第84話 海底
海底洞窟を進んで行くと、広い空間に出てきた。
そして話に聞いた通り、そこには大きな扉が立ちすくんでいた。
だが扉の周囲には番人と呼べる様な者の姿はなかった。
『なんだ、何もいないじゃないか。』
『だけどこのままのんびりしていたら海の中に沈むんじゃない?』
『なんだ、敵はいないのか。この扉の先に進めば良いじゃないか。』
『危険とかあるかな…?』
扉の前に番人がいなかったことにより、皆の緊張が緩んだが時間があるのであれば早く扉の先に進んで安全地帯を確保する必要があるとアルクスは考えていた。
『よし、扉を開けて先へ進もう。どこかに安全地帯があるはずだよ。』
そして扉を調べ、罠の危険性も無さそうだと判断して扉を開けた。
暗くてよく見えないものの、一歩踏み込んだ瞬間にアルクス達は浮遊感に襲われた。
『え?』
足元の床が崩れ落ちたかと思うと急斜面が現れた。
踏ん張ろうと思うも地面は濡れていて滑りやすくなっており、直滑降で全員落ちていった。
『ぐぇっ』
バルトロが1番先に落ち、その上にアルクス、スペルビア、アリシア、クリオという順番で落ちて行ったがバルトロとアルクスが下敷きになったものの、スペルビアがアリシアとクリオを難なく受け止めていた。
『アルクス、兄さん大丈夫?』
『あぁ、大丈夫だ。』
『結構落ちた気がするけどここはどこだろう…』
周囲を見渡すと、前方には湖の様な光景が広がっていた。
『洞窟の中に湖…?』
『思ったよりも明るいね、水中で何か光っているみたいだけど。』
全員怪我が無いことを確認して、湖に沿って先へ進むことに決めた。
少し進むと様々な生物の骨が散らかっていた。
『これは人骨じゃないかな…』
『もしかして今まで海底洞窟に入った人達の?』
『多分…ってことは人を食べる何かがいるってことだね。』
アルクスがそう言った瞬間背後から大きな水音がして、湖から巨大な蛇の様な魔獣が現れた。
『あれは…海蛇?』
『知っているのか、アルクス?』
『あぁ、あいつは標的に巻きついて弱らせてから丸呑みにするらしい。巻きつく力は強いけれど、それ以外はそこまで強くないはず。あとは血は毒を含んでいるからあまり斬りつけて出血させない方が良さそう。』
『じゃあ殴ってみるか!』
『なら殴るだけだ!』
バルトロとスペルビアが同時に海蛇の胴体を殴りつけた。
海蛇は急な衝撃にのけぞったものの、大したダメージは通っていない様子でスペルビアを目指して体を鞭の様にしならせて叩きつけてきた。
『やらせない!』
『すまない!』
だが、バルトロが盾を構えて受け止めた。
火花が散るほどの衝撃があったが、バルトロは堪え、海蛇は自分の攻撃が受け止められたことが不思議な様子で戸惑っていた。
『アリシア、今だ!』
『わかった!』
隙だらけの海蛇に対して、アリシアは口元に向けて痺れ薬がたっぷり塗られた短剣を投げ込んだ。
短剣を飲み込んだ海蛇は痺れ薬が効いたためか、即座に倒れてしまった。
『備えあれば憂いなし。色々作っておくもんだね。』
『アルクスが色々作っているのは知っていたけど、こんなのも作れるんだ。』
『普通は害獣退治とかに使うらしいよ。さて、こいつはどうしようか。』
海蛇はまだ生きていたものの、水中から引きずり込まれて水の中へと消えていった。
『まだ何かいるのか?』
『水中には色んな気配がある。強者が倒れたことで争いが始まるのかもな。』
『えぇ、あんなのがまだいっぱいいるの?』
『おそらくあちらから出てくることはないだろう。』
『とりあえず進もうか。壁が濡れていないところを見ると、ここが水没することは無さそうだし慎重に行こう。』
湖沿いを進んで行くも、他の生物の気配もなく静けさに包まれていた。
しばらく行くと壁があり、行き止まりとなってしまった。
『行き止まりか、水中を進むのも難しいし戻るしかないのかな…』
『水の中だと息できないし、それに私泳げない…』
『人族は水中を進むことができないのか?私が見てきても良いぞ。』
『いや、一旦滑り落ちてきたところまで戻ってから考えよう。』
皆が戻り始めたところ、バルトロは岩壁の一部に違和感を覚えた。
『ん、なんだこれ…?』
バルトロが壁を触ると遠くの方で水が流れる音が聞こえた。
『おーい、バルトロ兄さん行くよー!』
『あぁ、今行く!
なんだったんだろうな…?』
アルクス達が海蛇を倒したところまで戻るとそこには新しく道が生まれていた。
『前はこんな道なかったよね?』
『あぁ、少し湖の水位が下がっているな。それで浮かび上がってきたんじゃないか?』
『さっきのあれか…?』
『さっきのあれって何?』
『いや、行き止まりの岩壁に違和感があったから触ったら遠くの方で水の流れる音がしたんだ。
それだけだぞ?』
『もしかしたら道を出すための仕掛けがあったとか?バルトロ兄さんお手柄だね!』
皆に褒められ、バルトロは満更でもない表情をしていた。
新たに生まれた道を進んで行くと、魔法陣が敷かれた場所に辿り着いた。
『ここで行き止まりだね。』
『あぁ、これは転移の魔法陣だろうね。』
『おそらく中央の石の龍気を注げばどこかに飛ばされるんだろうね。』
『スペルビア、これに乗るとすぐ世界の中心にある大陸に辿り着けるの?』
『いや、私も詳しいことは知らない。だが、そんなに簡単に行ける場所ではないと思うが…』
『この場所からの距離を考えると流石に違うと思うよ。とりあえず転移した先に何があるかわからないからみんな気をつけて。』
アルクスが龍気を注ぐと足元の魔法陣に光が灯り、輝き始めた。
一面が真っ白になり、視界が光に飲み込まれた。
アルクス達が目を開くとそこは海底洞窟とは明らかに別の場所だった。
『ここは…』
『頭の上に海がある?』
『でも息ができるよ?』
『海の底には違いなさそうだな。』
『綺麗...』
アルクス達は転移すると海に囲まれた空間に佇んでいた。
見えない壁を隔てた外側には魚が泳いでいるのが見てとれた。
足元は海の底の砂だが、濡れていなかった。
『あっちの方から進めそうだよ!こんな海の底だけど息ができるってことは誰かいるのかな?』
『そうだね、誰かいるんじゃないかな。話の通じる好意的な相手だと良いけど…』
『どうやらここは龍脈が流れているみたいだし、誰が来たとしても返り討ちにしてやるさ!』
『先に手を出さないでね…』
アルクス達が進んで行くと、徐々に巨大な建造物が姿を現した。
『これってお城かな?』
『壁に守られた街かもよ。』
『こんなところで襲ってくるなんて、魚の魔獣とか?』
『あっちの方に門がある、向かってみよう。』
門の前に辿り着くも門は閉まっていた。
他に周囲に人や生き物の気配はしなかった。
『門番もいないのか。』
『外に出る必要がないのかも?』
『中に入れるか門を叩いて聞いてみようか。』
するとアルクスは門を叩き、大きな声で叫んだ。
『すいませーん、開けてもらえますかー!』
アルクスが急に大きな声を出したことで皆面を食らっていた。
『大きな声を出すなら言ってよ!』
『アルクス、そんなでかい声出るんだな…』
『コツは龍気を喉と腹に集めることかな。』
『誰だー、門の外になんかでた奴はー』
急に門が開いたかと思うと中から二足歩行をする魚が出てきた。
アルクス達はその異様に面を食らい固まってしまった。
魚の方も珍しい物を見たかのように驚いて固まってしまった。
『おいおい、人族がいるぞー。誰かー、衛兵呼んできてくれー』
魚が緊迫感がない声だったものの、兵を呼んだことでアルクス達は警戒感を高めた。
すると海老や蟹の様な武装している様にも見える2本足で歩く甲殻類達が現れた。
『人がいるって聞いてきたんだが、何かの見間違えじゃないかに?』
『その喋り方やめろって。そもそも人なんて見たことないだろ?』
『いやー、こいつら人族だろー。おいら聞いたことあるぞー。』
『たしかに海の中では見たことがないやつらじゃないかに?』
『確かに柔らかそうなやつらだな。とりあえず奥に連れてって話を聞くとするか。』
アルクス達は急に襲われることもないだろうと思い警戒感を緩めたが、やはり異様な姿を見て自分達の常識が少しずつ崩れ落ちていくのを感じていた。
『魚と海老と蟹が連邦語を喋ってる…』
『お前達言葉がわかるのかに?それなら良かったのかに?』
『じゃあ、ついてこい!悪いようにはしないって。』
『頼んだぞー』
アルクス達は門を通された後、海老と蟹に連れられて魚達の街の奥へと連れて行かれた。
街中には他にも多くの魚やそれ以外の魚介類が2足歩行で歩いていた。
人と同じ形をしているためか、家や建物の形はなんとなく見たことがある様な形状をしていた。
『あの、これからどこへ向かうのでしょうか?』
『知りたいかに?どこにいくのかに?』
『困ってるだろ!ここで一番賢い方に話を聞いてもらうんだよ。俺達は人のことなんてよくわからないからな。』
とりあえずはすぐに敵対する様子もないため、落ち着いて進むことにする。
スペルビアにも何かをされる前に先に手を出すことはないように何度も話してあるので、大丈夫だと信じていた。
そして、宮殿とでも言える様な場所に連れて行かれると少し広めの間へと通された。
『門のところにいた人族を連れてきたかに?』
『なんでいつも疑問系なんだって。ここに来るまで特に抵抗などはされませんでした。
あと私達と同じ言葉を使うため、会話は可能です。それではよろしくお願いします!』
海老と蟹はアルクス達を受け渡すと部屋から出て行ってしまった。
2人から受け渡された先にいたのは2足歩行する烏賊と蛸であった。
『海底王国へよくぞいらっしゃった、人族の客人よ。』
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