第87話 黒靄
アルクスが1人洞窟を進んで行くと黒い靄の様なものが浮かんでいるのが見えた。
近寄ってくるため、毒の様なものかと思い振り払うと簡単に霧散した。
(今のはなんだったんだろうか。毒の霧?毒が噴出する洞窟なんて危険だな、皆大丈夫だろうか…)
そのままアルクスが進んでいくと黒い靄は何度も出てきたが、都度振り払うことで霧散していった。
しかし回を追うごとに徐々に何かしらの形を象っている様にも見えてきた。
(なんだか形が人の形に近づいてきているような…)
そしてさらに数度黒い靄を振り払っていくと最後には完全に人の形になり、歩いている様にも見えた。
(襲いかかってくるわけでもないし、あの靄は一体何だろうか。人の形になったが、これからまだ変わっていくのだろうか…?)
アルクスが得体の知れない黒い靄に対して疑問を浮かべていると突然前方から懐かしい声が聞こえてきた。
「久しぶりだね、アルクス。強くなったな。」
「兄様!?」
洞窟の少し先の岩でよく見えない曲がり角の先からウィルトゥースの声が聞こえてきた。
そして突然のことにアルクスは駆け出した。
だが曲がり角から少しだけ黒い靄が見えたことで、今起きていることがおかしいことに気がついた。
「ちょっと待てよ、王都にいるはずの兄様がこんなところにいるはずがないよな…
今帝国と交戦しているだろうし、いるとしたら戦場だろう。
兄様を騙る偽者か!?」
「アルクス、僕のことを忘れてしまったのかい?」
「貴方がウィルトゥース兄様だというのであれば、姿を見せてください!」
アルクスが叫ぶと曲がり角から見えて来た姿は自分の兄であるウィルトゥースにしか見えなかった。
「え、本当に兄様?まさか…一体なんでこんなところに…」
アルクスはウィルトゥースの姿を目にしたことで、頭の中が急に混乱してしまった。
目の前には自分の敬愛する兄がいるが、頭のどこかで絶対に本物ではないという警鐘が鳴り響いている。
笑顔を浮かべたウィルトゥースが少しずつ近づいてきて気が緩みそうになるが、近くにきて顔がよく見えるようになるとその目の奥には生気がなく漆黒のようであり緩んだ緊張感が一気に戻ってくる。
(万が一本物だったとしても受け止められるはず、ここは一撃入れて様子を探るしかない!)
目の前にいるウィルトゥースがどう見ても怪しい偽者だと思い、双牙刃を取り出して斬りかかった。
その瞬間目の前に火花が飛び、同時にウィルトゥースも斬りかかってきていたことがわかった。
「アルクス、どうしたんだい?急に斬りかかってくるなんて、危ないじゃないか?」
「そういう兄様こそ斬りかかって来たじゃないですか!」
アルクスとウィルトゥースが切り結び、数合お互いの力を確認しつつ、アルクスが闘気を込め始めると火花だけでなく、ウィルトゥースの持っている剣から少しずつ黒い靄が滲み出してきた。
(この靄は…この剣はあの黒い靄でできているのか…?もしかしてこの怪しい剣に兄様が操られているとか…
考えがまとまらないな…闘気を込めて黒い靄が出始めたなら、闘気解放を使えば一気に黒い靄を吹き飛ばせるかも?)
「どうしたんだい、アルクス。戦いの最中に考え事は良くないな!」
ウィルトゥースはアルクスから一度離れるとその目に宿る暗い光から黒い靄が溢れ出していた。
そして剣を振りかぶると走り出し、突進してきた。
「兄様に勝つ方法を考えていたんです…よ!」
ウィルトゥースが眼前に来て、剣を振り下ろしたタイミングに攻撃を受け流して、胸元に入り込むと溜めていた闘気を解き放った!
闘気解放の衝撃で黒い靄で出来た剣が霧散していくとアルクスは心の中で成功を喜ぶも、目の前にいたウィルトゥースも一緒に黒い靄へと変わり消えてしまった。
「あれ、剣だけじゃなくて兄様も黒い靄だったのか…
はぁ、なんとか勝てて良かった。でも少し休まないと厳しそうだな…
兄様の姿を取るなんて恐ろしい敵だったな。声も同じだったし。
でもウィル兄様はこんな弱くないからな。きっともっと強くなっているんだろうな…」
アルクスは座り込み、誰もいなくなったその場で今は戦争中であろうウィルトゥースのことを考えながら眠ってしまった。
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