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事件は日記で起こっていた  作者: 山目 広介
10/12

10.見舞い

 ◇ ◆ ◇



 再度病院へ赴く。


 1階と2階は受付や診察室だ。3階以上が病室となっている。


 エレベーターに向かう。


 周りに誰も居らず二人。何も言わず、到着と待つ。


 気不味い。



「ねぇ。祖母が亡くなった後、どうしていたの?」


「ボクも養子になったんだ。その後祖父が事故ったらしい。だから母が困っているということも知らなかったんだ」



 エレベーターが来たので乗り込む。


 密室で二人きり。だが、もう何も言わずに目的の階への到着を待った。


 知らずにいるのと、知っているのとではやはり違う。


 私は実母という人について分からないので、考え込んでしまっていた。


 量子ちゃんはこちらを配慮して静かに黙っていてくれているのだろうか。



――チン。



 目的の階へ到着した。6階だった。


 すると声が聞こえる。



「ほら男女の二人組が出てきた。たぶんあの602の病室へ向かうぞ。信じてくれるか」


「確かに男女の二人でしたけど、だからと言って記憶がリセットされるというのはどうかと……」


「眠ると記憶が消えているんだよ。通信機器などの月日もウイルスか何かで巻き戻っているんだ。不眠症のオレだから分かるんだよ。お願いだから聞いてくれよ」



 看護師さんを一人の患者さんが捕まえて騒いでいた。



「ちょっとぉ! またですか。新人でも仕事があるので、そうそういつまでも拘束されると迷惑なんですよ。分かったら病室に戻ってくださいッ!」


「ああ、今の季節にこの気温がおかしいとは思わないのかぁー」



 そこへ別の、たぶんベテラン看護師さんが注意する。



 記憶が無くなるとか眠ったらという条件とか最近何かで、いや日記だ。


 もしかして薬の効果はまだ続いているのだろうか。


 量子ちゃんが立ち止まった病室の部屋番号は602だった。


 あの看護師さんに引き摺られていく患者さんの言うことはホントのことなのかもしれない。



「あ、見舞いの品とか持ってない」


「生花とかは今禁止されてるし、食べ物もちょっとまだダメらしいんだ。だからいらないよ」



 急だったために見舞いの品を用意し忘れていたが病室の前で気付いたのにいらないという。


 まだ会うということに戸惑いがあるのかもしれない。


 何とか時間稼ぎをしようと試みた感じだ。無意識ではあったのだけれど。


 深呼吸をして意を決しようとしてたら、量子ちゃんが何気に何の躊躇いもなく扉を開く。



「どうしたの? 入ろうよ」


「う、うん」



 返事はするが足が動かない。


 それを見かねて、量子ちゃんが私の手を取り引くと足が前へと出てしまう。


 恐る恐る視線を床から引き剥がし、目に入ったのはカーテンだった。


 個室のようだから、仕切りがあるみたい。



「そう言えば、何の病気なの?」


「ああ、言ってなかったね。飛び降りたときの治療してたのと、その後遺症なのかな。記憶が無くなっちゃったんだ。それの回復待ちというところかな」


「えっ!?」



 また、記憶なの?


 それよりも飛び降りって自殺未遂をしたということだろうか。


 ベッドには人形を二つ抱えた女性がいた。



「あの人形はボクたちらしい。抱いていると安心するようだ」



 量子ちゃんは櫛を自分と彼女の分の二つ持ち、片方を彼女に渡して後ろに回り彼女の髪を梳る。


 彼女も櫛で人形の髪を梳く。


 私はもう一つの人形を渡されて、手に抱いて二人の櫛の動きとただ一人話しかける量子ちゃんを見詰めていた。






明日次回11.欲望

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