01.病室での目覚め
――ジジジ。
雑音。ホワイトノイズと言うべき音が喧しくて意識が浮上する。
そこへ視界に影が差す。
目を瞑っていたため『瞼に影が』の方が正しいのだろう。
その動く物の気配に驚き、目を見開く。
「うわっ」
「きゃっ」
影は人影だった。
その横から覆うように覗き込まれていた顔は、真っ黒。そこには闇しかなかった。
だから驚いて声が上がる。
それに遅れて反応した影が離れることで、看護師の格好をした普通の女性だと分かった。逆光で見えなかったようだ。お化けだと思ってごめんなさい、と心の中で謝罪する。
胸に手をやると弾力の下から心臓がバクバクと激しい鼓動を響かせる。呼吸も乱れていたが、それも安心したのを自覚し、そして落ち着こうとしているのだろう、徐々に整っていく。
それと同時に何か耳鳴りがしていたのが消えていった。
心が静かになったためか、余裕が生まれる。
周りを見ると女性の後ろの壁に間接照明があり、広い個室のようだった。
ベッドの横には点滴がある。当然それは私の腕へと伸びていた。
大きな鏡面の洗面所まで個室の中にあるので、たぶん病院とかだと想像が出来る。誰かの見舞いにでも訪れたことがあるのだろう。
「大丈夫?」
「えっ? あ、はい。あのー、すみませんが、私、どうしたのでしょう?」
しばし呆然としていたからだろうか、看護師の零した心配に返事をし、何故こんな状態だったのかの記憶がないために質問をする。
看護師の話では現在夜中で、倒れていた私が運び込まれたために医師の処方で点滴を打っていたようだ。何があったのかまでは知らないという。
それに伴い、だんだんと分かってきたことがある。
異世界転生とか転移などではないということ。そう思って、自分はオタクだったのだろうか、と疑問に思った。
つまり、自分が誰なのか。そんな基本的なことが分からない。
朝には家族が来るという。
手荷物などもなく、自分を思い出すような物もなかった。
洗面所の鏡まで行き、照明を点灯。自分の姿を見る。十代もしくは多くても二十代前半ぐらいの若い女性の姿が映った。化粧をしていないから若く見えるということも考えられる。でも間違いないだろう。
だが自分の姿のはずなのに、違和感を覚えた。
しかし顔をペちペちと叩いたり、触ったりしたがやはり自分らしい。それは認めるしかない事実だった。
そんなことをしていたら点滴の管に血液が逆流して赤く染まっていた。
文句言われるかもしれないと大人しく布団に戻る。
布団の中で思う。意外と私は小心者のようだった。
中途半端な時間に起きたからだろう、なかなか眠れず、翌朝、寝坊して朝食だと看護師に起こされるはめになった。恥ずかしい。
明日次回02.日記