第69話 転移
封印の修復も完了し、道中の崩落も直して神殿の白狼が待つ場所へと戻った。
『アルクスとクリオ、精霊達、そしてアーラ様。封印を修復いただきありがとうございました。
私とトルスだけでは難しかったでしょう。本当に助かりました。』
『今まではこういったことはなかったのでしょうか?』
『そうですね、遺跡に人がいた頃には起きなかったですね。
人がいなくなり、手入れをせずに放置していたが故に起きたのでしょう。
今後は100年に一度くらいは整備したいと思います。』
流石に生きている時間が長いだけあって、時間の考え方が全然違った。
『さて、お礼と言ってはなんですが、アウレアンへの転移だけでは私の気が収まりませんので、我が眷属との契約などいかがでしょうか。』
白狼がそう言うと腹の下からもぞもぞと出てくる狼がいた。
『この子はトニー。やっと一人前になったと言えるのですが、まだまだ外の世界のことを知らないので召喚術で連れ回していただけますと。』
トニーは返事をするかの様に雄叫びを上げた。
トルスとは違い、完全に実態のある白い狼の様子だが、若干放電している様にも見えた。
『この電気は、トニーの力でしょうか?』
『はい、この子はまだ守護獣ではなく魔獣なのですが纏開の魔術が得意なため雷を纏っていることが多いです。』
『あの、すいません。守護獣と魔獣って明確な違いがあるのでしょうか?』
『ラピスが宿り魔術を使う獣が魔獣なのはご存知ですね?魔獣の中でラピスを使いこなしたものは魔獣とは呼ばれなくなります。その中で龍王様に認められ龍脈を守っている者達を守護獣と私達は呼んでおります。
他にも神に仕えている者や魔王に仕えている者など様々ではあります。』
『魔獣とは獣が力を得たものではなかったのでしょうか?それにラピスを使いこなすとは一体…
魔王の封印はそろそろ解けるのではないかと王国にいた頃に学園で教わったことがありますが、その者達は今はどうしているのでしょうか。』
魔獣にラピスが宿っているなんて聞いたことはなかった。
獣ですら神々からラピスを授かるということは人と獣に違いなんてないのだろうか。
魔獣よりも不授の人間の方が神からの加護を受けていないという事実を知ったら不授の人々、アリシアやバルトロ兄さん達はどう感じるのだろう…
『おそらく考えていることだとは思いますが、人と獣に違いはありません。等しく皆この世界に生きている命です。不授の人間がラピスを得るということが無いように、獣が魔獣になることはありません。魔獣は生まれた時から魔獣なのです。逆に不授の魔獣が獣と言った方が伝わりやすいかもしれませんね。
ラピスを使いこなすということ、それはハイエルフを目指しているクリオが成すべきことでしょう。
それがどういうことなのかはその時になればわかりますが、私はラピスを使いこなしたから守護獣になることができました。クリオにもその時がくることを願っております。
あとは魔王の封印でしたね。それはこれから残りの龍王様にお会いしていけば自ずとわかりますよ。
あまり具体的なことを教えられず、申し訳ありません。』
自分が不授になってからはラピスのことを意識することはなくなってしまったが、皆がラピスを授かっていることには明かされていない秘密が多い気がする。
魔獣がラピスを所持しているという事実もそうだし、ラピスを使いこなした先にあるものとは一体…
魔王と龍王様に何か関係ということはこの旅の先でもしかしたら魔王に会うことがあるというのだろうか。
白狼の回答により思考の海へと沈んでしまっていたが、クリオが頭を小突いてきた。
『アルクス、また考え込んでるのね。私はハイエルフになるための道が間違っていないってことに安心したわ、まずは魔術を極める!』
白狼の言葉に今自分が目指している方向が間違っていないという後押しをもらった気分になったのか、クリオの表情は珍しく自信に満ちていた。
『いきなり言われても難しいことも多いですよね。あとはその武器を貸していただけますでしょうか。』
手に持っていたグレイヴを白狼へと渡した。
『闘玉が埋め込まれた良い武器ではありますが、まだ普通の武器ですね。
アルクス、貴方の成長に併せて装備も成長していく必要があります。
防具の方は龍装鎧を所持している様子なので問題ありませんが、武器に少し手を加えさせていただきますね。
龍王様の加護には劣りますが、この私白狼の加護を与えましょう。』
白狼はそう言うと自分の牙を折り、グレイヴと重ね合わせた。
グレイヴと牙から光が溢れて、グレイヴの中へと牙が沈んで行く様に溶けていった。
そして光の形が変わると共に光は消え、そこには新たな武器が生まれていた。
そこには2つの牙の様な刃がついた双刃刀があり、刃の部分には白狼らしき狼の紋章が刻まれていた。
『双牙刃とでも名付けましょうか。この武器は龍装鎧とは少し異なりますが、龍気を扱っていけば貴方次第で成長しますし、龍気をこめれば貴方の思いに合わせて形を変えるかもしれません。今まで以上に多彩な攻撃ができると思いますので色々と試してみてください。』
思いがけずとても素晴らしい武器をいただいてしまった。
『ありがとうございます!必ずや立派な武器へと育ててみせます。』
『代わりに願いと言ってはなんですが、遺跡に潜る前にここ一帯の神殿がいくつか壊れてしまったという話をしましたよね。
いつかはドワーフの職人の方々に依頼して他の神殿を直してもらおうとも思っていたのですが、私はずっとここにいるため、ドワーフの方々とお会いする機会がありません。
そこで世界中を旅しているアルクス達がドワーフの方々と知り合い、もしここで修理に取り組んでも良いと言う方がいらっしゃいましたら連れてきていただけないでしょうか。』
『わかりました、いつとはお約束できませんがいつか必ずドワーフの方に修理を協力していただける様にお願いします。』
『その言葉だけでも嬉しいです。ありがとうございます。』
『ところで、封印が健在な場合はこの島にはどうやったら入ることができますでしょうか。』
『そうですね、今回は封印の綻びから勝手に入ることができましたが、普段外から入る時は封印の境まで来て龍脈の力を使っていただければ中にることができるでしょう。
さて、ではそろそろアウレアンへと送りましょうか。
アウレアンに着きましたら港から帝国へと向かうのではなく、まずは島の中央を目指して下さい。
転移先は港ではなく、中央付近の遺跡になります。』
『わかりました。いずれまたドワーフの匠を連れてここに来たいと思います。』
白狼が力を込めると徐々に足元が光り始めた。
『あの方達を頼みます…』
『え、なんでしょうか?』
白狼が最後に何かを頼むと言っていたが、よく聞き取ることができないまま、視界が光りに染まって行った。
『トルス、久しぶりに賑やかで楽しい時間でしたね。』
別れの挨拶とでも言わんばかりのトルスの雄叫びが島中に響き渡った。
『ここは…?』
気がつくと、忘れられた遺跡らしき場所に立っていた。
周囲にはクリオ、アーラ、トニー、そして精霊達が一緒にいた。
『みんなちゃんと転移できたみたいだね。ちゃんと転移できたならここはアウレアンの島だと思うけど。』
遺跡から外へと出ると一本の街道があった。
風から潮の香りがするため海は近くにありそうだった。
『ここを進んでいけば港町へ続いているんじゃない?』
『よし、港町へ行ってアリシアとバルトロ兄さんを探そう!』
2人とも心配しているだろうし、早く会って安心させてあげないと。
それに白狼が言っていたことをちゃんと整理して、今後に備えなくては。
感想、レビュー、ブックマーク、評価を是非ともよろしくお願いします!!




