一話
気持ちの良い朝だ。こういう朝には掃除をするものだ。
俺は掃除機を取り出した。しばらく使われず、押し入れに死舞い込まれた掃除機は少し埃を被っていた。
壁の薄い四畳半の部屋。部屋の東側にはベッドがある。北枕はよくないものと云われているが。寝相の悪い俺は今日頭を北にして目を覚ました。だが、幸運な俺は尻を東にして寝ていた。
きっと不運など起こらないだろう。
俺は掃除機の埃を軽く払い、コードを伸ばしてプラグをコンセントに神速で差し込んだ。そのまま部屋に向かう。
そこには、黒煙の如く舞い上がる埃という名の我が宿敵が雄叫びをあげて襲いかかるのが見えた。俺は掃除機を空中に向け、その秘めたる力を開放した。唸りを上げて動き出す相棒の心臓の鳴き声と共に、振り回されたそのノズルが忌むべき敵を吸い込み始める。一瞬で視界が開け、奴らが消滅していく。
数分の時が経った時、俺は完全なる勝利を納めていた。もう、その黒い悪魔の姿はどこにも無い。俺は小さくその勝利の勝鬨を上げたあと、相棒を再び仕舞おうとする。
その時、俺の眼にはまたもその醜い姿が写った。俺としたことが、不覚をとったらしい。再びそのボタンに手を伸ばし、戦闘態勢をとろうとする。
ふと耳に飛び込む異様な爆音。顔を上げると俺の部屋の壁を何かがぶち破ってくる。「なっ!」それがトラックの頭だと認識した時には、俺は撥ね飛ばされていた。何故俺が、とか、何故二階の俺の部屋にトラックが、とか色々考えたが恐らくその時間は一秒に満たなかっただろう。最後に俺の頭に入ってきたのは、「タンクローリーだ!!!」というよく分からない叫び声だった。
次回は作者が変わります