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マリアンと私は、離れていた時間を埋める勢いで喋り倒した。

まず互いに話したのは、現状に至るまでどんな生活をしていたか。


マリアンは平民の女性と低位貴族の子供だった。

両親は愛し合っていたが、身分差のために母親が身を引いたらしい。

その後、マリアンが生まれた事を知り、愛した女性を諦めきれていなかった父親は母娘ともに屋敷に迎え入れたという。

なんとマリアン達を迎えなければ血筋を断つ事も厭わないと親族に宣言したというのだから情熱的なパパさんである。

生まれた時から前世の記憶があったというマリアンは、突然現れた父親の熱さについて行けなかったとこぼしたが。

母の身分にもいちゃもんをつける親族達を黙らせるため、前世の記憶を頼りに農業から工業まで多岐に采配を奮ったそうな。

そういえば最近食材の質が上がったと思っていたのだが、実はマリアンの領地のものだったらしい。


それにしても、だ。


「なんて典型的なヒロイン人生! そのうえ内政チート!」

「やめて! 自分でもラノベかと思ってるんだから!」


膝を抱えて呻くマリアンをどうどうと宥めると、恨めしそうな目で見つめてきた。


「そういうアーシャこそ、王子サマの婚約者なんでしょ? テンプレ悪役令嬢ポジ乙ね」

「えっ、なにそれ?」


互いに無言で向かい合ってから数秒。耐えきれなくなったのかマリアンが吹き出した。


「もう、今更とぼけないでよ。第二王子殿下ご本人から聞いた話なんだからね」

「えっ……なにそれ……」


冗談ではないと伝わったのだろう、マリアンの笑い声がピタリと止まり、困惑の表情に変わる。


「ええと、ご愁傷様……?」

「なに、それ……」


私に婚約者なんて初耳が過ぎる。しかも王族だなんてどういうことか。いつ婚約したのかも分からない。これは何かの陰謀だろうか。異世界転生あるあるの、お偉い方の黒い思惑があるやつ。

混乱の余り思考も語彙もしっちゃかめっちゃかだが、何せ婚約者であらせられるらしい第二王子殿下ご本人からの情報とのことなのでマジモンなのだろう。私は訳がわからないが。


その後は語り明かす余裕も無く、寮に戻ってから急いでお母様へ手紙を出した。しかし、速達で出した娘の焦りなど余所に、半月ほど経ってから返事が届いた。

その手紙によれば、お母様曰く……。


「私が倒れる……つまり、前世を思い出す直前に婚約してたらしい」

「アーシャ……あんたって子は……」


到底、人に聞かせられる内容では無いのと、私の落ち込み具合が地を這う勢いのため、ただ今は寮の自室にマリアンをお招きしている。なお、盗聴防止魔法を幾重にも掛けた状態なので、この部屋は防音室と化している。


マリアンよ、残念なものを見る目を私に向けないでほしい。そんな目で私を見ていいのは、前世の記憶を思い出しても婚約者を忘れなかった人だけだ。

あの膨大な情報量を前にすれば、婚約者なんて吹けば飛ぶ綿毛のようなものだ。絶対すっぽ抜ける。


「婚約者同士なのよ。交流とか無かったの?」

「……言われてみれば、季節毎に挨拶がてらお茶してたな。そういえば前のパーティーで第二王子殿下にエスコートされたし、一緒に踊ってた気がする。あとたまに手紙もやり取りしてた」

「逆に聞きたいんだけど、その状況でどうすれば婚約者と知らずにいられる訳?」


私と踊った後は他のご令嬢とも踊っていたし、定期的なお茶や手紙は高位貴族だしそんなもんかなって考えていたのだから仕方あるまい。だからそんな目で見るな。

お茶請けを摘みながらマリアンは続ける。


「もう婚約しちゃってるんだし、いつまでも落ち込んでないで殿下と仲良くすればいいじゃない」

「……よくない」

「聞きたくないけど一応聞くわ。何が駄目なの」

「全然よくない! 殿下×マリアン推しだったのに、どうして私と婚約しちゃってるの?!」


今世の最推しカプだったんだぞ。どうしてくれるのだ。




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