第70話 兄妹
アルクスとクリオが海に落ちた後、アリシアとバルトロは船員達と協力して何とかクラーケンを撃退した。
『クラーケンに出会って、生き残ることができるとはな。だが犠牲は大きかったか…』
船長は一連の出来事による被害を抑えられたこと、そしてクラーケンの撃退に貢献した2人の若人が海に落ち救うことができなかったと言う事実に歯噛みしていた。
そんな中、船員達は徐々に混乱から立ち直り、航海のための業務へと戻っていた。
『アルクスとクリオなら大丈夫ですよ。きっとどこかの島に流れ着いて、アウレアンまでやって来ます。』
『そうか、だが辛いことを言うかもしれないがどこかで諦めるということも必要だ。もし困ったらここへ来なさい。君達は命の恩人だよ、できるだけ報いたい。』
船長はバルトロに自分達の所属する商会への紹介状を渡した。
バルトロ達は仲間が海に落ち助けられなかったという現実を受け入れられないのではないか、もし現実を受け入れた時に生きる目標を恩人である若人に与えてやらねばならないという使命感に燃えていた。
「アルクスゥ…」
「アリシア何を泣いてるんだ?クリオはともかくアルクスが生きているのはわかるだろ。」
龍装鎧が強化されてから、意識すれば仲間の状況をある程度は感知できるようになっていた。
とは言え無事か、瀕死か、死んでしまったかくらいしかわからないらしいが。
その後2人を乗せた船は既に見えていた島へと順調に航路を進め、連邦と帝国の間にある中立国である島国アウレアンの港町へと辿り着いた。
港町に着くと商人達は積荷を下ろし、早速商談へと入るために忙しそうに指示をして回っていた。
『クラーケンが出たんだよ!俺はあの異様な姿を見た瞬間に死を覚悟したね。
だけどたまたま船に乗ってた探索者の若者が撃退してくれたんだ。だが2人は海に落ちてしまってな…』
クラーケンに出会って無事に生き残り港まで辿り着いたと言うことで船乗り達はまだ仕事があると言うのに同業の仲間達に話をして廻っていた。
死を覚悟する恐怖と奇跡の様な生還により、興奮しているのであろう。
船長にどやされて仕事に戻るも、次に他の船員が話を始めるといった状況でしばらくは続きそうだった。
商人達はエルダートレントの材木やアルクス達が狩った魔獣の素材などを中心に交渉が行っていた。
普段市場に出てこない素材が多かったらしく、言い値に近い高値で捌けそうだと言っていた。
アウレアンは流通が盛んではあるが、この島では貴重な素材などはあまり獲得することができないらしいため、船で持ち込まれる素材の需要と供給を見極める目が非常に重要らしかった。
今回のクラーケン事件で連邦側への航路はクラーケンとの遭遇を避けるために見直される様になったらしい。
逆に帝国への航路に関しては直近大きな問題が起きていないらしく、帝国に行きたくなったらいつでもここの事務所に連絡してくれと商会の支店を商会してもらった。
「帝国に行く船はなんとかなりそうだな。あとはアルクスが来るのを待つとするか。
だが、どれだけかかるもんかな…」
今後の目処はあっさりとたったものの、肝心のアルクスがおらずアリシアとバルトロはしばらくアウレアンに滞在するための活動方針を考えることにした。
ほとんどの路銀をアルクスが管理していたために無一文になるかと困っていたが、素材や材木が売れたことで売上の一部を取っておいて欲しいと商人から受け取っていた。
なんでも金は好きだが、1人だけ儲けるのは良くないらしい。
商いに関わった皆が幸せにならないと続かないというのが商人の考えだった。
「この島は探索者協会も無いみたいだし、魔獣も出ないんだろうな。
アリシアは何かしたいことあるか?」
「アルクスが戻って来た時に備えて情報収集しておかないと。クリオばっかり良い思いをさせない!」
アリシアは仕方がないとは言えクリオがアルクスを独占している状況をよしとしてはいなかった。
情報収集にあたってこの島と帝国の情報を集めようとしていたところ、1人の眼鏡をした学者風の男が近づいてきた。
『もしかして、貴方達は探索者でしょうか?この島には探索者協会がないから探索者の方に依頼するのが難しくて…』
『えぇ、そうですよ。何かお困り事でも?』
話を聞くと男はこの島を中心とした歴史を調べている学者だと言う。
この島には古代からの遺跡があると言われていて、遺跡の奥には強大な魔獣が潜んでいると言う伝説があるらしかった。
『この島は魔獣が出ないと聞いていますが、その遺跡には魔獣がいるというのですか?』
『はい、遥か昔の書物にその断片が記載されているだけではあるのですが。しかしながらその遺跡を探してもどうにも辿り着けず。島の奥には不思議な場所があり、真っ直ぐに進んでいくと気付いたら島の別の場所に出ているのです。奥には魔獣がいるのではないかと不安がる者もいるのですが、危ないから子どもに近付かせないための物語として作られた存在だという者もいます。
そのため街から離れた山奥のため島民はあえて近付くこともせず、今まで島に問題が起きたこともないためそのままにされています。
この島には探索者協会がなく、常駐している探索者がいないので積極的に調べに行く人もおりません。
ですが、稀に島の外からやってきた好奇心旺盛な探索者が島の奥へ向かうこともあります。
中には希少な物を持ち帰る者もいたりしますが、そのまま帰ってこない者も多いです。
それも死んでいるのか、どこか別の場所へ降り立ったのかは定かではないのです。』
『なんだか大森林みたいだな。』
『そうだね、アルクスがいればすぐに分かりそうだけど。』
『同じ様な場所をご存知なのですか!?もし腕に自信がおありであれば、島の調査にご協力いただけないでしょうか。もちろん謝礼は致します。』
『おじさん帝国にも詳しい?この後帝国に向かう予定だから色々情報を知りたくて。』
『おいおい姉ちゃん、やめときな。島の奥には龍神様がいるって言われてるんだ。
俺達に何の利益もないただの神なんかと違う、俺達を守って下さっている神様だ!
近寄ってお怒りにでもなったらどうしてくれるんだ。』
男と2人の会話に島民らしき男が割り込んできた。
『どういうこと?』
『あぁ、この島には何故かラピスを持った子どもが生まれなく、神の加護を得られないと言われている。
だがその代わりに人々は強靭な肉体を持ち、海を渡り日々の糧を得ているのだ。
そのため、ラピスとは違う龍神の加護を授かっているとこの国の人々は信じている。』
『龍脈が流れているみたいだし、龍気の影響かな?』
『あぁ、多分そうだろうな。』
『ん、何か言ったか?
もし受けてくれるのであれば別に依頼をしたもう一組の探索者達と共に調査をお願いしたい。』
『わかりました。受けましょう。』
『ありがとう。では明日の朝、この場所に来てもらえるだろうか。』
学者風の男は場所を明記した紙を渡して、去っていった。
『けっ、どうなっても知らねぇぞ…!』
島民の男は説得しても無駄だと思ったのか出ていってしまった。
『じゃあ俺達も準備のために買い出しに行くか。』
その日は翌日の準備で一日が過ぎた。
その夜
『兄さん、アルクス達今どうしているかな。』
『どこかの島にでも辿り着いて筏でも作ってるんじゃないか?』
『アルクスならもっとすごいことしていそうな気がするけど。早く会いたいなぁ…』
『2人きりで親密になったクリオに取られてるかもな。』
『なんでそんなこと言うの!兄さんなんて嫌い!』
バルトロは冗談のつもりで言ったのだが、それはアリシアには伝わらなかったため不貞腐れて寝てしまった。
『妹とは言え、女心というのは難しいな…』
翌朝、指定の場所へ行くと学者の男ともう一組の探索者らしき集団がいた。
『来てくれてありがとう。紹介しよう、一緒に調査に行ってもらう探索者『雷吼狼牙』の面々だ。』
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