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鬼と鬼子  作者: らゐる
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 目が覚めると、炎が空を焼いていた。

寝ていた体を起こすと、自分は森の中にいるのだとわかる。木々が生い茂っていた。立ち上がろうとして、体が重いのを感じる。思うように体が動いてくれない。意識が徐々に覚醒し、今自分がなぜ森の中で寝ていたのかを思い出す。

村の人々にリンチされていたのだ。


///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


 僕はとある農村で生まれ育った。名前はない。父親は誰かわからず、母は『むらのおきて』を破ったらしく処刑されたそうだ。

 母が処刑されてからは村長の家に預けられたが、『むらのおきて』を破った女の子供であったため、扱いはよくなかった。

 朝起きて、一日中薪割りをして、日が沈めば眠る。眠る場所は家の外の屋根のある地べたで、自分で火を起こして暖を取っていた。与えられる食は朝と昼にパン一つずつ。あとは雑草や虫をとって食べていた。

 服は腰に布切れを巻いていた。村長やほかの村人が巻いているようなきれいなものではなく、泥にまみれたうすぼろの茶色い布切れだ。擦り切れて腰に布が巻けなくなったときに、誰かのおさがりのような布がもらえる。その程度のものだった。

 友達はいない。あまり人と話すこともなかった。村長やその家族に命令されたり、村の子供たちにいじめられることはあったが、およそ人と何か対話するということはなかった。寝るときに聞こえてくる村長の家の会話を耳にしているときは、少し、家族というものがうらやましくなった。

 18の歳になると成人の儀式があり、村長に連れ出されて僕も儀式に参加させられた。夏場の炎天下、対岸から5mほど離れた崖の下に川があり、その崖を飛び越えるか、崖を降りて川を泳ぎ、崖を登って対岸へ行くか、いずれにせよ道具を使わず対岸へたどり着けば大人としてこの村で生きていけるという儀式。儀式は昼頃から始まり、僕と同じくらいの背丈の村人が次から次へと対岸に渡る。


 僕は、対岸へたどり着けなかった。

 崖を降りて川を泳いで渡るところまではできたが、崖を登りきることができなかった。仕方なく川岸を歩いて別の道を通ってスタートに戻ったころには、そこにいた村の人たちは誰もいなくなっていた。夕日が僕を嗤っている、そんな気がした。


 次の日の夜、日が沈んで眠りにつこうとしたときだった。

 誰かの声が聞こえる。村長と何人かの男の声だ。気になって、僕は家の壁に耳を当て、会話を聞いた。

「例の子供だが、もう必要なくなった」

「え!!じゃあ…」

「ああ。殺そう」



逃げた。例の子供が誰だかはわからないが、僕のことだろうと感じた。

村の民家とは反対の、森の中に逃げる。

ただただ走った。

後ろから声が聞こえる。

「いたぞ、森に逃げようとしてやがる!!」

「追え!!」

火を持った村人たちが後をつけてきていた。

振り返らず一生懸命逃げていると、走る僕の背中を蹴られた。顔から転び、鼻を挫いた。

肩をつかまれ、あおむけにされたかと思うと、顔に拳が飛んできた。殴られた直後は何が起こったかわからなかったが、徐々に頬に伝わる痛みとともに殴られたことに気づく。歯が何本か地面に転がっていた。

村人の一人が僕の腹の上に馬乗りになり、それを火を持った村人三人が囲む。火を持った村人たちの顔はよく見えないが、馬乗りになってきた男の顔は見えた。昨日の儀式で対岸に渡った子供の一人だった。

「やっとだ…!やっとてめえを嬲り殺すことができるッ!!」

その男の顔はとても楽しそうに笑っていた。何度も僕の顔に拳をたたきつける。口の中が切れる。目がかすみ、見えなくなってくる。鼻から温かい何かが出てくる。もう何が何だかわからなかった。

唐突に腕に熱を感じた。熱い。焼けこげる。そんな痛み。

「あっすまねぇ~松明落としちまった~~」

腕に火が落ちたみたいだ。目がかすんで見えないものの、痛みで伝わる。笑い声が聞こえる。周りにいるのは四人だけのはずだが、この森が、村が、世界が、僕を笑ってる気がした。

「……………して……ッ」

声が出ていた。

「………あ?」

4人の男が見下す。歪んだ笑みをこぼしながら見下す。

「どうして……僕だけが…こんな目にあわなきゃいけないんだ……ッ…!!!」

振り絞って出した、小さな声。叫んで言いたかったが、小さくかすれた声しか出なかった。


怖くて。


4人は顔を見合わせた。そして。

大声で笑いだした。

何がそんなに面白いのだろう。

僕はほかの村人に迷惑になるようなことは一つもしていない。一人で慎ましく、人の目につかない場所で、薪割りだけをしていた。村長に言われることはなんでもした。村で使う材木も運んだし、トイレの掃除もしたし、家畜の糞の処理も、畑仕事も、殴られることも、狩りに使う罠にかかる役も、つばをかけられることも、何でも、何でもしたのに。

「そりゃぁな、理由がある………」

馬乗りになった男は歪んだ笑顔で答える。

拳を振り上げながら。

「お前がお前だからだよ………ッ!!!」



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焼けている空を見上げる。あの村人たちはどこへ行ったのだろう。いろいろ思考を巡らせながら立とうとするも、まだ腕に力が入らない。

パチパチと木の焼ける音が聞こえ始めた。じきにここも焼けるのだろうか。

僕を燃やすためにあの村人たちが近くに火をつけたのだろうか。そんなことしたら大火事になるとも考えずに。きっと村長にこっぴどく叱られることだろう。

あぁ、もう、どうでもいい。

誰が怒ろうと、誰が泣こうと、誰が笑おうと、もうどうでもいい。

ただ、ひとつ願うことがあるならば。

この森を焼く炎が、あの忌まわしき村を消しますように。


「みーつけた」

女の声が聞こえる。村人だろうか。リンチにあった僕の様子を見に、嗤いに来たのだろうか。もうどうでもいい。

髪を一つ結びにした女が僕の顔を覗き込む。見たことのない顔だ。村人じゃない。炎に照らされた艶のある白髪に、透き通る碧い目。顔立ちの整った顔。髪とは対照的な全身黒い服。

美しい、そう感じた。

本当は村の人間以外の人間であることに警戒すべきだろうが、もうそんな力も残ってなかったし、何よりその美しさに見とれてしまった。

「それにしてもすごいやられようだねェ、ケガの跡を見るにしても何か道具を使ったわけじゃなさそうだし…ロブエ族は凄まじいね、みんなこんな怪力だもん」

僕の体の傷を触りながらつぶやく。いったい何をしているのだろうか。言っている言葉の意味もわからない。ロブエ族?何なのだろうか。

「さあ、君も見つけたことだし、戻りますか」

そう言って、僕をお姫様抱っこして、森の奥へと走り出した。

ものすごいスピードで。

「ごめんね~、ちょっと急がないといけないんだ。スピード出させてもらうよっ」

息一つ切らさずこの猛スピードで走っている彼女が末恐ろしく感じたけど、ずっとこの時間が続けばいいのにと、そう思いながら。

目を閉じた。



はじめまして。らゐると申します。

『小説家になろう』に作品を投稿するのは初めてなので非常に戸惑っております。

また、作品の文章が拙かったり、更新頻度がかなり遅くなったりすると思いますが、どうか温かい目で見守っていてください。

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