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逆行の劉備 ~徐州からやりなおす季漢帝国~  作者: 青雲あゆむ
第1章 徐州平定編

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幕間: 関羽は前生を省みる

 儂の名は関羽かんう 雲長うんちょう

 劉備さまを義兄と仰ぎ、彼に仕える武人よ。


 兄者とは黄巾の乱が起こる前に、幽州の涿郡たくぐんで出会った。

 儂が故郷で揉め事を起こし、逃げた先での出会いだ。

 兄者とはなぜかひどく馬が合い、最初から大いに意気投合したものだ。


 ちょうど同じ頃に知り合った張飛と共に、やがて大望を成してやろうと、盛り上がったものよ。

 やがて我らは黄巾の乱討伐の義勇兵に名乗りを上げ、いくらかの戦功を挙げた。

 おかげで兄者は役人に取り立てられ、我らにも出世の機会があるかと思ったのだが。


 兄者はあまりこらえ性のない人で、ちょっとしたことでお役目を投げ出してしまう。

 結局、職を転々とした末に、旧知の公孫瓚こうそんさんどのにお世話になることになった。

 その後も中原が混乱していたため、あちこちを転戦することになる。


 一時は兄者が徐州を支配することもあったのだが、袁術や呂布のせいで、その地位も失ってしまった。

 あれは臣下として、実に情けない事態であったな。


 その後、曹操を頼って呂布の討伐には成功したが、元の地位に戻れるはずもない。

 やがて曹操との関係も悪化して、劉備さまは袁紹の下へ逃げざるを得なかった。

 その際、不幸にも儂は逃げ遅れ、曹操の捕虜となってしまう。


 しかし驚いたことに、曹操は儂を客将として厚遇してくれたのだ。

 あまりに手厚いので裏を疑ってしまったが、単純に彼は才ある者が好きなのであろうな。

 結局、敵将を討ち取ることで借りを返してから、兄者の下に戻ることができた。

 あの時に培った張遼との友誼ゆうぎは、良い思い出である。


 その後、劉表の下で用心棒をやっていると、とうとう曹操が荊州に攻め入ってきた。

 折悪しく劉表は鬼籍に入ってしまい、さらに後継者の劉琮りゅうそうは即座に白旗を上げる始末。

 いよいよ我らも、進退極まったかと思ったが、兄者は孫権との同盟でそれを乗り切った。


 もっぱら孫権の水軍のおかげだったが、なんとも強運なことよ。

 その機に乗じて我らは荊州の南部を支配し、久しぶりに根拠地を得た。

 さらに益州をも取ることで、かつてないほどの勢力を従えることになったのだ。


 フハハッ、さすがは劉備さまよ。

 しかし彼らが益州で着々と成果を上げている頃、儂は荊州の留守を守るばかり。

 その間に黄忠こうちゅう馬超ばちょうといった新顔が、儂と同格の将軍に成り上がったという。


 それを聞いた儂は、居ても立ってもいられず、襄陽の制圧に乗り出したのだ。

 いま思えば、焦っていたのであろうな。

 本来は協力するべき孫権を軽んじ、むしろ敵意を高めてしまった。


 さらに後方を預かる諸将にもきつく当たり、自分の足元を弱めていたとは。

 その結果が、孫権の裏切りと、味方の離反を招き、儂は命を落としたのだ。

 悔やんでも悔やみきれない最期であった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 しかし不思議なことに、儂は徐州でその記憶を取り戻す。

 きっかけは兄者が倒れ、その見舞いにきて抱きつかれたことだった。

 その泣き顔を見ていたら、ふいに記憶が蘇ったのだ。


 これは一体、どうしたことだろうか?

 その後、兄者や張飛と話し合ってみると、どうやら我々は未来の記憶を持ったまま、30年近く若返ったらしい。

 兄者はそれを、”前生の記憶を持って、今生に生まれ変わった”と言うのだが、まさにそうとしか言いようがなかった。


 なぜそんなことになったのか、さっぱり見当もつかないが、やることは決まっている。

 前生の記憶をもって、その失敗をひっくり返すのだ。

 徐州を呂布に奪われたことしかり、孫権に裏切られて死んだことしかりだ。

 死の間際に感じた悔しさ、申し訳なさを二度と繰り返すまいと、我らは誓ったのだ。



 それから我らの2度めの人生が始まった。

 兄者はその経験を活かして、まず治安を回復し、さらに豪族の懐柔と引き締めを図った。

 それは容易なことではなかったが、兄者は着々と政策を進めていく。


 さすが、60年以上も生きた古強者ふるつわものといったところか。

 もちろん儂や張飛も兵を率い、それに協力した。

 頭の中身はジジイなのに、体は精力にみなぎっているというのは、奇妙な感覚であるな。


 しかしおかげで、兵の指揮がしやすくて良い。

 以前の儂であれば、真っ先に突っこんでいたであろう状況でも、冷静に兵を動かすことができる。

 おかげであまり兵を損なわずに、豪族や盗賊の討伐が進んだ。


 結果、徐州は想像以上の早さで治安が回復し、倉には食料と銭が積み上がって、道ゆく人々の顔も明るい。

 我ら統治側は目の回るような忙しさだが、たしかなやりがいも感じている。

 うむ、初めて為政者らしいことを、やっている気がするな。


 それに兄者からさんざん指摘された欠点も、直りつつあった。

 前生では名士でございとふんぞり返ってる連中には、よく突っかかっていたからな。

 なまじ腕に自信があるものだから、我慢できなかったのだ。


 しかし前生で無様な死を迎えたせいか、今は不思議と謙虚な気分になれる。

 おかげで名士連中とも上手くやれて、仕事がはかどるわ。


 その辺は兄者や張飛も、似たような状況らしい。

 兄者は短気なところが減ったし、その行政能力はすでに高いものがある。

 張飛も思慮ぶかい行動が増え、部下とも上手くやっているようだ。


 やはりそれぞれに、思うところがあったのでろうな。

 これならば前生で果たせなかった夢も、果たせるかもしれん。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 そうこうするうちに、呂布がこの徐州へ逃げてきた。

 曹操に負けたうえでの逃避行のくせに、相変わらず堂々としておるわい。

 以前はその厚かましさに、呑まれていた感があったが、今生でそうはいかん。


 ほほう、張飛を留守であることにして、いざという時に備えるか。

 呂布が何か企んでも防ぎやすいし、何もなければそれで良しだな。


 しかし呂布のヤツは、案の定、とんでもないことをしでかしおった。

 兄者を人質に取って、兵糧と財貨を要求してきたのだ。

 まったく、恥知らずもここまで来ると、ちょっと感心するほどだ。


 しかし兄者の打っておいた手によって、ヤツは捕らえられ、縛り首となった。

 おまけに呂布の首を曹操への贈り物とし、足元を固めることまでできている。

 さらに陳宮や張遼を仲間に引き入れるとは、大したものよ。

 これで今生では、より深い友誼を張遼と結べそうだな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その後、兄者の誘いに乗って、袁術が攻めてきた。

 我々は即座に盱台くいに駆けつけると、敵に攻め掛かる。

 少々、敵の方が数は多いが、儂の敵ではなかろう。


 案の定、優勢に戦いを進めていると、敵の将が出てきた。

 儂の前に出てくるだけあって、そこそこにできそうな男だ。


「儂の名は紀霊きれい。腕に覚えがあるのなら、掛かってこい!」

「おう、その勝負。この関羽が買った!」

「その意気やよし!」


 げきを構えた紀霊と儂が、数歩の間をおいて睨み合う。

 やがて紀霊が戟を振りかぶり、豪快に打ちかかってきた。


「それっ!」

「ふんっ」

「やるな、しかしまだまだ!」

「なんの、これしき」


 紀霊の打ち込みは激しかったが、まだまだよ。

 20合ほど打ち合うとヤツの底が知れてきて、とうとう儂の矛が敵を捉えた。


「そりゃあっ!」

「ぐはっ」


 こうして紀霊を討ち取ると、敵は総崩れになって逃げていった。

 少々、あっけないほどだが、我が軍の勝利だ。

 前生ではあれほど苦労したというのにな。


 この分なら、前生の夢を果たすのも、そう遠くないかもしれんな。

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