第97話 孵化
クリオは魔術ではない魔力の放出方法を覚え、あっという間に龍陣ではない魔力の陣を扱える様になった。
『魔力の陣では呼びにくいのぉ。何か呼び名をつけると良さそうじゃ。』
『そのままですと魔力陣とか魔陣でしょうか。』
『そうじゃな、わかりやすく魔術陣と呼ぼうか。これからその広がった陣で龍陣の様にできることを増やしたら、それは魔術みたいなものじゃからな。』
『わかりました!』
その後、クリオが魔術陣を龍陣の第2段階と同様の広さまで広げられる様になると、体の中央から光が漏れだした。
『え、何…!?』
『心配はいらぬ、孵化の時が来たのじゃ。』
クリオから溢れ出した光が一面を包み込んだ後、急激に光は小さくなった。
そしてクリオの目の前には小さな光の球体が浮かび、若干放電している様にも見えた。
『ちょっとすまんの。』
『えっ?』
老師はそういうとクリオの胸を貫いた。
クリオは胸を貫かれ、痛みがやってくるかと思ったがそこには何の跡もなかった。
『あれ、痛くない?何をしたのでしょうか?』
『ラピスから精霊が孵化した後に残っている不要なものを取り除いただけじゃ。
残っているとよくないことがあるからの。』
『そうなんですね、ありがとうございます。』
『其方はこの光が見えるか?』
『はい、見えますが、これが精霊でしょうか?』
『最初から精霊が見えるとは、さすがラピスから孵化させただけあるな…
そうじゃ、この光が其方から生まれ出た精霊じゃ。この子に名前をつけてあげると良いぞ。』
『名前…ところでこの子はどんな精霊なのでしょうか?』
生まれた光をよく見てみるとそよ風が吹き、時々水飛沫を出し、若干の放電をしていた。
『ほぉ、これは珍しい。この子は嵐の精霊じゃな。其方は水と風と光属性の魔術が得意であったな。
おそらくそれはこの子の影響じゃろうな。』
クリオは老師の言葉を聞き、今までの自分の魔術がラピスに宿っていた精霊の力を借りていたのだということを実感を持って理解できた。
『嵐の精霊…。そうですね、ニンブス…この子の名前はニンブスにします!よろしくね、ニンブス!』
クリオがニンブスに名前をつけた瞬間、クリオの中の魔力がニンブスへと流れ込み、ぼんやりとしていた光に少し輪郭が生まれた様に見えた。
『ニンブスか、良い名じゃ。普通精霊とは契約の儀式が必要なのじゃが、ラピスから孵化した精霊とは長い年月を共にしていたということもあり、絆が生まれているため契約の儀式は不要じゃ。
おめでとう、これで其方も龍脈の力を扱う下地ができたわけじゃ。
龍王様のところへ行くまでは精霊との絆を深めるが良い。
お主はニンブスに常に魔力を提供するくらいで良いじゃろう。
少し育てば自分で補給もできる様になるじゃろうて。』
『わかりました、頑張って育てます!』
クリオは親になった気持ちでニンブスを成長させようと張り切るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい、ラピスが孵化したみたいだぞ。」
「珍しいな。どこだ?」
「ここの海域だな。あれ、もう反応がなくなっているな。」
「突然のことに耐えられず死んだか?」
「まぁ、そういうこともあるか。
おそらく海の魔獣が成長して、その隙を他の魔獣にでもやられたか。」
「自然発生で孵化させるのは難しい。だからこそ私達がいるのだろう。」
「そうだな、やるべきことに集中しよう。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
クリオはニンブスを生み出すと、まずは魔力を練ることに集中し、どんどんニンブスへと流し込んだ。
生まれたばかりでまだ喋れない様子だったが、絆が生まれているためかニンブスの嬉しそうな感情がクリオへと伝わっていた。
クリオがラピスの孵化を行っている頃、アルクス達も龍陣の第1段階を扱える様になり始めていた。
『ふぅ、なんとか吹き飛ばされなくなったね。』
『これくらいどうってことないぜ。』
『兄さんが一番吹き飛ばされていたのに。』
『これが龍陣か、確かにドクも体の周りに何かを纏っている様なことがあった気がするが、これだったのか?』
アルクス達が一休みしていると、老師が龍穴へとやってきた。
『ほっほっほ、思ったより早かったのぉ。クリオの嬢ちゃんも魔術陣を会得してラピスが孵化したぞ。
優秀な弟子達じゃの。』
『ラピスの孵化ですか?』
『そうか、お主達には話しておらなかったのぉ。とりあえず小屋に戻って話すとするかの。
今日は皆の成長を祝い宴としようかの。』
老師に連れられて小屋へと戻るとクリオが竜達と一緒に宴の準備をしていた。
竜達は口と翼を器用に使って、食材を運んでいた。
『あ、皆お帰りなさい!私、ついに精霊と仲良くなれたのよ!』
はしゃぐクリオの周りに小さな光が浮かんでいた。
『この光がそうなのかな?』
『そうよ!嵐の精霊なんだって。名前はニンブス。まだ生まれたばかりで喋れないみたいだけど、なんとなく何を考えているのかは伝わってくるんだ。』
アルクスはちょうど良いと思いフルー達、精霊を召喚した。
『ナンダアタラシイナカマカ』
『ウマレタテ』
『ヨロシクネ』
『ワウ!』
嵐の精霊というだけあってフルーとトニーとは能力的な相性が良さそうだった。
『コイツハシバラクシャベレナイカライッパイマリョクアゲテクレ』
『わかったわ。』
フルーはクリオにそういうと、ニンブスを連れて精霊達で集まっていた。
『精霊同士、何か話すことでもあるのかな?』
『上下関係を教えるとか?』
『精霊達の中にもルールとかあるだろうし、そういうものなのかな。
ところでクリオは魔術陣?が使える様になったんだよね。どんなことができるのかな?
あとラピスの孵化ってどんな感じだった。』
その日クリオは魔術陣や孵化など興味津々のアルクスからの質問攻めにされることになるのだった。
『皆順調に成長してるね。』
『あぁ、この前みたいな無様なことにならないためにも強くならないとな。』
『ドラコ・レグルスでは強い方だと思っていたんだが、まだまだ未熟だったな。
もっと強くならないと…』
スペルビアは力を得たことで逆に自分の未熟さに気付き、より力を追い求める様になってきた。
祝いの宴の翌日、老師から続きを教わることとなった。
『さて、次は第2段階の修行に移ろうかのぉ。
第2段階の修行は龍陣を広げることじゃが、簡単に言うと龍陣という見えない力で押すことじゃ。
そうじゃのぉ、これくらいの岩を龍陣の力だけで100歩程度の距離を押すことができれば合格と言えるじゃろう。
こんな感じじゃ。』
老師が龍陣を展開すると周囲にあった岩がズズズと言う音を立てて動き始めた。
『最初は手を触れずに岩を動かすことから始めると良いじゃろう。
クリオのお嬢ちゃんはその間にニンブスを育てて、魔術陣に魔術を込めることでもやってみよぅかのぉ。』
『そんなことができるんですね!よろしくお願いします!』
そうして新たな修行を開始した。
結論としてバルトロとアリシアは第2段階の龍陣を広げると言うことがどうしてもできる様にならなかった。
バルトロは自分から10歩程度の距離、アリシアに至っては自分の周囲のみだった。
だがアリシアは龍陣の効果を武器に付与できないかと考えて、試行錯誤しつつも可能性を見出せていた。
アルクスは当初の目標の100歩程度、スペルビアは少し劣るものの80歩程度の距離まで龍陣を展開することができた。
その間、クリオはニンブスと協力して魔術陣内に少しの水を降らせたり、そよ風を吹かせたりと精霊の力を借りる方法を編み出していた。
『あの、なんだか魔術が弱くなった様な気がするのですが、それってラピスが孵化したからでしょうか?』
『そうじゃ、よくわかったの。今までラピスの中にいた精霊の力を借りていたからこそできていたことは多い。じゃがこれからは外に出て意思の疎通が取れる様になった以上、直接精霊から力を借りれば良いだけのことじゃ。自分だけの力ではなく、協力して戦う必要はあるがのぉ。』
そしてクリオはより一層ニンブスとの中を深め、闘技も扱える様になった。
クリオが急激に成長していく様を、アリシアはじっと眺めていた。
『いいなぁ。』
『何がだ?』
『クリオは精霊と一緒になれて羨ましいなって思って。私達は不授だから中には精霊がいないし…
アルクスみたいに契約するのも難しいだろうしね。』
『前に精霊達が言ってた半精霊に会えたら仲間にすればいいじゃないか。』
『そうだね、羨ましがったからって何かが手に入るわけじゃないし、その時に備えて準備しておくね。』
そうしてアリシアは修行へと戻っていった。
そして皆が会得した力の扱いになれてきた頃、修行の仕上げに入ると老師からのお達しがあった。
『皆よく頑張った。最後に儂が龍陣を展開して皆の力を吸い取ろうとする。
これに耐えられたら合格じゃ!』
そういうと老師は急に龍陣を展開した。
アルクス達も負けじと各自龍陣や魔術陣を展開した。
隙あらば自分達の龍陣を広げて老師を倒そうと思うも、自分達を守ることで上手くいかない。
『よし、合格じゃ!』
なんとか全員無事耐えることができた。
『ありがとうございます、老師の龍陣を上書いてしまおうと思って全力で取り組んだのですが、全然だめでした。』
『何、儂の龍陣が強いだけじゃ。気にすることはない。
これだけできるなら大丈夫そうじゃの。
あいつが来たとしても前みたいにやられることもないじゃろうて。
八竜震天の試練を受けているのじゃろ?そろそろ次の街へ向かうと良いじゃろう。』
『あの、僕達と一緒に街へ向かいませんか?』
『元領主とは言っても、街の暮らしは合わんでな。』
竜達が老師の近くにやってきて甘えた声で鳴いていた。
『こいつらもおるしのぉ。竜達と暮らしている方が気が楽じゃ。
じゃがお主達がいてなかなか楽しい日々じゃった。
後半の天竜の試練はこれまでより厳しいものになるじゃろうが、頑張って突破するんじゃ。
ここで吉報を待っておるよ。』
アルクス達は老師に感謝の意を伝え、次の街へと向かうのだった。
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