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鬼と鬼子  作者: らゐる
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順番は、一戦目:ジャッキー対マルセル、二戦目:フェルディ対レイラ、三戦目:マルセル対フェルディ、四戦目:ジャッキー対レイラ、五戦目:マルセル対レイラ、六戦目:フェルディ対ジャッキー、となった。

一戦目が始まる。ジャッキーとマルセルが戦うのを僕とレイラで見ていた。マルセルの攻撃を軽く受け流しつつ、合いの手を入れるようにジャッキーがたまにカウンターをする。そんな感じの戦いだった。ジャッキーの方がかなり上手のようだ。

ぼーっと見ていると、レイラが声をかけてくる。

「フィ………えー……君は、さ、殴り合いとか…そういうの、したことはあるの?」

「フェルディだよ。僕は…殴られた経験は豊富かな。ほら、村の中でも弱かったからね…」

名前がわからなさそうな空気を出されたので僕の名前を改めて伝えておく。

すると、レイラの顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。わかりやすい子だ。

「……ごめん…名前覚えるの得意じゃないから…」

「全然いいよ。僕の方こそ、名前間違えたりしたらごめんね」

僕ははにかんで返すと、レイラは落ち着きを取り戻して、また元のすまし顔に戻った。

「…………」

「…………」

沈黙が続く。非常に気まずい空気が流れる。何か、何か話した方がいいよな。

ぐるぐると思考が廻る。そういえば、レイラは何かの趣味があるみたいなことマルセルがいってたよな。よし、それを聞こう。

「「あのさ」」

変なところでタイミングがかぶり、また二人とも押し黙ってしまった。

「いいよ…レイラから話してよ。僕のは大した話じゃないし……」

「いや…私も別にどうでもいい話しようとしてただけだから…」

また微妙な空気が流れた。すると、こちらの方へジャッキーとマルセルが歩いてくる。

「おいおいいちゃついてんなぁ~~もしかしてお前らお互いひとめぼれしたのか??」

「仲良くなれたんだね~!よかった~私うれしいよ!」

なんだかよくわからない勘違いをされてるみたいだ。ここは訂正しておかないと後々面倒くさそうだけど…

「は!?!?!?!?そんなわけないじゃん!!!!!マルセルとか頭沸いてんじゃないの!?!?!きっしょ!!!!」

レイラがすごく否定してくれていたので安心した。

「ほら次私たちの番だよ!!!フェ……ルディはやくこっち来い!!!」

僕は、ジャッキーとマルセルのジト目に気付かないふりをしてレイラの方へむかった。


///////////////////////////////////////////////////////


道場の真ん中に僕とレイラは移動した。

「タイマーをセットしておくから、ブザーが鳴ったら始めるよ。こういう格闘は初めてっぽいからまあ私をノックする気持ちで殴ったり蹴ったりしてくれていいよ」

「殴る蹴るって言われてもなあ……」

レイラは紛いもなく女の子だ。女の子に暴力をふるうのは正直あまり気持ちよくできるものでもないけど…

「……気持ちはわからないでもないけど、実戦での相手は老若男女問わないから。ここで躊躇してたら自分の命が危なくなるよ。敵は生きるために、生存本能丸出しで私たちを殺しにかかってくるから」

「………わかったよ」

正直気乗りはしないが仕方がない。レイラの言っていることは間違ってはいないのだから。

しばらくすると、道場にビーッとブザーが鳴り響いた。同時にレイラが構えを取る。それを合図に、僕はレイラに距離を詰めた。

まずはみぞおちあたりに一発拳を入れてみる…が、これは払われてレイラが一歩後ろにさがる。続けて3本、右、左、右の順にフックを入れる。これもレイラにガードされるが、若干レイラの顔がゆがんだ。やはり心が痛む。

「………っ!」

ここでレイラの反撃。右側から高めの蹴りがくる。よけることもできたが、痛み分けということで腕でガードした。

すると、レイラは二、三歩距離を取る。

女の子とは思えない重い蹴りだ。

「………やるじゃん」

レイラから賛辞の言葉をもらう。その顔には汗がにじんでいた。

「…そっちこそ」

言葉を返すと、レイラが鼻で笑う。

「さすがはロブエ族って感じ……これは手加減してるとやられちゃうね……ッ!!」

レイラが一瞬で間合いを詰めてくる。右から手刀が飛んできたのでこれを払う。すると、左足に鈍痛が走る。右側からのものはブラフで、左足が本命だったか。

左足が襲われたので、僕はバランスを崩した。その一瞬の隙を逃さず、間髪入れずに次の拳が僕に向けられる。何とかガードしたが、僕は衝撃で飛ばされる。受け身を取り、片膝をついた。レイラの方を向くと―――


目の前にはレイラの膝があった。


ガードする時間がない。もろ受けたら鼻血は必至だろう。僕は咄嗟の判断で、頭突きでレイラの膝蹴りを受け止めた。

目の前に火花が散ったような感覚。正直めちゃくちゃ痛いが、なんとか受け切ることができた。レイラが僕と間合いをとる。

「……今のを頭突きで受け止めるとか…人間じゃないだろ…」

レイラが絶句したような口調でいう。

「身体の丈夫さだけが取り柄だからな…」

適当に返す。

「まあ動きは初めてにしては悪くないというか…一本一本の攻撃が正直重すぎてびっくりしてるぐらいだけど…まだ攻撃の受け方は練習いるね」

レイラが今までの組み手に総評をいれてくれる。僕は黙ってレイラの言葉を待った。

「ロブエ族だから体は私たちより頑丈だし、普通の人間の大抵の攻撃はもろ食らっても平気かもだけど、私たちが相手にするのは吸血鬼。いくらロブエ族っていう通常の人間の性能を超えた人種でも、まともに攻撃を食らったらどうなるか分かったものじゃない。特に今みたいな頭突きは一発で頭を割られてる可能性だってあるから、とにかく攻撃を『受け止める』方向性じゃなくて『流す』方向性にする方が重要。」

「……吸血鬼?」

僕たちが相手にするのって吸血鬼なのか?

唐突に想定していなかったワードが飛び出してきたので、思考が一瞬フリーズする。

「…え?あ、聞いてなかったの?」

レイラもキョトンとして尋ねてきた。

「なんかⅠ型生命体対策本部だってのは聞いてるけど……もしかしてそのⅠ型生命体ってのが吸血鬼なの?」

「そっか……ボスだもんね…そういうところは後回しにしてたのかぁ…どこから話せばいいかな…」

レイラは髪をくしゃくしゃすると、改めて僕に向き直って話を続ける。

「エラム連邦は、今は技術が発展した大国だけど、昔はそうじゃなかったらしくてね。三十年前から今の王様を中心にエラム興国作戦っていう作戦が実行されてね。近隣諸国からどんどん領地を拡大してったっていう経緯があるんだけど。二十年前くらいから、エラムで吸血鬼が発生するようになったの。被害は個体によるけど、なんで吸血鬼が発生してるのかとかの原因がわからないし、もちろん普通の人間が吸血鬼とやりあって勝てるわけがないから国としてはお手上げ状態だった。そこでできたのがこの組織、エラム連邦Ⅰ型生命体対策本部。機動班と調査班で分けられてて、私たちは機動班。吸血鬼とか常識では存在し得ない存在だから、情報の漏洩による一般市民のパニックを未然に防ぐために少人数の精鋭が機動班として活動してるんだろうね。軍隊とかにしてたくさん人を集めると情報が漏れる確率が格段に上がっちゃうだろうし。」

レイラが説明を続ける。僕は黙ってレイラの話を聞いた。

「不審死…まあ主に人が干からびた状態で発見されるとか、そんな感じの普通の殺人じゃなさそうな報告があった時に、私たちが現地調査、発見次第駆除するって感じなんだけど…まあそのうち弱そうなやつを誰かと一緒にやりに行くと思うから、そこら辺の流れはその時にわかると思う。」

吸血鬼…そんな絵本の中のような存在が本当にいるとは。にわかに信じることができない話だ。

衝撃の話で僕が何も言えないでいると、レイラがこちらの様子を気遣って声をかけてくれる。

「大丈夫。任務は絶対二人以上でやるから。誰も死なせたりしないよ。」

「…死なせない?」

物騒な単語が出てきて、思わず聞き返す。

レイラはしまったって感じの顔をした。本当に顔に良く出る子だ。

「まあいつか知る話だし…実際頭に入れておかなきゃいけない話だけど。この仕事は、本当に死人が出る。半年前の事件―――『片割れ鋏』って呼ばれてる吸血鬼がいるんだけど。そいつとやった時に、4人、亡くなってる。」

衝撃の事実だった。命をかける仕事だとは聞いていたが、本当に人が死んでいるという事実を突きつけられて、僕は黙ってしまった。

死ぬのは怖い。村にいても死にかけるまでの仕打ちを受けたのは、最初で最後の村が焼かれた日だけだ。その時も言葉にできない恐怖を覚えた。僕はそんな世界に足を踏み入れたのだ。

それに…ここにいる人たちの死ぬ姿を見ることがあると思うと……。

黙り込んでしまった僕に、レイラが落ち着いた、力強い声をかけてくれる。

「大丈夫。もう、誰も死なせない。」

この話が終わってからしばらくレイラとの稽古が続いたが、あまり身が入らなかった。

この話から少しずつ本題の吸血鬼について触れていきます。

彼等は一体何者なのでしょうか…?

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