第40話 調査
翌日
地図を広げながら今後どうやって進んでいこうかを相談しているとどうやら地図に興味を持ったらしい。
『これは地図かい?』
『連邦全域の地図ですよ。この辺りの詳細な地図とかってありますでしょうか?』
『うーん、北側の街まで行けばあるかもしれないがこの辺りにそういった細かいものはないなぁ。
私らはここから道なりに北上して北側の街に行くくらいしか移動することはないから、方角くらいしか気にしないからな。
この近辺を巡ってくださる商人の方なんかは持っているかもしれないが、頻繁にくるわけではないしなぁ。』
そうか、確かに自分が王都にいた時も王都の外の地図なんて図書館以外では見なかったし、日常生活では必要がないものか。
『そうそう、あと連邦の各地を旅していくのであれば色々な人種の文化の違いを学んでおいた方がいいぞ。王国はこの国と同じように人族が多いんだよな?』
『そうですね、人族がほとんどです。以前仕事で帝国の獣人族の方々と交流がありましたが、特に食文化の違いが大きかったですね。』
『獣人族は連邦にはあまりおらんなぁ。この国は人族が多いが北の街の方に行けば他の種族も多くいる。他の国は人族以外のドワーフやエルフなど文化が全く違う種族で構成されていたりすることが多い。この国にいるやつらは寛容なのが多いが、単一種族でまとまっている国は割と狭量だから気をつけるといい。』
確かに文化の違うところへ飛び込むのであれば事前に学んでから訪れた方が良いな。
バルトロ兄さんとアリシアに今言われたことを伝えると僕はある程度知識もあって学んでいるから大丈夫そうだけど、2人が何かやらかさないかと少し不安そうになっていた。
「とりあえず交渉は僕がするようにするけど、2人も頑張って学んでね。まずは連邦の共通語を覚えないと。」
「「はーい。」」
他にも色々と話を聞いていると、この辺りは外から人が来ることがほとんどなく人族以外がいないため治安は良いらしいが、北の方は寛容とは言え種族間での諍いが起きることがちらほらあるらしい。
『そうそう、そういえば最近北東にある森の奥に怪しい建物を見た人がいたらしい。
あの森は数は少ないとは言え魔獣が出没するから近寄る者はほとんどいないはずなんだが。
あとは近くの村で死者が生き返ったという噂があるらしく、伝説の死者蘇生の組織が現れたんじゃあないかって言われてるよ。』
『死者蘇生の組織ですか?』
『あぁ、<メテンプス>という組織なのだが、最初は死者の埋葬などを中心にしていたのだが途中から最近では禁じられている死者の再生や死者の加工なんかを取り扱い始めた組織で一昔前に消滅したと言われている。
子ども達は悪いことをするとメテンプスに連れてかれるよと言われるくらいは悪名高い組織だな。
何が問題かっていうと死者蘇生なんか上手く行くはずがないのに、失敗すると彷徨う死者となって生前の記憶を元に暗闇の中で徘徊すると言われてるんだ。
きっと森の奥にメテンプスが復活して死者蘇生の失敗作が溢れ出したんだ…』
こう言っては失礼だが、農村の住人にしてはやけに詳しい気がする。
誰かが情報を流しているのだろうか。
『ところでそのお話ってどなたから聞いたのでしょうか?』
『あぁ、この辺りを回っている行商人の方だよ。少し離れた他の村の話とかをしてくれるんでいつも色々助かってるよ。
今のところ誰かが殺されたとかいうような被害はないが、他の村では家畜が襲われることもあったらしい。』
『この辺りで被害にあった方はいないのでしょうか?
あと、皆さん魔術は使えるかと思うのですが、いざという時に備えて戦う準備はしているのでしょうか?』
『いやー、この辺りはまだ無事だよ。
あと俺達は農業のために身体強化をしたり、水を流したり土をいじる魔術くらいしか使えないから、戦いには向いていないんだ。
魔獣とかもたまに狩れるのも身体強化して引いた弓がたまたま当たった時くらいだしな。』
なるほど。具体的な被害はないものの噂で不安を煽っているのだろうか。
もしかしたらこれから不安に乗じた商売などでも展開するのだろうか。
とりあえず一宿一飯の恩もあるし、不安を払うくらいしても良いか。
「世話になったことだし、調査を請け負おうと思うのだけどどうかな。」
「あぁ、いいんじゃないかな。異国の地とは言え、礼には礼を持って接するべきだな。」
「そうね、急ぎの用事があるわけではないし、色々経験しておいて損はないと思う。」
バルトロ兄さんとアリシアの2人からも快諾してもらえた。
『あの、世話になったお礼ではないですが、僕らが調査しますよ。
探索者としてそれなりに戦えますし、よっぽどのことがない限り大丈夫だと思います。』
『本当ですか!皆見えない不安が増えてきて、そのうちなんとかしないといけないと思っていたんですよ。助かります!』
感謝され、その日の晩から3人で交代で夜の張り込みをすることにした。
数日経っても何も起きないので、森の奥まで調査しに行こうかという話になり始めた日の夜、ちょうど暗闇の中に彷徨う何かが現れた。
注意深く観察しているもただウロウロとしているだけで、作物を荒らそうとしたり家畜に襲いかかったりといったことをする様子はなく、来た道を戻り始めていた。
「アルクス、あれどうしようか?」
「そうだね、倒せるかわからないし、どこまで行くのか追いかけて元凶を調べるのが良いんじゃないかな?」
「ずっと待っているだけで退屈していたんだ。手っ取り早く元凶を潰してしまいたいな。」
そうして、彷徨う何かの後つけていった。
特に音に反応したりはしなかったので、そこまで気をつけなくてもついていくことができた。
そうして歩いていくと噂の森の前まで辿り着いた。
「アルクス、奥に進んで行くけどどうする?」
「とりあえずこのまま後をつけていこう。月明かりだと真っ暗で見えないけど、光で足元を照らすくらいなら基礎魔術でできるから。」
「悪意がある奴らがいたら見つけてくれと言ってるようなものだが、仕方ないか。」
そうして、森の奥へと進んでいった。
森の中とは言え、出入りする者がいるのか最低限の道があったため、そこを進んでいくことにした。
道中で夜行性の小型魔獣が出てくるも、大した強さではなかったので問題はなかった。
ただ暗闇でも視界に影響がないのか、急所を狙って来るのが少し面倒だった。
「あんまり強い魔獣はいないのね。」
「まだ森の入り口に近いし、強い魔獣がいるとしたら奥の方なのが相場じゃないかな。」
「どうやらあそこが目的地みたいだぞ?」
バルトロ兄さんの指摘で森の中にぽっかりとできた広い空間が目の前に広がっていた。
先程のやつ以外にも複数の亡者らしきものがうろうろとしていた。
「やっぱりあれは死者なのかな?」
「死者蘇生に挑戦して失敗した記録は歴史上数多くあったみたいだけど、失敗して動き出したっていう話は知らないな。
でも強い魔獣の中には死んだ後もしばらくすると動き出してより強くなることがあるって言われているから、人族がそうなってもおかしくわないと思う。」
「とりあえず倒してしまって良いだろうか。」
「そうだね、何をしてくるかわからないから気をつけて1体ずつ倒していこう。」
そうして、1体ずつ斬りつけていくと、特に抵抗もせずにそのまま崩れていった。
動かなくなったそいつらの表情は心なしか嬉しそうに見えた。
「この人達はいったいなんなんだろうね。」
「そうだね、抵抗もしないしいったい何の為にいたんだろう?」
一通り倒してしまうとそれ以降は彷徨う亡者は現れなくなった。
「とりあえず埋葬は後にしようか。噂では森の奥に怪しい建物があるって話だったけど、このあたりかな。」
周囲を見て回っているとバルトロ兄さんが奥に怪しい建物を見つけてきた。
「噂通り過ぎてちょっと困るね。」
「中に誰かいるかもしれないし、気づかれないようにそーっと入りましょ。」
「音を立てないのは苦手だな…」
誰がいるかもわからないので、見つからないように慎重に忍び込んだ。
玄関の中はガラーんとしていて、人影は見当たらなかった。
「埃も溜まっていないし、誰かがここに出入りしていることは確かかな。」
アリシアが部屋の中をくまなく見て回った上での結論らしい。
「奥か、もしくは地下室があるのか。慎重に探してみよう。」
一部屋ずつ調べながら進むも怪しいものは何も見当たらなかった。
だがやはり埃もなく手入れされているという状況はよくわかった。
「結構大人数がいるのかもね。」
「でもこんな夜中に寝てないってことは何をしているんだろう?」
「怪しい組織なら何か儀式でもやってるんじゃないか?」
「悪魔に供物を捧げるとか?」
「それはそれで見てみたい気もするなぁ。」
調査中だというのに緊張感がなくなってきた。
このままだといざという時に失敗するのではないかと少し不安な気持ちになったが、2人も気を引き締めるよう伝え奥へと向かった。
「ここで行き止まりだけど誰もいなかったね。」
「怪しい組織だとしたら、地上は囮で地下が本命とか。」
「こんな森の中に綺麗な建物があったらおかしいよね。」
何も組織の痕跡が見当たらずに困っていると、急にバルトロ兄さんが倒れ込んだ。
「バルトロ兄さん大丈夫?」
「地面の下から音がする。」
そう言われて地面に耳をつけてみると、確かに何かの音がする。
「やっぱり地下が本命か。」
「でも入口はどこにあるんだろう?」
「あえて外に作ってあるとか?」
「ちょっと見てみようか。」
アリシアの直感に従い、建物の外を探してみる。
「おーい、なんかこの辺りが怪しいんだが。」
バルトロ兄さんが見つけたあたりは明らかに地面と地面の間に溝があり、ここに入り口がありますよと示されていた。
「わかりやすいけど、この暗闇の中だと普段は気づかないか。」
「ここだけ月明かりが照らされていて、わかりやすかったね。」
「とりあえず中に入ってみよう。いつ戦いになるかわからないから、備えておいて。あとはこの辺りは龍脈が通っていないから龍気は使えないものと思った方が良いから。」
2人が頷くのを確認して、地下室への階段を降っていった。
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