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鬼と鬼子  作者: らゐる
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12

車に乗り、しばらくすると例の本部ビルに送られた。

今回は独りで車に乗っていたため、非常に時の流れを遅く感じた。

戻ってきたはいいけど、僕はどうするべきだろうか。

みんなのもとにあいさつ回りに行った方がいいのだろうか、それとも自室に行った方がいいのだろうか。

スマホは手元にないので、どうしたものかと入り口で思案していると、ビル入り口から見覚えのある顔が走ってこちらにやってきた。タンクトップだ。

「ようフェルディ!戻ってきたか、おつかれさん!」

「あ、ああ。ありがとう」

マルセルだ。僕に挨拶をしてくれた。

割とあっさりした反応で、少し戸惑う。

「あ~…まあ一応心配してたっちゃしてたがな…マトをやり終わった後お前の容態を確認したけど息はあったみたいだったからな。回収班の奴らがそのままキリルさんのところ連れてって、余裕で治せるって聞いてたからな。あんまり心配してなかったんだ。ちなみにあの事件から日にちは1日しか経ってない。流石だよなあキリルさんは。」

キリルさんって、そんなに信頼絶大な人なんだな…。

僕が感心していると、マルセルは駆け足をし始める。

「じゃ、俺ランニングしてくっから!まあ飯食ったらボスのところに一声かけとけよ!あと今ジャッキーとリーもいるから、しゃべりたかったら部屋に突撃してもいいかもな!」

そう言い残し、マルセルは森の中へと走り出した。

マルセルの言う通り、おなかも減ったしご飯を食べてからボスの部屋へ報告に行くことにした。

太陽は東側にあったので、午前中だろう。朝ごはんだな。


/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


食堂で軽く朝食を済ませ、僕はボスの部屋の前に来た。コンコンコンと、三回ドアをノックする。返事はない。

「……失礼します」

一声かけて、ドアを開ける。鍵はついていなかった。

部屋の中にはボス一人。僕の方向とは真逆の方向を向いて座っていた。

「キリルさんの治療を受けて完治したので、その報告をしに来ました。」

ボスの方から返事はない。全く動かないので、近付いて肩を叩いてみる。

「ふぉあああっ!?!?!」

ボスが素っ頓狂な声を出す。

「……寝てたんですか」

「あ?あぁ、フェルディか、ご苦労さん…あー…キリルのところから戻ったのか…無事治ったみたいでよかった」

僕のことを目で確認すると、ボスは僕の方に向き直った。

「すまなかったな、最初から少し重めの任務に随伴とはいえ向かわせてしまって」

「いえ、僕としても学ぶことの多かった任務でしたので」

「今回の任務に随伴させたのは君のロブエ族としてのポテンシャルを加味したうえでの指令だった。今後はシミュレーション訓練などを経て実際に誰かとペアを組んで任務にあたってもらうつもりだから、そのつもりで」

淡々と事務報告が進んでいく。話はここで一区切りついたみたいであったので、僕はボスの部屋から出ていこうとする。

「では、失礼します。」

「あぁ、少し待て。君にはまだいろいろ伝えておくことがある」

ボスは部屋を出ていこうとする僕を呼び留める。

「君専用の武器を作ってもらうことになってるんだが、鍛冶師なんだけどな、そいつの元に行って一度話に行ってもらいたい」

「話、ですか」

「そう。本当に雑談程度だ。その鍛冶師曰く、武器の素材を知り、武器の使い手を知ることで一番その使い手に合った得物を打てるそうだ。マルセルとか他の皆も通っている道だ。」

「…わかりました」

「日にちは明日になっている。レイラに同伴させるから、少し打ち合わせだけしといてくれ」

レイラが一緒に行ってくれるのか…。あまり話したことのない部類に入る彼女と全く知らない人の元に行くのは少し気は進まないが、仕方がないか。

「あと、今後オフの日とかに外出をする機会があると思うが、その時は特殊警棒とスマホは忘れないように。何か指示があった場合にすぐ対応するようにな」

「はい」

「以上だ。今日一日はこの前の任務の疲れをゆっくり取ってくれ。お疲れ様」

僕は一言ボスに礼を言い、部屋を後にした。


//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


自室に戻り、今日一日何をするか考える。まずはジャッキーとレイラに戻ったことを伝えなければならない。まあレイラとは明日の打ち合わせもあるので、それとまとめてやればいいか。午後はレイラとの打ち合わせに費やすことを決める。

じゃあジャッキーに会って話をするのは午前中でいいか。

ざっくりと予定を決め、僕は部屋を出る。そして僕はジャッキーの部屋へ向かおうとした。すると、廊下でジャッキーと鉢合わせる。ジャッキーは両手に重そうな荷物を引っ提げていた。みるみる顔が赤くなる。

「……どうしたのさ、その荷物」

僕が聞くと、ジャッキーは慌ただしそうに答える。

「あぁあぁちょっと待って!今これ片付けてくるからッ!!」

ドタバタとジャッキーは自分の部屋になだれ込むように入り、そう時間のたたないうちに部屋から出てきた。一体どうしたというのだろうか。

「ふー……いやぁ、お待たせ。てゆーか、帰ってきたんだね!お帰りフェルディ!」

さっきまでの様子とは打って変わっていつものテンションでジャッキーは話す。

「あ、うん、ありがとう。…ところで、さっき持ってたのは何?」

「え?それはどうでもいいこと!そんなことより、キリルさんは元気だった?」

「あ、まあ、うん、普通に元気だったよ」

ジャッキーに「聞くな」というオーラを出されたので、先ほどの荷物の話はしないようにする。

「ジャッキーはさ、暇なときは何してるの?」

僕は話題を変えるために適当な話を振る。

「私はね~、大体本読んで過ごしてるかな…あっ、そういえば図書室の話とかしてなかったね!もし暇だったら一緒に行く」

図書室か。まだ昼食まで時間があるし、この後の予定も特にあるわけではないので、ジャッキーの誘いを受けることにする。

「うん。連れてってよ」

「よし!じゃあ行こうか!」

ジャッキーはそういうとエレベーターの方へ歩き始める。僕もそれについていくことにした。


///////////////////////////////////////////////////////////////////////////


本部ビル5階。エレベーターを降りると、本がたくさん並ぶ、いかにも図書室という感じの場所についた。天井まである高い本棚。上の方の本は梯子を使って取るみたいだ。

「ここにはね、世界中の本が全部集まってるんだ。ジャンルも問わない、研究論文から啓発本、小説や雑誌、漫画も置いてあるんだよ!」

なるほど、確かにここの本を読めば永遠に時間を過ごせそうだ。

ジャッキーと一緒に内部を徘徊する。試しに近くにあった本棚にある本を手に取った。題名は……「お兄ちゃん、私を抱いて!」……

……………………。

僕はすぐに本を元の場所にしまった。

「…え、フェルディってそういう趣味あるんだ…………」

だが、ジャッキーには見られてしまったようだ。すごく引き気味に言われる。

「………たまたま取った本がこれだっただけだよ。」

「すっごい苦しい言い訳だね…まあ趣味なんて人それぞれだし、いいと思うよ?」

苦笑いで言われる。ああ、本なんてとるんじゃなかった……。

「ま、そんなのは置いておいて、一応この図書室は5階から10階まであって、5,6階が小説、漫画、雑誌とか。で、残りの階が研究論文とか学習本だよ。ここにない本は入り口の方にある端末で取り寄せとかもできるから、気が向いたら使ってみるといいよ」

「へぇ…取り寄せとかもできるんだ」

「うん。貸し出しもその端末を使えばできるから、案内に沿ってやるといいよ。フェルディ、見たい本あるでしょ?私もちょっと見て回りたいから…ちょっと別行動して後で合流しよう…そうだな、12時に五階図書室で待ち合わせってのはどう?」

特に異論はなかったので、ジャッキーの提案に同意する。

そうして、僕はジャッキーと別れ、図書館を回った。こうやってみると、本当にバラエティ問わず本が並んでいる。

とはいっても、5階には特に興味をそそられるものがなかったので、7階に向かった。


エレベーターを使って7階に上がると、そこは研究論文の本や、いろいろ勉強になりそうな本がたくさんあった。部屋の作り自体は5階と大差ない。ぐるぐる回っていると、ある本が目についた。手に取って題名を見る。「全自動治療装置とその実用性」。著者はキリル・アスフォード。キリルさんが書いた本だった。

中を開いて数ページ読んだが、全く理解ができなかったので、本をしまう。

キリルさんって、本当にすごいひとなんだなぁ…と思った。

またしばらく7階を回っていると、この図書室に似つかわしくない鉄製の扉があった。扉の隣にはカードか何かをタッチする機械のようなものがあった。その機械の上に「キーロック式 スマホかキーカードをタッチしてください」と小さなモニターに書いてあった。さっき部屋に戻った時に回収したスマホを試しにタッチしてみると、小さくブザーが鳴った。モニターに「閲覧権限がありません」と表示される。

なんだこれは……。

よくわからない。あとでジャッキーに聞こう。

僕はそう思い、この場所を後にした。


//////////////////////////////////////////////////////////////////////


時間が過ぎるのは一瞬で、他の階も回っていると、あっという間に12時になった。言われた通りに5階の図書館入り口にいると、ジャッキーがやってきた。手に何か本を持っている。

「何か借りたの?」

「うん。この人の小説、雰囲気が暗いけど、なんか引き込まれるものがあるんだよね。面白いからこの人の小説、気になったら読んでみてよ」

題名は「自殺」。題名からダークさ満載の小説だ。ジャッキーはこういうのが好きなのだろうか。

「じゃあ私は一回この本を置いてくるから。もしよかったら一緒にお昼ご飯食べない?」

「いいね。僕もちょうどおなか減ってきたころだし、ついていくよ」

「よし、じゃあ行こうか!」

僕はジャッキーについていって昼食をとることにした。

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