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鬼と鬼子  作者: らゐる
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15

8時45分、1階フロントのロビーのソファで僕は昨日リーに入れられたとびだせチャッピーちゃんをやってリーが来るのを待っていた。このゲームは一見育成ゲームに見えるが、ストーリーにそって魔物をやっつける、どちらかというとRPGに近いゲームだ。地味だが、育成したり装備を強化したりなど、やることはそこそこあるので面白い。

「……お待たせ…」

リーがやってきた。今日は珍しくリーの髪型がポニーテールだ。服装もゴスロリとは違う系統の落ち着いた服だ。そんな落ち着いた服とは対照的に死にそうな顔をしている。

「いや……それより顔、どうしたの。なんか死にそうじゃん」

「二日酔い……気にしなくていいよ…………フェルディは全然平気そうだね…」

「うん……特に」

「そう………ロブエ族は酒にも強いのか……」

リーはよろよろと出入り口の方へ向かった。僕もそれについていく。

「いやまぁ………なんでこうなったかは分かってるんだけどね」

「……なんで?」

「あの後…部屋に戻ってから飲みなおしちゃって。瓶3本開けたらまあそうなるよなぁと……」

「……………」

なんでそんなに飲んだんだ。そりゃそんなことしたらそうなるよ。

「リーが怖いよ、僕は」

車に乗って、目的地に着くまで、リーはずっと寝ていた。


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


目的地に着いたところで、車が止まったので、僕はリーを起こして車を出る。あたりは草原以外なにもなく、崖の上にぽつりと煙突の着いた一軒家が立っていた。崖からは海が見渡せ、非常に景色がよい。海から吹く潮風が気持ちよかった。

「酔い覚ましに丁度いい風だね」

よくわからないことをいうリーを無視し、一軒家の方へ歩き始める。

「あの一軒家が例の鍛冶屋の家……?」

「そう。あそこにダニールが住んでる」

しばらく歩みを進めて、家の前に着く。玄関と思われるドアの前に立つが、インターホンがない。

「あ~、こいつの家にはインターホンとかそういう現代文明的なのないんだよね。ここの取っ手を鳴らすと出てくるよ」

リーはコンコンと取っ手を使いドアを鳴らす。しばらくすると、中から小太りで身長が高いもさもさのひげを生やしたおじさんが出てきた。

「おぉ~、レイラじゃねえか!お前が付き人か!久しぶりだなぁ~」

「……爺さんも変わらねえみたいで」

「早速あたりが冷てぇなぁ……」

リーと軽く会話を交わし、僕の方を見る。

「ふむ……で、今回俺が武器を渡すのがお前さんか。初めまして!俺ぁダニールっていうしがねえ鍛冶職人だ!気軽にダニールって呼んでくれ。よろしくな!」

「よろしくお願いします」

ダニールは手を差し出し、握手を求めてくる。僕も手を差し出し、握手を返した。

「うむ!いい奴じゃぁねえか!どっかのツンデレ嬢ちゃんとは違うねぇ!」

「早く家に入れろ」

「ひ~こえぇなぁ……ま、確かに立ち話もなんだからな。上がってくれや」

ダニールに招かれるように家に入れられる。靴を脱ぎ、リビングと思わしき部屋に入る。部屋の中にはいろいろな武器が飾られており、いかにも鍛冶職人という感じの部屋だった。

「ま、椅子にでも座ってくつろいでくれや」

ダニールは傍にあるキッチンの方でやかんを取り出す。お茶を出してくれるみたいだ。

僕とレイラは並んで椅子に座る。

「レイラの方はどうだ。スクリュードライバーは元気か?」

「変わらず元気。いいヤツだよ、私になじんでくれてる」

「はっはっは!そうかそうか、そりゃあよかった!あいつもお前さんと一緒にいられてうれしいだろうなぁ」

リーとダニールが言葉を交わす。スクリュードライバーって誰のことだ…?

「リー…スクリュードライバーって誰?」

「私の得物。武器のことだよ」

「へぇ……そんな人みたいに扱うんだね」

「フェルディ…っつったっけ?お前さん、見た感じは猛者感あるが得物に関する知識はこれっきしだなぁ」

ダニールがお盆をもってリビングに持ってきた。カップは三人分。ダニールは僕とレイラの前に紅茶を置いて、僕と対面になるように座った。

「道具と使い手は一心同体になった時初めてお互いの真価を発揮するもんだ。どちらが欠けてもだめだ」

「…………」

「わしはお前さんの武器を作ってやる。その時にその武器にお前さんのことを教え込む。武器が使い手のことを理解するのはその時だ。だがお前さんが武器を理解するのは武器がうたれた後。もちろん一朝一夕で理解できるほど簡単じゃないからな、時間をかけて武器のことを理解しなければいけない…。これはもう人間と同じじゃないか?」

「はぁ……」

いまいちピンとこないが、まあそういう考えをした人なのだろう。

「よくわからんかったか……まあいい、そのうちわかってくるさ」

ダニールは紅茶を一気に飲み干し、席を立つ。

「よし、フェルディ!少し外に出るぞ!ついてこい!」

「え?あ、はい!」

ダニールはそう言ってドタドタと家の外へと出る。僕もそれに追随した。


///////////////////////////////////////////////////////////////////////////


家を出て、家の前の草原で仁王立ちするダニールその手には二本の木刀が握られていた。

その片方を僕の方へ投げて渡してくる。

「力試しだ!お前さんの膂力がどんなものか知りたい!まあ見た感じ想像はつくが……ロブエ族に作る武器なんてそうそう作らないからな!感が通じんかもしれん!」

大声で僕の方へ話しかけるダニール。リーは家の前で僕らの様子を見ていた。

「よし、いつでも来い!!」

いつでも来いって言ったって……相手は鍛冶職人だ。本気で戦うとかはさすがにまずいかな……。

突っ立ってあれこれ考えていると、後ろからリーがアドバイスをくれる。

「あのおっさんめちゃくちゃ強いから容赦しなくていいよ!」

距離が遠かったので、酒でやられた喉で声を張っていた。声がしゃがれてる。

集中をダニールに戻し、攻め筋を考える。

リーが強いって言ったんだ。本気で挑もう。

僕は一歩踏み込み、ダニールに挑んだ。

――――――――――――――――――――――――――。

―――――――――――――。

およそ15分後。

「ストオォォォォォッップ!!」

ダニールが待ったをかける。僕は木刀を下ろした。

「よし、よし!大体お前さんの感じをつかめたぞ!」

このおじさん、小デブなのによく動く。体格からは想像もつかない機敏な動きだった。僕の方が全然格下だった。

「それにしてもまぁ何ともパワーの強いことだ……一本一本の剣戟が重くて仕方なかった!これは俺ももう引退か!!」

ガハハハと笑うダニール。僕はそんな彼を尻目に、芝生へ腰を下ろした。

「なぁ~に、心配する事ぁないさ。お前さんはこれからどんどん強くなる。焦ることはないぞ」

ダニールが僕の隣に座る。確かに、見透かしたような人だ。

「僕は……僕は、本当に強くなれるんですかね」

遥か彼方、水平線の向こうを眺める。春風が僕とダニールの中を通り過ぎる。太陽が海を輝かせていた。

「あぁ……強くなれるさ。フェルディ、お前さんの力は本物だ。あとは時間をかけて、ゆっくり自分について学ぶといい。お前さんのその力の使い方を、お前さんが理解したとき、きっと世界一の戦闘員になれるよ」

「…………」

ダニールはとても不思議な人だった。根拠を提示されたわけでもないのに、その言葉には何か信じさせられるものがある。

「俺ぁな、手合わせしてお前さんがすごく優しい人間だってわかったよ」

「………」

「だけどな、その優しさは、戦いの中では足枷になる。お前さんはそのオンオフの切り替えが苦手みたいだ。これだけは早目に身に着けておいた方がいいぞ」

「…………はい」

確かにその通りだった。この前の任務の時にも、いろいろ雑念に駆られて襲われた時の対処に遅れてしまった。ダニールの指摘したところは、確かに僕に必要なところだ。

「あと………これはここに来た人間全員に言ってることだけどな」

ダニールは一つ間を置く。

僕はダニールの言葉を待った。

「この世界は生存優先だ。生きて帰れる確率がより高い選択肢を選べ。例えば……10人が危険にさらされたとき、10人そろって逃げて何人逃げきれるかわからないのと、2人が残り残り8人が確実に帰還できる場合は、後者を選ぶ、といった感じだ」

「…それは矛盾してませんか?」

生存優先を謳っている割にはその残り2人の生存は優先されていない。これは明らかな矛盾だ。

「個の生存より集団の生存を優先する、っていう意味だ。勿論、10人全員無事帰還がベストなのは間違いない。だけどな、そんな悠長なことは言っていられない場合がこの先必ず出てくる。殿は必ず生存率100%かつ最少人数を配備するようにしろ」

「…………」

簡単には言うが、僕はそのような選択肢は取れない。

マルセル。リー。ジャッキー。みんな優しい、生まれて初めて出会ったいい人たちだ。そんな人たちに身代わりをしろなんて言えるはずがない。

周りすべてが敵うはずのない相手ばかりで、孤独に喰われるのを待つ辛さを僕は知っている。

「お前は優しい人間だ。それはよくわかる。お前が考えていることもあらかた予想がつく。でもな、どうしようもない時はあるんだ。このことはよく覚えとけよ。」

僕は、一つ決心する。

僕がこの部隊で命をかける理由。

僕に優しくしてくれた彼らを、マルセルを、リーを、ジャッキーを、命を賭して守る。

そう、心に誓った。

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