プロローグ
新作はじめます。
「諸葛亮よ。貴殿の才能は曹丕の10倍はある。きっと国を安定させ、大事を果たすであろう。もしも我が子が仕えるに値するなら、補佐してやってくれ。しかしそうでないなら、貴殿が国を治めるがよい」
「とんでもありません。臣は劉禅さまを支え、国を守ってまいります」
「フッ、ならば貴殿の好きなようにせよ。後のことは、任せた、ぞ……」
「劉備さまっ!」
もうしゃべる気力もない俺の意識は、闇に落ちていく。
今まで精一杯、生きてきたが、俺もここまでのようだ。
格好をつけて季漢王朝を立ち上げたっていうのに、締まらない話だな。
本来、戦うべき相手が曹魏だったということは、俺も十分に分かっている。
しかしかけがえのない義兄弟の関羽を殺した孫呉を、どうしても許せなかったんだ。
それで不用意に荊州へ攻めこんだ結果が、このざまだ。
陸遜とかいう敵将の策にはまり、大敗を招いてしまった。
頼りにしていた張飛が、味方に寝首をかかれたのも痛かったな。
剛勇無双の義兄弟たちが、いかに俺を支えてくれていたのか、改めて思い知ったよ。
ああ、関羽よ、張飛よ。
お前たちは幸せだったか?
こんな情けない俺についてきて、後悔はしていないか?
俺は後悔ばかりだよ。
一時は徐州牧にすら、なったというのになぁ。
あのまま上手くやっていれば、もっと早く群雄として成り上がれたろうに。
それを呂布なんていう野良犬を信じたせいで、徐州を乗っ取られちまった。
あの時は本当に情けなかった。
嫁や子供を人質に取られ、呂布や曹操の下風に立たされたんだからな。
幸いにも呂布は殺せたが、その後、曹操や袁紹とも不和になり、荊州に落ち延びることになった。
あれからしばらくは、劉表の用心棒をしていたもんだ。
おかげで太ももにぜい肉が付くぐらい、体が鈍っちまったが、その間にいいこともあった。
諸葛亮という頭脳を見つけたのだ。
それまでの俺は、行き当たりばったりに動くだけで、地盤を得られなかったからな。
しかし諸葛亮のヤツは、明確な目標を俺に示してくれた。
おかげで曹操が俺を殺しにやってきたにもかかわらず、その危機をくぐり抜け、荊州の一部のみならず、益州まで手に入れることができたんだ。
そしてとうとう季漢王朝の皇帝を名乗ったはいいが、その陰で俺は関羽と張飛を失っていた。
あいつらと喜びを分かち合うために、俺はがんばっていたというのに。
彼らのいない玉座になど、なんの意味があろうか。
それで捨て鉢になった俺は、無謀な侵攻を仕掛けて大敗したわけだ。
周りの奴らには、迷惑を掛けちまったなぁ。
だけどなぁ、やらずにはいられなかったんだよ。
まるで俺の半身をもぎとられたようで、どうにも耐えられなかったんだ。
わりい、諸葛亮、劉禅。
俺は逝くわ。
願わくばあの世で、また関羽と張飛に会いてえなぁ。
…………
……