第47話 偵察
アリシアは最近覚えた気配隠蔽を用いて領主館へと1人偵察に向かった。
領主館に辿り着き、音を立てずに塀に登ると庭には複数のブラッディウルフが徘徊していた。
「街の周りにいないと思ったらここにいたんだ。昼間は魔獣の気配はなかったけど、どこからきたんだろう。」
見渡すと双頭のブラッディウルフも何匹か点在していた。
「メテンプスの拠点なのは間違いなさそう。誰かに見つかると厄介だし、早く領主館の中に入らないと。」
領主館の屋根にそっと飛び移り、上の階の窓から館の中へと忍び込んだ。
「人の気配が全然しない…。何人か寝てる人がいるみたいだけど、それにしても少ない気がする…」
領主館はその大きさの割に人の気配が希薄だった。
「前みたいに上の建物は見せかけだけど、地下に部屋があるのかもしれない。
ちゃんと見つけてアルクスに報告しないと。」
地下室の可能性を考えて一通り領主館の中を調べたものの、特に手がかりを見つけることはできなかった。
「外にブラッディウルフがいるからここが拠点なのは確実なんだけど、手がかりが見つからないなぁ。ここは囮で別に建物があるとか?うーん、この前のメテンプスの建物はどうやって地下に行ったんだったかな…」
記憶を頼りに地下への入り口への入り方を探し始めたところ、魔獣ではなく複数の人の気配を感じ取り、少し離れたところに隠れることにした。
どうやら男達は何か大きな荷物を担いでいる。
それこそ人1人くらい入りそうな大きな袋である。
「あの人達についていけば地下に行けるかも…。もしかしてあの担いでる袋が突然消えた人達なのかな…?」
1人の男が薮の中で何かを触ると地下への扉が開いた。
複数人で荷物を降りていくのが見える。
「やっぱり地下の入り口があった。メルドゥースには地下室なんてなかったけど、メテンプスの人達はなんで地下に部屋を作るのかな…
地下への入り口はわかったけど、どうしよう。せっかくだしもう少し調べておいた方が良いかな…」
自分1人だけでも任せてもらえばこれだけのことができるんだということを証明したいため、アリシアは1人地下へと降りていった。
「この前見たメテンプスの地下室にそっくりだ。やっぱり人間や魔獣で悪い実験をしているのかな…」
いつ戦いになってもいいように龍装鎧を鎧にして、見つからないように気配を消し、音を立てずに進んでいく。
前の時と同じようにどこからか声が聞こえてくるような気がするも、今は自分1人だけなんだと自分に言い聞かせて意識を強く持っていた。
地下室の入り口から続く道を真っ直ぐ進んでいくと扉が開き、光が漏れている部屋があった。
動く人の気配がしないことを確認して中へと入ると見たこともない光景が広がっていた。
「もしかして、これ全部人間?」
円柱状の入れ物に入った不思議な色の液体の中に人間が浮かんでいた。
それも1つではなく、何十本も並んでいて、人族だけではなく、エルフにドワーフ、獣人など様々な人種がそこにはいた。
異様な光景に腰を抜かしそうになり、悲鳴にも似た声が出そうになるも、声を押し殺して誰にも見つからないように身を隠し、近くの部屋に動く人の気配がないかを探る。
液体に浮かんでいる人間達は気配がないものの、数多くの人がいる状況になかなか集中できず、少しばかりの焦りが生まれていた。。
「ふぅ…、この近くには誰もいないかな。」
この部屋の近くにはメテンプスの人間がいないことは分かったが、このまま調査を続けるか一度戻るか難しい状況だった。
「これが消えた不授の人達なのかな。なんか不思議な液体に入っているけど、息をしてるみたいだし、まだ生きているのかな…
助けてあげたいけど1人じゃ無理だから、後でアルクスになんとかしてもらおう。
アルクスならなんとかできるよね…
もう少し調べた方がいいよね、他にも何かあるかもしれないし。」
組織の人間に見つからずに調査を進める方法はないかとアリシアが思案していると、壁の隙間から風が流れているのを感じた。
「風が流れてるってことはこの壁の奥にも通路があるのかな。隠し通路とか?」
風の流れを辿り、壁を調べていると隠し扉があった。
「アルクスがくれた魔道具が役に立った。あんまり明るいと誰かに気付かれちゃうかもしれないし。」
扉を開けて中に入ると人が1人で少し余裕があるくらいの細い通路があった。
「何だか埃っぽいし、誰も使っていないのかな。誰かが来たら鉢合わせちゃうけど、その時はその時でなんとかしよう。とりあえず風が来てるこっちから調べてみようかな。」
しばらく進むと人の話し声が聞こえた。
「ここにも隠し扉がある様子だけど、開いてないしとりあえず何を話しているか聞き出さないと。
聞こえて来る声から3人の男が会話をしている様子だった。
『今回は3人ほど連れてきたぞ。』
『実験用の不授の人間は多くて困ることはないからな。だがあまり連れてきすぎると怪しまれるから気をつけろよ。』
『もう十分怪しまれてますよ。でも誰かがいなくなっても出ていかないなんてよっぽどこの街が暮らしやすいんでしょうね。』
『まぁ仕方ないことだな。他の街での不授の扱いを考えればこの街は奴らにとっては本当に楽園みたいなもんだからな。実際は実験動物だってことがわかったらどんな反応をするか。』
『不授に人工ラピスを植えて、魔術を使えるようにするという発想は面白いんだが、なかなか上手くいかないな。』
『人間では成功例はまだないですね。獣に人工ラピスを植えると魔獣化するのは確認できているのですが、頭が2つになったりちょっとおかしな変化なんですよね。』
人工ラピスという聞き慣れない単語に興味を持ったアリシアはより注意深く聞くことにした。
『人工ラピスに問題があるんじゃないか?魔石ではなくて魔晶石を使ってみたか?』
『そんな貴重な物はない。あったら使っている。』
『そうは言ってもだな、魔石で成功事例がないのであれば別の物で試すしかないだろう?』
『この辺りに源泉でもあれば魔晶石も手に入りやすいんですけどね。確か南の方に死者蘇生に取り組んでいる支部がありましたよね?あそこも上手く行ってないでしょうし、協力を要請してみてはいかがでしょうか。』
『まぁ、このまま失敗が続くよりはマシか。じゃあ連絡を取っておいてくれ。
できたらここに来てもらうのが楽で良いんだが…』
アリシアは南の方の支部がこの前自分達が潰した組織の支部だと気が付いた。
このままだと世話になった村に迷惑がかかるかもしれなく、早く止めないといけないという義憤に駆られて冷静さを失っていた。
思い切り立ち上がり、大きな音を立ててしまった。
『ん、何の音だ?』
『壁の方から音が聞こえた気がするが…』
気付かれたかもしれない。
そう思ったアリシアは急いで通路を走り、元いた部屋から地上へと逃げ出した。
地上へ出ると階段を出た瞬間、そこには多数のブラッディウルフがいた。
「大変、囲まれた。」
侵入者を認識したブラッディウルフ達は一斉にアリシアへと襲いかかった。
龍気が使えるため、一匹ずつ倒していくのは問題ないが、背中を見せたところから襲いかかって来るため、何匹も倒していくと少しずつ疲労が蓄積されていった。
そして異変に気付いたのか階段の下から声が聞こえてきた。
「まずい、逃げないと。でもどうやって…」
アリシアが焦り始めた瞬間アリシアの足元が隆起して空中へと押し出された。
その後、急にどこからか現れた鉄砲水にブラッディウルフ達は流されていった。
『うわ、なんだこの水は…!』
地下からも悲鳴が上がっていた。
空中で姿勢を整え、領主館の外へと弾き出されたアリシアは、きっとアルクスに違いないと思い一度宿へと戻った。
アリシアが宿へ戻るとアルクスが出迎えた。
「アリシアおかえり、大丈夫だった?無事で良かったよ。
とりあえずお湯を作るからゆっくり休んでて。」
アリシアが少し疲れた顔で帰ってきたことに少しだけ驚きを覚える。
フルーとナトゥが力を使ったのはわかったので、何かあったのだろう。
一息ついた後、アリシアは領主館とその地下で見たことを話した。
「やっぱり地下にあったのか。この前と同じだね。」
「あぁ、組織の特徴みたいなものだろう。アルクス、捕まっている不授の人達はどうする?」
「助けてあげたいけど、助けるってことはメテンプスを倒すってことだからこの街はもう機能しなくなりそうだね。
その場合どうすれば良いのかな。」
バルトロ兄さんが地図を取り出したかと思うと現在いる不授の街から少し北を指さした。
「この辺りにも不授やラピスを持っていても力があまりない者達の村があるらしい。こっちに移住してもらうか、もしくはこの街を作り変えるかだな。」
「助けた人達がどう考えるか次第かな。とりあえず救出してから考えようか。
明日の夜に救出に行くから明日の昼に準備をしよう。
あとアリシアありがとう。たった1人で、これだけ情報を集めてこれるなんて。
僕とバルトロ兄さんには無理だよ。
ちょっと危なかったみたいだったけど、フルーとナトゥをつけておいて良かったね。
今度召喚した時、フルーとナトゥにお礼を言っておいてね。」
「うん、あの時は見つかったらどうしようと思って焦っちゃった。
次はもっと余裕を持てるようにするよ。」
アリシアは僕に褒められたことで嬉しそうにしつつも、次は最後まで完遂するという意志が見てとれた。
明日でこの街の滞在も最後になるし、頑張ろう。
仮初とはいえ、不授に暮らしやすい楽園だったから少し残念だけど。
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