第36話 契約
「それでは龍術の説明の前に応用魔術の三大系統はご存知でしょうか?」
なんだか学園時代を思い出すな。
「射撃・付与・設置の3系統です。」
「はい、そうです。アルクス様はどの系統でしたでしょうか?」
「僕はラピスが覚醒する前に不授になってしまったので、そこまではわからなかったです…」
そういうとポルトゥルムさんは考え込む素振りを見せた。
「おかしいですね、以前は一番最初に得意系統を見出して、その修練をしていたかと思ったのですが。時代と共に変わったのでしょうか…
まぁ、良いでしょう。龍術にも3種類の系統があります。
召喚術・空間術・装纏術の3系統です。
召喚術は精霊など契約をした存在を呼び出すことができます。
空間術は龍脈が繋がっている場所であれば転移を行ったり、この龍の試練の間の様に通常とは異なる空間、異空間を作ったりすることができます
装纏術に関しては龍珠の力を上げる必要があるため、いずれその時が来たらわかる時が来るでしょう。」
龍術にも色々な系統があるのか。
やはり人によって得意系統とかあるのかな。
「応用魔術と違い龍術の3系統は特に得意系統などはございません。
使えるか使えないかのどちらかだけです。
さて、では召喚術と空間術の習得に移りましょう。
とは言っても召喚術を行うためにはまずは契約が必要です。
求められる技量・対価が一番少ないのは、精霊との契約になります。
アルクス様は精霊は見えますでしょうか?」
今まで見たこともないのに精霊が見えるかだなんて聞かれてもわからないな。
「精霊を見たことはないです。自分のラピスのことがわかる前に壊れてしまったので属性適性もわからなかったですし…」
ポルトゥルムさんはまた思案顔になった。
「そうですね、そうしましたらまずは精霊の可視化に挑戦してみましょう。
この空間には普段は精霊はいないのですが、ちょうどアルクス様の周りに2体の精霊がいるみたいですので。」
そう言われて周囲を見渡すも何もいない。
見えない存在がいるということは存外怖いことである。
「精霊の可視化をするには龍脈の力を目に集中させることです。」
言われた通りに目に力を集中してみる。
ポルトゥルムさんの周囲や自分の体から何かが流れ出ているのが見える。
そして、青と黄の光を放つふわふわとしたものが宙に浮かんでいた。
「僕とポルトゥルムさんから白い光が少し流れ出ているのが見えます。あと宙に青と黄の光が浮かんで見えます。これが精霊でしょうか?」
「そうです。一度で成功させるとはやはり見込みがありますね。私達の体から出ているのはウィスです。そしてそちらに浮かんでいるのが精霊になります。
青が水の精霊、黄が土の精霊になります。見たところ、生まれて数年しか経っていない生まれたての精霊ですね。
アルクス様と相性の良い属性は水属性と地属性みたいですね。ラピスの得意属性もどちらかだったことでしょう。」
「あの、得意属性が複数あることってあるのでしょうか?」
ポルトゥルムさんはお決まりの思案顔の後、答えてくれた。
「そうですね、大体最初は1つか2つの相性の良い属性があり、修練の先に新たに得意な属性が増えていくということはございます。アルクス様はその最初の属性が2つだったというだけですね。龍脈の力自体には属性という概念はございませんが、魔術や闘気を使われる際は得意な属性を意識すると成長が早くなります。アルクス様の場合は精霊を召喚し、力を借りて闘気に属性を乗せるというやり方が良いでしょう。
さて、それでは契約の準備を行いましょうか。」
そう言ってポルトゥルムさんは地面に魔法陣を描き始めた。
「こちらが契約の魔法陣になります。今後使うこともままあると思われますので、こちらに写しを用意してあります。水の精霊は私の描いた魔法陣で、土の精霊はアルクス様が描く魔法陣で契約をすることにしましょう。」
魔法陣の描き方を教わり、描いてみた。
「こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「はい、そちらで大丈夫です。契約に当たっては対価が必要なのですが…
ふんふん、なるほど。こちらの2柱の精霊はアルクス様の魔力が欲しいとのことです。
今まで近くで魔力をもらっていてとても美味しかったと。」
ポルトゥルムさんが光の中に顔を突っ込んでいるのを見ていると不思議な気分になる。
「魔力は良いのですが、どうやって精霊と話をしたのですか?」
「あぁ、失敬。私も精霊ですので、精霊とは言葉を交わさずともお互いの考えがわかるのですよ。」
「え、精霊だったのですか?」
「えぇ、龍王様に召喚いただいた精霊になります。こちらの2柱も成長すればいずれ人や獣などの形を取ることもあるでしょう。」
なるほど。龍王様が空間術でこの空間を作り出して、そこに召喚した精霊達が試練を支援しているという仕組みなのか。
龍術が扱えるようになれば、自分にもできる可能性があるってことかな。
「さて、では契約の準備は大丈夫でしょうか?アルクス様の魔力を供物として契約の儀を執り行います。」
ポルトゥルムさんの纏う雰囲気が急に冷たくなる。
「水の精霊よ、この者の恵を糧に新たなる絆を育みたまえ
—契約—」
魔法陣が光り輝き、溢れ出た光が僕と水の精霊を繋いだ。
気怠い感じがして、一瞬で魔力を半分近く持って行かれた気がする。
淡く青い光だった水の精霊に輪郭が生まれたような気がする。
「これで水の精霊との契約は完了です。
では今度はアルクス様が土の精霊との契約を行ってみてください。
詠唱する呪文はこのようになっています。」
ポルトゥルムさんが地面に呪文を書いてくれたので、龍珠に溜まっている力に意識を集中し、魔術を使う感覚で力を込めてみる。
「土の精霊よ、我が恵を糧に新たなる絆を育みたまえ
—契約—」
今度は僕が描いた魔法陣が光り輝き、溢れ出た光が僕と土の精霊を繋いだ。
魔力は完全になくなった気がしたが、淡く黄色い光だった土の精霊にも輪郭が生まれたような気がして意識を失った。
「しまった、これは魔力枯渇ですね。確かに貴方達は数年分は成長しましたね。
一体どれだけ魔力を吸い上げたんですか。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目が覚めるとそこには青と黄色の精霊が浮かんでいた。
「オハヨウ」「オキタヨ」
「あれ、君達喋れたの?」
精霊達が喋ることに驚いたらポルトゥルムさんが現れた。
「アルクス様の魔力を使って成長したのですよ。今までは少しずつ微々たる量を吸っていたみたいですが、それを一気に吸い上げたことで成長したみたいですね。」
「精霊は魔力を吸って成長するのですか?」
「はい、そうです。アルクス様は普段魔術をあまり使わないかと思いますが、魔力量は多いみたいですので、可能な限り魔力を練って、定期的にこの2柱に提供すると良いでしょう。後は名前をつけてあげてください。」
なるほど。
どんな名前が良いかな。
「水の精霊はフルー、土の精霊はナトゥで良いかな。これからよろしく。」
「フルー」
「ナトゥ」
2柱の精霊達は嬉しそうにしていた。
「これで龍脈の力を使うことで、契約した精霊を召喚することができるようになりました。
召喚はこのような魔法陣を描き、龍脈の力を込めて呪文を唱えてください。」
ポルトゥルムさんは地面に描きつつ教えてくれた。
「基本的に精霊達はここ龍の試練の間の外の世界ではなく、精神世界や挟間の世界と呼ばれる世界の住人です。召喚術を使うとそこから呼び出すことになりますが、呼び出した精霊の力を十全に発揮するためには魔力を対価として提供する必要があります。そうすると精霊達もアルクス様の魔力を使って成長しやすくなります。
今後は精霊以外にも龍や聖獣など様々なものと契約が可能ですので、もし機会があり対価が適切であればぜひ契約をしてみてください。」
確かに精霊だけでなく様々な種族と契約ができたら楽しいかもしれない。
契約してもらえる存在になれるように、精進しないと。
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