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事件は日記で起こっていた  作者: 山目 広介
2/12

02.日記

◇ ◆ ◇



 翌朝になって家族が来た。両親だと言う話だ。


 看護師の方が連絡してくれたらしい。もうすぐここへやって来ると言う。


 身元を示す物がなかったのにどうやって連絡をしたのだろう。謎が出来た。



「素子っ!」



 扉が開くと同時に大声に振り向くと、鏡で見た自分が年を経た感じの女性が駆けて来るところだった。


 素子というのが自分の名前のようだ。


 きっと彼女が自分の母親なのだろう。


 もう一人遅れてくる白髪が混じり始めた髪の男性が歩いてきた。父親らしい。



「理さん」


「陽子、よかったな」



 両親の名前は理と陽子というみたいだ。


 陽子という母親らしき女性が理という父親らしい男性と抱き合い安堵したように目尻に光る物を湛えていた。


 もらい泣きしそうになる。





 そのまま退院した。


 外に出ると、風が冷たい。暦の季節とは異なっている感じだ。カレンダーでは夏のはずだった。


 家族と連絡が着いた理由はこの病院に私が通院していたらしく、看護師が顔見知りだったからだそうで、保険証などを預けていたために持っていなかったようだ。


 病院があるのが住宅街だからか、駐車場は狭いのに分散されているため、少し歩く。


 そして父の車で自宅へ向かう。



 自宅は豪邸だった。


 使用人がいた。メイドだ。驚いているけど、どういうことだ。ホントに自分はここの子供だったのか。



「ママパパ」


「パパ~」



 そんな声とともに二人の子供が腰へと抱き着いて来る。4、5歳ぐらいの子供だ。


 パパって、男女の違いも区別できてないのかな。



「すみません、お嬢様。素粒と素量は謝りなさい」


「「ごめんなさい」」



 変わった名前だな、と思ったが口には出さない。名札があったので漢字も分かった。


 メイドはおばさんだったけど、託児所でもあるんだろうか。


 両肩に担がれて連れ去られていく子供に笑顔で小さく手を振ると、子供たちも気付いて笑顔になって振り返してくれた。





 玄関へ着くと部屋で安静にしておくように言われる。確かにまた耳鳴りが煩く身体が怠い。大人しく部屋に引き篭もった。



 自分の症状を病院で相談したとき、医者には初め逆向性全健忘と難しく言われたが、すぐに記憶喪失だと分かりやすく伝えられた。


 そのため、やはり自分の部屋だと言われたにもかかわらず、他人の部屋に来たような居心地の悪さのような物を覚えた。


 本棚に机と椅子、そしてベッド。タンスもある。クローゼットのような扉もあった。


 だがこのままでは良くないので、記憶が戻る切っ掛けになるようなものを探す。まずは机の引き出しなどを漁ってみる。


 鍵が掛かる場所があった。でも鍵がどこにあるのか分からない。探してみたら、あっさり見つかる。隣の引き出しに無造作に置かれていた。鍵を差し込み解錠する。



――カチリ。



 小気味良い音が鳴り、引き出しが開くようになる。


 中を覗くと、そこには分厚い本。いや、日記があった。他には何もない。


 それは他人の物のようで罪悪感が湧くが、自分のだというのだから中を調べてみることにした。


 だが開かない。帯で封がされている。


 それにも鍵穴があった。


 しかし今度は鍵が見つからない。


 引き出しの裏とかに貼ってあったり、机の上の本の間とかにも挟まったりはしていなかった。


 目の前に誘惑するものがある。切断するための道具――ハサミがあったので覚悟を決めて、日記の帯を切り裂く。



 他人の秘密を覗き見るようで、罪悪感以外にもちょっとだけ、ドキドキとした興奮を覚える。


 書いてあるのは自分のことなのだが……。





 そこには赤裸々で驚愕の生活が綴られていた。




明日次回03.百合

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