09.二児の親
◇ ◆ ◇
「覚えてないかもしれないけど、素子ちゃんは生理が来ないときの検査で遺伝子が男だと分かり、半陰陽として卵巣と精巣があったから、まだ生きてる精巣の精子を精子バンクに保存したんだ。その精子を用いてボクが性転換手術を受ける前に体外受精をして産んだんだ」
なんてことでしょう。もう一人子供がいるなんて。
しかも姉妹? で近親相姦なのに、子供もいる。子供は無事なのだろうか。
「子供は無事なの? 近親相姦の子供だけど……」
「ああ、息子は無事だし今のところ何も問題もなかったよ。ちなみに近親相姦ということではないのでは? Hで子供を作ったわけではないし。まあ、近親ではあるだろうけど」
量子ちゃんのその言葉に安堵する。
「でもなんでそんなことを知っていたの?」
「なんでも何も、精子バンクを教えたのがボクだからだよ」
「そう、なんだ」
これで私も二児の母。あれ? 父? 一人は両親が私だし、現状の見た目なら量子ちゃんが父で私が母だけど遺伝的には私が父で量子ちゃんが母だ。あれ、混乱する。
「両親はどうなんだろう……?」
「ああ、そうだ。それを伝えようと思っていたんだ。そのボクたちの両親のことなんだけど……」
あ、言い方間違えて私たちの両親の話になっちゃった。私たちの子供の、その母親と父親がどうなるのかを知りたかったんだけど、別にそれは後でもいいし、どっちでも構わない。
「素子ちゃんを殺そうとした人たちは分かる?」
「宗教家たちのこと?」
「その前」
「母の従弟と、父の愛人?」
「そうそいつら。それがボクたちの実の両親なんだ」
ちょっと聞きたくはなかった事実だった。
私はたぶん今の両親に愛されているのだろうから、尚更殺そうとしてくる実の両親なんてものはいらない。
更に、父の愛人が生みの親だという。
「父親は母と付き合ってから捨てた。別に好きな人が出来たから要らなくなったという話。その後、ボクを産んでまだ入院していて動けない母に自分が振られたからとまた付き合おうとして、強姦したらしい。それを知った彼の親が罰として彼を遺産相続から外したようだ。その腹癒せに母の父、ボクたちの祖父、が寝たきりとなった原因を作ったらしい。だが証拠不十分で捕まらなかった。事故として処理されたようだ」
そんなのが自分の父親だと言われると陰鬱な気持ちになって、沈んでしまう。だから、ついキツイ口調になって問い質した。
「憂鬱になってくるんだけど。結局何が言いたいの、量子ちゃん」
「母親のことさ。不遇で、それで他者を蹴落としてでも這い上がろうとしたにも拘らず、怖くなって実行に移せなかった哀れな女のこと。ボクたちを育てられないから、ボクをボクたちの祖母である自分の母親に預けて、素子ちゃんは父親の従姉に引き取られた。それで身軽になって自分の生活を立て直そうと思い、邪魔されて祖母が無くなり祖父は事故で寝たきり、男に媚びていつか娘たちを取り返そうと思っていたらしい。しかし遺産目当てで殺そうと思って出来ず、しかもその対象が自分の娘だったと知って塞ぎ込んだようだ。ボクはその見舞いに来たんだよ」
そう言って、まるで「一緒に見舞いに行かない?」と訊ねているように見据えて来る。
日記を読んだだけで、相手のこともよく分からない。殺そうとしてきた相手になんて言えばよいのか分からない。
だけど私も相手を知らないのだから、怖いということもない。
だから、会っても大丈夫。
「私も一緒に行くよ」
「そう。じゃあ一緒に行こう」
そうして母に会いに行くことになった。
明日次回10.見舞い