると、関羽の旦那が現れたんだ。


「甘寧、良くやったな」

「へっ、旦那の方こそ、見事な指揮でしたよ」

「フッ、大したことはない。いずれにしろこれでお前も、一端いっぱしの武将だな」

「ありがとうございます。どうせなら俺も、将軍になれないですかね?」

「フハハッ、いいぞ。劉備さまにお願いしてやろう。当面は名乗ってるだけの、自称だがな」


 豪快に笑いながら言った旦那の言葉に、俺は引っかかりを覚えた。


「当面はって、いつかは本物もあり得るんですかい?」

「ああ、劉備さまはこの程度で終わるお方ではない。いずれは中原を制して、天下に号令する時がくるかもしれんぞ」


 ニヤリと笑う旦那は、それが現実になると信じているようだ。

 そこで俺も話を合わせて、大きな口を叩いてみる。


「なるほど。それなら正式な将軍位をもらえるよう、俺も精進しますかね」

以上、入念な下準備に、関羽の巧みな指揮、そして甘寧の決死行動によって、襄陽は落城しましたとさ。

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[良い点] 蜀好きなので楽しく読んでます! [一言] 魏に張遼あらば(ない)呉に甘寧あり!(ない) かわいそう
[一言] なるほど、前回「甘寧一番乗り!(画像略)」はやらないのかと思ったらあえて先陣を切らずに後ろに控えてたのねw
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