第90話 上陸
中央大陸らしき場所に到達し、しばらく進んでいくと果実のなる木々が生い茂っていた。
『クリオ、この実って食べられる?』
『初めて見た…大森林にも色んな植物や果物があるけどこれは見たことがないわ…』
クリオが真剣な表情で眺めているとアーラが果実にかじりつき、とても美味しそうに食べている。
『とりあえず解毒の薬もあるけど、アーラを見た感じ毒はなさそうだね。少し食べてみようか。』
果実を採り、切り分けて皆で食べてみる。
『これは…!』
『すごい!』
『口の中から色々溢れ出てきて弾け出しそう!』
『龍気が詰まってるのか?』
龍脈をよく見てみると、木一本一本が龍脈から龍気を吸い上げている様に見えた。
『この木、凄く硬いな。植物が龍気を扱うことで身を守りつつ、実を豊潤にしているのか。』
『植物が龍気を吸うなんて…』
『そうか、お前達は知らなかったか。ドラコ・レグルスでも一部の植物は龍脈から力を吸い上げていたぞ。だが、これほど実に龍気が詰まっているのはなかったな…』
『特別な土壌なのかな…』
龍気の詰まった実の成る木々に驚きつつも先へと進むことにした。
『お、あっちの方に羊の群れが見えるな。人がいるかもしれないぞ!』
『ねぇ、兄さんなんだかあの羊おかしくない?』
アリシアの指摘通り、前方に羊の群れが見えたが普通の羊の倍はあろう大きさで、全体的に筋肉質に見えた。
『あれは本当に羊なのかな?魔獣?』
皆が巨大な羊の群れに困惑していると、前方から人の声が聞こえてきた。
『おめーさん達、こんなところで何してるだー?そんなところにいたら羊に轢かれっぞー!』
のんびりとした声で筋骨隆々な羊飼いの青年がやってきた。
『な、なんて筋肉だ…』
バルトロが青年の筋肉を見て打ちひしがれているとすぐ近くまで来て話しかけてきた。
『こんなところに人が来るなんて珍しいなー、どこから来ただー?』
青年のすぐ隣にいた牧羊犬も巨大で強靭な肉体をしていた。
『ちょっと違うけど帝国語だね。話ができそうで良かった。』
『あの、僕達は帝国から海底王国を抜けてここまでやってきました。』
『なんと、外からやって来た人だったかー。よく来たなー。オラはパストルって言うだー。
疲れてるだろー、うちの村さ来るといいだー。』
アルクス達はパストルの好意に甘えることにし、村までついていく事にした。
歩きながら自己紹介を済ませてしばらく進んで行くと、おかしなことにこの島に来てからまったくと言っていいほど魔獣が出ていない事に気づいた。
『あの、全然魔獣を見かけないのですが、この大陸の魔獣はどこに生息しているのでしょうか?』
『魔獣だー?この島にはそんな奴らはいないだよー。この島にはラピスを持った生き物はおらんからなー。皆龍脈の力に世話になっているだよー。』
パストルの喋り方がのんびりしているため緊張感がないが、ラピスを持った生き物がいないというだけあって特殊な環境であるということを皆感じていた。
パストルの言う通り村までの道中、巨大な生き物を見ることは多々あったが、ラピスを持っていると思しき魔獣はどこにもいなかった。
『ここがおらが住んでる村だよー。ちょっと羊達を家に戻してくるからー、そこで待っててもらえるかのー?』
パストルが羊達を送っている間、村の中を見渡すと皆幸せそうな笑顔を浮かべていて、人生に充実している満ち足りた雰囲気を感じられた。
パストルが戻ってくると村人達にアルクス達を紹介すると言う。
『おーい、みんなー。集まってくれー。帝国の方から来た海底王国を通ってやってきた、アルクスさん達だー。』
パストルが村中に通るかの様な大きな声で皆を呼ぶと村中から人が集まってきてアルクス達を歓迎した。
『外から人が来るなんて、久しぶりだのー。ゆっくりして行ってくだされー。』
『外のお話聞かせて欲しいなー。』
『うちの名物の野菜や果物食べて行って下さいなー。』
パストルの話し方はこの村では特別ではなさそうだった。
村人達から話を聞くと外からの新規の来訪者はここ数十年ないらしかった。
昔から外と中央大陸を行き来している人もごく少数いるらしいが、この村とはあまり関係ないとのことであった。
村人達は皆が皆パストルの様に筋骨隆々と言うわけではなかったが、皆何かしらの技能を持っていて、手を取り合い平和に暮らしているらしい。
『皆が平和に健康に暮らせるのは龍王様と龍脈のおかげだー。』
先程の植物の様に龍脈の力を農業に活かすことで、食料には困らないらしい。
また、多くの村人達は召喚術が扱えるため手が足りない部分は精霊を呼び出して色々手伝ってもらっているらしい。
『都の人達はもっとすごい精霊を呼べるだよー。オラ達は小さい精霊で精一杯だー。』
この辺りでは小さな精霊ばかりだが、中心部に住んでいる人間だともっと強い精霊を呼べるらしい。
アルクスはそれを聞いてフルー達を召喚した。
『この精霊達は自分が契約している精霊なのですが、パストルさん達からするとどれくらいの大きさに成るのでしょうか?』
『ほー、初めましてだなー。オラ達の村にいる精霊達はみんなもっとちっこいなー。アルクスの精霊は村長の精霊と同じくらいの大きさだなー。』
村長の精霊の話を聞き、紹介して欲しいと伝えるとパストルは快諾してくれた。
『龍脈の力の使い方や精霊との契約の仕方なんかは、みんな村長が教えてくれるだよー。』
そうして村長の家へと到着した。
『村長ー、外からのお客さんだよー。』
『む、パストルか、外から客人など珍しい。さてお客人よ、何用で参られたかな?』
パストルが声をかけると年は言っているものの、覇気に満ちた人物が出てきた。
そして、間延びしない喋り方の人が出てきた事にアルクス達は内心ほっとしていた。
『僕達は天空竜様の案内で海底洞窟を抜けて海底王国を経由してこちらまで辿り着きました。龍王様の指示の下で各地の龍王様の居場所を巡っています。』
『ほぉ、龍騎士の方でしたか。気づいたかもしれませんが、この村には龍脈の力の使い手しかおりません。外との違いに驚かれたかもしれません。』
『まさか、全員だったとは…』
『私はまだ使えないのに…』
子どもを含めた村人全員が龍気を使えるという事実にまだ龍気を扱えないクリオは少ししょんぼりとしていた。
『お嬢さんはエルフですね。ハイエルフを目指しておられるのですかな?』
『はい、そうです!よくわかりましたね。』
『都の方にはハイエルフの方もおりますからな。もし機会があれば会っていくと良いでしょう。』
クリオは中央大陸にハイエルフがいるという事実に驚き、目的が1つ増えたと喜んでいた。
『話を切るようで申し訳ありません。ここは中央大陸という事で良いのでしょうか?
あと、中央大陸のどの辺りになりますでしょうか?』
『ここは中央大陸で間違いありませんよ。住んでいる人間からすると大陸というよりは大きな島という認識ですがね。そしてこの村は中央大陸の最北端の村になりますな。龍王様にお会いに来たのであれば南にある大陸中央の都に行かれると良いでしょう。』
では都に向かおうとアルクス達が決めたところで村長から待ったがかかった。
『お待ち下さい。南に都があると言いましたが、この村から真っ直ぐ南に都へ向かう事はできません。』
『何か理由でもあるのですか?』
『この島が外部から大渦により辿り着けない様になっていることはご存知かもしれませんが、それは海だけではなく、気流の流れもあります。簡単に言いますと島の周囲を回転する様に吹く風により空からの来訪者を撃退しています。そしてこの大陸には渦を描く様に山脈があります。そして、その山脈には数多くの竜種が生息しています。皆さんであれば撃退は可能かとは思いますが、数も多く長い道程になるため、あまりお勧めはできませんね…』
アルクス達は中央大陸の実態を知り、これからの進み方を考えさせられることとなった。
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