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唐突に始まったグラーツ殿下同伴の昼食以来、殿下との遭遇率が高くなっている。
というより、あれから毎日昼食を共にしている。
更に気のせいでなければ、婚約者という立場である事をやたら周囲に訴えるような態度をとってくる。
何か声を掛けてきたり誘ってくる際には必ず「婚約者だから」と一言付け加えてくるのだ。
まさか本当に婚約者至上主義者に洗脳されたのか、などと思い違いをするほど私も阿呆ではない。
これは確実に火消し行為だ。
婚約者公認の後押しがあったのか、近頃はグラーツ殿下とマリアンを応援するグラマリ派が学園の半分を占め始めている。
地道に令嬢達へ布教した甲斐があったというものだ。
残りの半分は殿下と私を推すグラーシャ派、あと何故かコルテリアス様と殿下を推す派閥が存在している。
地味に主従推しが増えた件については、マリアンの力が働いているような気がしてならない。こんな所でチート性能を活用するのは止めるべきである。
さて、この三つの派閥で学園が割れる中、当事者たる殿下が火消しを行えば派閥論争も鎮火待ったなし。
あっという間に婚約者として私の立ち位置が不動のものになってしまだろう。
吹けば消える程の種火をようやく焚き火にできた瞬間、囲ってる人間ごと水をぶっ掛けるようなこの仕打ち。
できればキャンプファイヤーくらいに燃え上がらせフォークダンスでも踊りたい私としては、ここで大人しく従うわけにはいかない。
「という事でマリアン様、お知恵を貸してください」
「初手から他力本願は止めなさい」
今回はパジャマパーティーにて目下のお悩み相談である。
天下のチートヒロイン枠であるマリアンにかかれば、火消しの妨害工作など赤子の手を捻るより容易いはず。
「繰り返し言わせてもらうけど、アーシャが殿下の婚約者っていう事実は変わりようが無いんだから、いい加減に観念なさい」
「事実がどうだろうと世論が認めなければ覆す隙はある」
「世論以前に当事者の感情を一切顧みていない事は気づいてるかしら?」
そんな事を言ったらマリアンだって同じではないか、などと言い返そうものなら、いかにコルテリアス様がグラーツ殿下を想っているかを事細かに解説されるため、唸るだけに留めておく。私の学習能力は高いのである。
「しょうがないなぁ、今日のところは諦めてお泊まり会を楽しむ事にするよ」
「あらよかった。これ以上駄々をこねるようなら追い出そうと思ってたの」
あっさりどころかばっさり断られてしまったが、諦めなければ夢は叶うのだ。
しつこく言い募っていれば段々とマリアンもグラーツ殿下に惹かれる可能性もある。絶対に諦めないぞ、と明日に希望を抱いて夜更かしを楽しんだのだった。