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軍師の心情 ~曹操の軍師たち~  作者: 西本夏
3.兗州平定
40/64

40:<郭嘉編>曹操の強さ

呂布が来るのはまだ先だろう。そう思っていたのに、郭嘉の予想より早く呂布が攻めてきた。慌てる郭嘉とは対照的に、曹操はまるでこの状況を楽しむかのように笑っていた。

 異変が起きたのは、その数日後だった。

 麦の刈り入れが始まり、軍のほとんどが前日から城市の外へ出て行っている。その時に、東を警戒していた兵がすっとんできたのだ。

「呂布が来た!?」

「は、はい! 昨日の昼呂布が軍を率いて東緡を出たと」

 地図を広げて向き合っていた曹操と郭嘉は、すぐに顔を見合わせた。

「てことはもう、昼ごろにはこっち、着きますよね」

 もう昼までには一時もない。

 どうする。刈り入れに向かった兵を呼び戻すか。しかし、刈り入れに向かった軍はかなり広範囲に広がっている。今から伝令を出して間に合うかどうか。

「数は?」

 曹操が冷静に兵に問うた。

「お、おそらく一万ほどではないかと」

「ほぼ全軍か」

 曹操がひげをさすり、にやりと笑った。

「呂布はここで決めに来たな」

 今、城に残っているのは曹操の親衛隊の兵たちのみで、わずか千人程度だ。とても戦ができるような数ではない。郭嘉は背筋が凍るような感覚に襲われていたが、それでも曹操の落ち着いた様子は変わらなかった。

「殿」

 どうしますか、と言いかけ、言葉に詰まった。そんな言葉が許されるのか。呂布はきっとこちらが出陣するまでは来ない、と言ったのは自分だというのに。

 しかし、言葉に詰まった郭嘉を見透かしたように、曹操は面白くなってきたとばかりにやりと笑った。

「城内に伝令。具足が余っているはずだから、城内にいる者全員に具足をつけさせ、城壁の上に並ばせろ。文官も女も例外なくだ」

「は、そ、それは、その……」

「女たちに戦をさせるのではない。守兵が充分に残っているようにみせかけるのだ。早くしろ! 猶予は一時もないぞ!」

「は、はっ!」

 伝令が慌てて走っていく。次いで曹操は別の伝令に、自身の親衛隊にむけて、具足を身に着けた住人たちをうまく兵に偽装して城壁の上に並べるよう指示を出していた。

「偽兵、ですか」

「今はそれしかあるまい」

「そうですね。時間を稼いで、その間に兵を呼び戻すしか」

「そうだ。そちらは、これから伝令を出す」

 曹操は紙と筆を取り出すと、手早く命令書を書き始めていた。

「呂布は――というより、陳宮だろうが、おそらくこちらの動向を掴んでいたのだろう。そして、刈り入れの田畑が広範囲に及び、一時的に城が空になることも把握していたに違いない。やるなら今だ、と思ったのだろう」

「ですけど、今乗氏を落としたってたいして穀は手に入らないですよ。城だけ獲っても」

「拠点の確保を優先、あるいは俺の首を狙っただけ、とも考えられるし、城さえ落としてしまえば穀を持って帰ってくるところを狙えると考えた可能性もある。あるいはお前の言う通り、呂布が待つのが苦手だとするなら、単に待てなかったのやもな」

 書き終わった命令書を曹操が差し出してくる。二通あるうち、一通は夏侯淵あてのもの。兵二万の内五千は残し、同行している荀彧の指揮で刈り入れを続けさえ、残りは乗氏へ戻るようにという命令だ。曹仁向けのものは全軍で戻るように、とある。

「行くぞ、奉孝。外で状況を確認する。策はそこからでも考えられるだろう」

「はい」

 郭嘉は持っていた命令書をそれぞれ小さく折りたたむと、伝令に渡し、曹操と共に城壁へと向かった。




 曹操と郭嘉が城壁の上に到着した後、文官や女たちがぞろぞろと城壁の上に上がってきた。皆具足を身に着け、武器を持ってはいるが不安顔だ。無理もない。戦に出たことのない、特に女ともなれば城を守るために戦うなど、想像もつかないだろう。

 落ち着けと言って収まるかどうか。

 心配する郭嘉をよそに、曹操は作戦を練ることの方に気が向いていた。

「呂布がどう出てくるかだな。ここはさほど城壁は高くない。が、呂布はおそらく攻城戦は想定していないと見る。連中からすれば、空だと思っていた城に兵が残っているだけでも想定外だ。一瞬躊躇するだろう。遠目から見れば、具足をつけていれば男も女もわからん」

「あきらめて帰ってくれればいいですけど」

 兵さえいれば、呂布を討つ絶好の機会だったはずだ。しかしそれも、今は不可能だ。

 郭嘉は城壁の上から周囲を見回した。城の西には川に沿って堤防があり、南の街道沿いにはうっそうとした森が続いている。兵を伏せるにはどちらも使える。しかし、手持ちの兵は今一千しかない。

「全員上に並べば、数千は中にいるように見えると思うんですけど」

 ぞろぞろと上がってくる偽兵たちを見ながら、郭嘉は腕を組んだ。城壁の下から見る分には偽兵だとはわからないだろうが、士気が高いか低いかは遠目にもなんとなく感じるものだ。怯えた偽兵たちでは士気が低いことは見抜かれるかもしれない。

「そこはやりようだ」

 しかし、城壁の外を見つめる曹操は落ち着いたものだった。

 曹操はすごい。

 郭嘉はしみじみ思った。不測の事態だ。少しくらい慌てたっていいだろうに、曹操はむしろこの状況を楽しんでさえいるように見える。こういうところが、彼の底力なのかもしれない。

 現に今も、彼はまるで勝ちが見えているかのように微笑んでいた。

「見よ、奉孝」

 曹操が城壁のすぐ外を指さした。

 彼は城壁のすぐわきの堤を指し、次にすぐ近くから広がるうっそうとした森を指さした。兵さえいれば、伏兵を隠す絶好の場所だっただろう。

「お前ならこの城、どう攻める?」

「うーん、普通なら、あっちの堤と森からの伏兵を警戒して、攻城兵器組みますけど……」

 呂布に伏兵を警戒する、などという能があるかどうか。それに、呂布は攻城を苦手としているはずだ。

 しかし、今回乗氏攻めを決めたのが陳宮だとすれば、動きを決めるのは陳宮だろう。となれば……

「ここまで、二度も呂布は伏兵で痛手を負っています。多分、陳宮が見かねて軍に口を出したんだ。だから、陳宮側に立って考えると、あの堤の裏とか森に伏兵がいるって考えるんじゃないでしょうか。そのためには、連中を挑発して、あえて準備万端待ってたみたいにふるまった方が、連中は警戒して退く可能性が高い」

「そうだな。それで連中が退けばよし、退かなかったとしても、どの道妙才か子孝が戻ってくるのを待つしか手はない。弩と弓を使えるものを多くこちらに配置せよと言ってある。最悪の場合は、攻められたら弓で応戦するしかないな」

「殿の近習の兵たちはどうしますか?」

「百は城壁の上の偽兵を指揮させる。残りは不測の事態に備えて城門の内に待機。後は、その場で考える」

 その場で考える、と言い切ってしまえる曹操に、郭嘉はまた驚いた。一千で一万を相手にするのに、どうしてこうも落ち着いていられるのか。今も郭嘉は呂布がこうきたらこう、と必死に思考を巡らせているというのに。

 思わずじっと見つめると、曹操が郭嘉を見てにやりと笑った。

「お前は、不測の事態は初めてだな、奉孝。顔がこわばっておる」

「そ、それは……」

「そういうところは文若の方が一枚上手やもな。あいつは、東武陽でわずかな兵で賊徒に城を囲まれた時、至極冷静に対処したという話だからな」

「文若殿が?」

 荀彧は今、夏侯淵と共に刈り入れの軍に同行していた。刈り取った麦をどう分配してどこへ運ぶか、現地で采配した方が早いと考えたらしい。

「一緒に指揮した陳宮が歯噛みしておったわ。初陣のくせに慌てた顔の一つもしなかった、とな」

 懐かしむような、しかしどこか悲しげな眼差しで、曹操が城壁の外に目を向ける。

 殿、と言おうとして、郭嘉は思わず口をつぐんだ。なんとなく、声をかけるのがはばかられたのだ。しかし一瞬後、曹操はまたいたずらな笑顔に戻って郭嘉に視線を戻した。

「結局、俺も文若の慌てたところは見たことがないな。頼もしいといえば頼もしいが、あいつはかわいげがない。その点、お前は実にかわいげのある」

「なっ」

「奉孝、よく覚えておけ。戦で不測の事態なぞよくあることだ。策にはめるはずが、逆にはめられることもな。そこからどう勝つかは、その時己がどれだけ落ち着いていられるかにかかっていると覚えておけ」

「は、はい」

 呂布軍が来たのは、それからしばらくした後だった。

「来たぞ! 全軍整列! ここで呂布を跳ね返すのだ!」

 曹操の檄に、全員が喚声で応える。これも、あらかじめ指示してあったとおりだ。城外に整列を始めた呂布軍には、城市の兵の士気が高いように見えてくれることを祈るしかない。

 ――やっぱり、一万くらいか。けど……

 城壁から見下ろすと、呂布軍の心臓とも言うべき彼直属の騎兵が陣の中心にいるのが見えた。馬が中原の馬とは違って大きいのですぐわかるのだ。しかしその数は明らかに少ない。

「呂布の騎兵、かなり数を減らしましたね。百騎、いるかいないかくらいじゃないかな」

「そのようだ。お前が再三罠にはめた成果だな、奉孝」

 曹操と言葉を交わすが、それでも相手の十分の一しか兵がいないことには違いない。城壁の外に呂布軍が整列を終えると、さすがに郭嘉も威圧感を覚えずにはいられなかった。

 夏侯淵と曹仁が戻ってくるまでどの程度かかるか。一日はかからないだろうが、あと一時というわけにもいかないだろう。あとは、どこまで呂布をだませるか。

 思わず拳を握る。

 しばらくすると、呂布軍の中から一騎、進み出てきた。

「曹操!」

 呂布だ。赤く大きな馬に乗り、戟を手に一騎進み出てくるその姿だけは、遠目に見ても実に立派だった。

「お前らが麦の刈り入れに出て、城内に兵が少ないことは知っているぞ! 死にたくなければ城を明け渡せ! さもなくば、その首もらい受ける!」

 城壁の上と、呂布のいる場所では五十歩ほどの距離がある。それでも、呂布の怒号は城壁の上の偽兵を脅かすには十分だった。ちらと見ると、今のところは逃げ出すような者はいないが、皆怯えているのがわかる。

 どうするか。

 しかし、偽兵を見ていた郭嘉をよそに、曹操は楽しげに目を細め、城壁の淵に身を預け、嬉々として呂布に言い放った。

「奉孝の言う通り、お前はとことんまで頭の軽い男よな、呂布」

「何!?」

「この私が、何の策もなく城を空にするとでも思ったのか?」

 呂布を侮って城をほとんど空にしてしまった郭嘉としては、曹操の言葉が耳に痛い。しかし、曹操の言葉は驚くほど自信たっぷりで、いかにも呂布を待ち構えていたかのようだ。

 ――殿、すごい。

 郭嘉は心底感心した。

 案の定、眼下の呂布からは、さっきまでの落ち着きは消え去り、慌てた様子で後ろを振り返っている。しばらくして、整列した軍勢の中から数人が進み出てきた。呂布に勝るとも劣らない立派な馬に乗っているのはおそらく張遼だろう。そして、もう一人、具足を身に着けてはいるが、小柄な文官風の男は――。

「……陳宮」

 郭嘉がぽつりとつぶやくと、曹操がちらと郭嘉を振り返った。しかしそれにも気づかず、郭嘉の視線は眼下の陳宮に釘付けになっていた。

 呂布と張遼、陳宮が何を話し合っているのかはさすがに聞こえない。ただ、慌てる呂布を陳宮が必死に説得しようとしているのは見て取れた。

「陳宮!」

 郭嘉はほとんど無意識のうちに声を挙げていた。

 郭嘉の声に、眼下の三人が一斉に城壁の上を見上げてくる。

「郭嘉!? お前なぜ、そんなところに!?」

 最初に声を挙げたのは呂布だった。

「探していたんだぞ! 濮陽以来どこへいったかもわからず……。そうか、曹操に囚われていたのだな!」

「はぁ?」

「安心しろ! 今すぐ助け出して――」

「ふっざけんなよ! お前どこまで頭悪いんだよ! そのおめでたい頭にしっかり刻みこんどけ! 俺は元々お前を陥れて、お前を殺すために入れ知恵してたんだよ! 殿に、勝たせるためにな!!」

「なっ!?」

「大体なんだよ、その言い草! お前人の母親殺しておいて、どの(つら)下げて『助けてやる』とか言えんだよ!」

「だ、だからあれは、お前が母親のせいで曹操に仕えさせられそうだと陳宮が」

「仮にそうだったとして、母親を殺された俺がなんで能天気にお前に仕えるっつーんだよ! お前のそのすっからかんの頭には親の仇っつー単語すらないのか!? もうバカすぎて意味わかんねえよ!」

 遠目にも、呂布が愕然としているのがわかった。それをなだめるように陳宮が呂布の傍で何か言っているのも。

「いいか、呂布、それと陳宮! 俺はお前らを八つ裂きにするためにずっと待ってたんだ! 今日こそ仕留めてやるから覚悟しろ!!」

 激情のまままくし立てると、呂布と陳宮が言い争い、そこに張遼が口を挟んだのが見えた。呂布が一度だけちらと郭嘉を振り返り、陳宮にうなずく。

 すぐに「撤退!」と張遼の声が響き、退却の鉦が鳴る。

 一刻後には呂布軍は城門の前からすっかりいなくなっていた。

 その様子をずっと城壁の上で見ていた郭嘉は、最初こそ頭に血が上っていたものの、途中からすっかり我を失っていたことに気づいて、内心慌てていた。

 都合よく呂布が退いたからよかったものの、もしあの挑発に呂布が乗ってきて攻められたら大変どころの話ではなかった。

 肝心なところで冷静さを完全に失っていた自分が恐ろしい。かといって、曹操相手に慌ててすみません、などと言うのも気が引ける。

「呂布、退きましたね」

 平静を装って言うと、曹操は楽しげに目を細めていた。

「そうだな。お前の自信満々の挑発で、きっと伏兵がいると思ったのであろう。なんせ奴らは攻城が苦手なうえ、定陶でも鉅野でも、お前の罠にはめられて痛手を負っている。賢明な判断だ」

 曹操は笑いながら、ねぎらうように郭嘉の肩を叩いた。郭嘉が慌てていることをわかっているのか、いないのか。いずれにせよ、郭嘉はきまりが悪くてしようがなかった。

「斥候! 連中がどこに陣を張るか探ってこい!」

 は、と返事がして、兵士が数人走っていく。

「偽兵の諸君はお疲れさまだったな。念のためもう少しとどまってもらうが、日が暮れるまでには戻れるだろう」

 曹操の言葉に、周囲にいた偽兵の女たちから歓声が挙がった。

「で、奉孝。我らはもう一仕事だ。ついて参れ」

「はい」




 府の中の執務室に場所を移し、人払いをして曹操は言った。

「呂布があっさり退いたということは、城内に兵が少ないことはまだ奴らに漏れていない、ということだ。呂布が来ると報があってから、城外には誰も出すなと言ってある。うまく連中の間諜を城内に押しとどめられている、ということだろう。それを、明日になってからあえて外に出す」

「目星はついてるんですか?」

「ああ。手の者が数名、掴んでいる。そいつらはきっと門の警備が薄くなれば外に出て、呂布に伝えるだろう。乗氏の守兵は実は少ない、とな。当然、呂布は再び攻め寄せる。それまでにはこちらも兵が戻ってくるだろう。妙才と子孝、それぞれ一万五千ずつ。これで、お前が言っていた策が実行できる。そうだな、奉孝?」

「そう、ですね。どっちかの軍に回り込んで東緡を攻めてもらえば」

 呂布はほぼ全軍率いてきているはずだ。ということは、東緡を落とすのは簡単だろう。

「呂布さえ討てれば、当初の予定通りだな」

 にやりと笑う曹操に、郭嘉は大きくうなずいた。

「はい」

「東緡には子孝を行かせよう」

「子孝殿に?」

「落ち着いて兵を集め、ひそかに回り込み、東緡を落とす。そういうことは沈着に行動できる子孝の方が向いている。妙才は落ち着きが足りん。密かに東緡を狙えといっても途中で気づかれるやもしれん」

「ああ、確かに」

 夏侯淵と曹仁を思い浮かべると、何かと騒がしくすぐに感情が表に出る夏侯淵より、寡黙で淡々と仕事をこなす曹仁の方が急襲には向いているだろうと思えた。

「でもそうなると、間諜を逃がす時期とか、大事ですね。再び呂布が攻め寄せた時に、まだ城の中に兵が少ないと見せかけなきゃいけないから、あんまり遅すぎてもだめだし、城内に残ってる間諜に兵が戻ってきたことがばれてもまずい」

「そこは抜かりない」

 曹操がすっと背後に目を向けると、いつの間にかそこに見たことのない男が片膝をついて控えていた。さっきまで誰もいないとばかり思っていたのに、驚く。

「あ」

「俺の隠密だ。お前には会わせておいてもよかろう」

 そうは言ったものの、隠密はちらと顔を上げて目を合わせただけで、すぐに首を垂れてしまった。

「報告を。城内に呂布側の人間はどれだけいる?」

「現時点で城内にいるもので、把握しているのは三人です。また夏侯淵様の陣に三人、曹仁様の陣にも二人。いずれも見張りをつけております」

「先程の話、聞いていたか? 再び呂布が攻め寄せるまで、城内には兵が少ないことにしておきたい」

「心得ております。場内にいる者たちが外に出るのを見逃します。夜の警備を緩くすれば自然と奴らは逃げていくものと。留まる者たちは引き続き監視を。夏侯淵様、曹仁様の陣中にあるものが脱走を図れば、始末することになっておりますのでそちらも問題ありません」

「それで全員だという確証は?」

「確かにそれはございません。住人一人一人確かめるというのも不可能でございますゆえ。ただ、不穏な動きをする者はすぐに見つかります。ご懸念には及びません。見張り以外にも手の者は城内、陣中、いずれにも控えております。また、呂布の陣営にも」

「ということだ、奉孝」

「すごいですね」

 ぬかりはなさそうだ。やはり名門の隠密は違う。数も多いのだろう。

「じゃあ、情報の統制は問題ないってことですよね。それなら、あとは妙才殿がどのくらいで戻ってくるか目途がつけば」

「おそらく、夏侯淵様の軍が戻ってくるのは夜半ごろになると思われます。呂布は少なくとも数里、ここから離れたところに陣を敷くと思われますので、再び攻め寄せるなら明朝かと。中に潜む者たちを逃がすのも夜の内になるかと思われますので……」

「妙才がそのまま入城すると面倒なことになりかねんな。城から数里のところで控えよと伝えるか」

「殿、それなら、妙才殿は入城せずに、そのまま夜明けの時点で堤防の裏に兵を隠すってどうです? でも、全部隠すと怪しまれるかもしれないから、堤の上に千人ほど兵を並べると、苦し紛れに戦う姿勢を見せてるみたいに見える。必ず、呂布は突っ込んできます。そこを、堤の裏の伏兵で突く」

 ふむ、と曹操がうなずく。

「よかろう。では、その旨妙才に伝達を」

 かしこまりました、と隠密が言う。次いで郭嘉が曹操と二言三言話すうちに、いつの間にか彼の姿は消えていた。

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