第82話 休日
アリシアはアルクスと街を散策するのかと皆に思われていたが、メルドゥース商会が帝国へ進出するための足がかりを探すと言ってバルトロと情報収集へ向かってしまった。
『アルクスは最近ずっと忙しそうにしていたし、たまにはのんびりしていて!』
『そうだな、何でもかんでもアルクスに任せてばっかりだっからたまには何もしない時間も重要だ。本当はスペルビアと街を散策したいのだが...』
バルトロはスペルビアと街を巡りたそうにしていたが、アリシアに引きずられて行ってしまった。
『じゃあ私達も行きましょう!』
『あぁ、そうだな。』
クリオはスペルビアに人の街の常識を教えると張り切っていた。
スペルビアも人の生活に疎かったため、クリオから教わろうと真剣な様子だった。
だがクリオも大森林育ちでまだまだの普通の街には明るくないため、アルクスは2人だけで大丈夫か少し心配になった。
『あれ、残ったのは僕だけか。』
皆と別行動になり急に1人になってしまったアルクス。
1人になるのは久しぶりなので、たまには何も考えずに街を散策するのも良いかと思い、街中を歩き始めた。
街中の様々な店を眺めながらふと目に付いたのは少し古びた本屋だった。帝国の書物に興味をそそられて店内へと足を進める。
『いらっしゃい。』
無愛想な初老の男性が店主らしく、他の客の気配はほとんどなかった。
書棚を見ると歴史、地理、文化、調合などきれいに整理されていて、店主の几帳面さが表れていた。
アルクスは軽く目次を確認して、興味を持った本を積んでいった。
料理のレシピが記載された本を見つけると中には以前『雷吼狼牙』に教わった帝国料理などが載っていて、アルクスは懐かしく思った。
帝国語を勉強していて良かったと思いながら大量の本を購入すると店主は呆然とした表情をしていた。
『本が好きなんだな...これも持って行くといい。』
『これは何の本ですか?』
『帝国に伝わる様々な伝説が纏められている本だ。誰も信じていないような話ばかりだが、本好きなら楽しめるだろう。いっぱい本を買ってくれた礼みたいなもんだ。』
店主に感謝して大量の本を龍珠の中にしまいこむと再度唖然とした顔をされた。
アルクスは小腹が空いたため、露天で揚げた肉をパンではさんだものを買って食べながらこの後のことを考えていた。
『油がくどくなくて食べやすいな...』
するとアルクスの目にデストールの教会が入ってきた。
『教会か。デストールの教会は初めてだし、行ってみるか。』
教会へ行くと教会には似合わない暑苦しい男達の声が聞こえてきた。
『ふんっ、はっ、そりゃ!』
そこでは、教会が似合わない様々な人種の屈強な男達が武器を手に鍛錬を繰り広げていた。
その光景を目にしたアルクスは王都のゲネシスにある父が司教を務める
教会を思い出した。
『そうだ、力こそ全てを解決する!破壊神様は破壊の後に新たな創造があるとおっしゃっている。まず第一に破壊ありきだ!』
『『はいっ!』』
『破壊のためには力をつけるんだ!たゆまぬ努力を破壊神様は見ていてくださるぞ!』
『『はいっ!』』
デストールの面々は破壊神を信奉するだけあって、その名に恥じぬ教義であった。ゲネシスの修行僧達とやっていることは同じでも、考え方が違いそうだとアルクスが考えていると筋骨隆々の1人の男が近づいてきた。
『君はデストールの信徒かい?もしくはデストールへ興味を持ったのかな?皆破壊神様よりも一族の英雄を信奉しているから、もう少し破壊神様の威光を広げたくてね。』
『いえ、僕は旅の途中でして。それに不授なので皆さんと一緒にいるのは難しいかと思います...』
『ハッハッハッ、不授かどうかなんてデストールでは関係ないよ。力こそ全てだ!ラピスを授かっているかどうかではなくて、どれだけ持って生まれた力を使いこなしているかどうかが重要だ。どれ、君の力を見てあげよう!』
突然表れた男に戸惑っているとアルクスは訓練中の男達の中へと連れられていった。
『あっ、神父様!』
『やぁ、皆鍛錬頑張っているかい?ちょっとこの少年の力を見てあげてくれないかな?』
『では私が!』
『アウデか、良いだろう!』
神父と呼ばれた男に負けず劣らず筋肉質な男アウデがずずいと前に出てきた。
『少年よ、少し筋肉が足りないのではないか?だが破壊神様を崇め、鍛錬を続ければ我々の様な破壊のための肉体を身につけられるはずだ!
ではその力をとくと味わってみるが良い!』
『君、何か得物はあるかい?あぁ、それを使うのか。
じゃあどちらかが気絶するか降参するまで。
致命傷となるような攻撃はしないよううにね。』
アウデは巨大な大剣を両手で持ち、まさに力自慢といった姿であった。
『それでは始め!』
開始の合図と共にアウデは急激に速度を上げて突進してきた。
『ふっ、見た目の割に素早いと思ったかな。だがこれも全て力のためだよ!』
アウデはそう言うとそのまま切りつけてくることなく、頭上に高く跳躍した。
『これがデストールの力だ!炎よ、我が剣に宿れ!』
アウデは両手で大剣を振りかぶり、そして剣に炎を宿して地面に向けて振り下ろした。
アルクスは軽やかにかわしたものの、剣を叩きつけられた地面には大きな抉られた後が出来上がっていた。
『どうだい、降参するなら今のうちだよ!』
アウデはキラリと光る白い歯を見せながら、にこやかに降伏勧告をしてきた。
『当たらなければどうということはないですよ!』
アルクスは隙だらけのアウデに向かって闘気のみを込めて切りかかった。
手数で攻めれば強力な一撃は打てないだろうという判断のもと、積極的に攻め込んだ。
『な、なかなかやるなっ!だが、軽いっ!』
アウデが気合いを込めると全身から衝撃が迸る。
『うわっ...』
周囲で見ていた信徒達が アウデが発した衝撃波を受けて避難した。
『アウデ、闘気解放は気をつけなさい!少年は大丈夫か!?』
衝撃波で巻き起こった砂埃で視界が遮られていた中、皆はアルクスが目の前で衝撃を受けて気絶していると思い込んでいた。
砂埃が消えて、視界が開けた瞬間アルクスがいた場所には誰もいなかった。
『いない!?どこへ消えた!!?』
『ここです!』
アウデが周囲を見回した瞬間、先程のアウデと同様に頭上から切りかかったアルクス。
瞬時の判断でアウデは大剣を構えたが、勢いと闘気を込めた一撃を叩きつけられてポキっと2つに折れてしまった。
『剣が折れては戦えないな、降参だ。』
アウデの降参の一声とともに周囲の信徒達から歓声があがった!
『少年、素晴らしい力だ!そう言えば君の名前を聞いてなかったね。
良ければ君のような強者にデストールに加わって欲しいところだけど。』
『僕の名前はアルクスと言います。申し訳ないですが、旅の途中ですので。ところでアウデさんが使っていた闘気解放とはなんでしょうか?』
『おや、君は闘気を使うのに闘気解放を知らないのかい?闘気を全身に張り巡らすのではなく、体の中心に闘気をグッと集めて、急激に全身に行き渡らせる方法だよ。その際に普段よりも力は出るし、余波として衝撃波が周囲に広がるからいざという時におすすめだけど、その反面ではあるのだけ後でとても疲れるから使い所は気をつけないといけないんだ。』
『こんな感じですか?』
アルクスは神父に言われた通りに闘気を集めて解き放った。
その際、先程のアウデ以上の衝撃波が広がり周囲の人々は皆倒れてしまった。
『驚いたな、闘気解放は初めてなんだよね。素晴らしい才能だ!』
『確かに力がいつもより強くなった気がします…』
『うん、確かに成功しているね。これならいつでも闘気解放ができそうだ。』
神父は皆に向かって声を張り上げた。
『彼は不授だそうだが、努力さえすればこれだけ強くなれるという証明をしてくれた!
皆もこの少年アルクスに拍手を!さぁ、鍛錬を続けよう!』
『『はいっ!』』
結果としてアルクスはデストールの信徒の意気を上げるための起爆剤として使われた形になった。
『残念だけど、助かったよ。皆の意識を高め続けるのはなかなか難しいからね。』
『あの、すみません…』
神父に労われていると、1人の年の近いであろう少女が近くにやってきた。
『私のような力の強くない女でもあんな風に強くなることはできるのでしょうか?』
神父に視線で促されたので答えることにした。
『もちろんだよ。僕の仲間にも女の子はいるけど、闘気を扱えるようになってからはとても強くなったからね。どういう風に強くなるかは人それぞれだけど、自分に何が向いているかをよく考えて基本を疎かにせずに訓練を続ければ絶対に強くなれるさ!』
『ありがとうございます!』
少女は礼を言うと足早に去り、鍛錬の中に入っていく様子だった。
『アルクス君、ありがとう。あの子も特別な力があるのだけど、破壊に繋がる力ではないからこの国ではなかなか評価されなくてね。これをきっかけにまた頑張ってくれると良いのだけど。』
『そうだったんですね。でも諦めずに頑張っていればきっと良いことがありますよ。
では失礼します!』
『おっと、その前にこれを。』
神父は小さなメダルをアルクスに1枚渡した。
『これがあればデストールの教会であれば色々便宜を図ってくれるよ。困ったらこれを見せると良い。』
『ありがとうございます!』
こうしてアルクスに休日は終了した。
普段よりも疲れた様な気がしたものの、充実感に満ち溢れていて良い1日だった。
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