第120話 天空再び
眩い光に目が眩み、目を開けたティオの目に映ったのは一面の青い空だった。
『一体、何が起きたのですか…?ヒッ…』
自分が空を見上げていたことに気づいたティオが起き上がると、周囲に埋め尽くさんばかりの竜がいた。
『誰かと思えばアルクスではないか。帝国経由でここに人が来るとは珍しいと思った。今は2人だけなのか?』
『はい、色々とありまして。あっ、ティオ起きた?』
アルクスとティオは無事に遺跡からドラコ・レグルスへと到達した。
数多くの竜達に出迎えられ、ティオは緊張のあまり硬直していた。
『彼女はティオ、訳あって今は2人で旅をしています。
ティオ、この方は天空竜様だよ。
そういえばスペルビアが見当たらないですね。こちらに戻っていると思ったのですが…』
『スペルビアだったらつい先日、お前のところへ旅立ったばかりだ。どうやら入れ違いになった様子だな。
真紅龍のところを目指しているのであれば、急ぐ旅でもなかろう。皆にここを旅立ってからの話を聞かせておくれ。スペルビアはあまり話が上手ではないからな。それに少し見ないうちに位階を上げたみたいだし、若い者の相手もしてもらえると嬉しい。』
アルクスとティオは竜達に歓迎された。
アルクスはドラコ・レグルスを出た後、海底王国を経由して中央大陸へと渡り純白龍と漆黒龍に出会ったこと。
王国と帝国の国境で攫われてしまい、アーラ達とはぐれたこと。1人帝都で見た魔人のこと。新たに仲間になったティオと共に真紅龍の居場所を目指していることを話した。
刺激に飢えていた竜達はアルクスの話に真剣に聞き入り、旅をして外の世界を巡るということに興味を抱いていた。
『俺達も自由に外の世界を巡ってみたいな。』
『そういえば外の世界を見てきたスペルビアは以前とは変わっていたな。何だか目が輝いていたよな。』
『憧れる…』
外の世界を旅してきたスペルビアが以前と変わっていたと皆話していた。
一緒に旅をしていたアルクスにはわからなかったが、自分達との旅が良い経験になっていたのであればと思い、嬉しい気持ちになった。
『アルクス、世界の中心へと向かい漆黒龍殿と純白龍殿と出会い、願いは変わったか?』
話が一段落して、天空竜から全てを見透かす様な視線で見つめられたアルクスは真剣な表情で答えた。
『変わりません。純白龍様にも話しましたが、いずれ国を興し、手の届く同じ様な境遇の人達を助けたいと思います。焦っても何も変わらないので、今はまだ力をつける段階だと思っております。
つい先日、帝国で魔人というものに出会いましたが、1体だけ相手をするので精一杯でした…
帝国は魔人を増やして他国への侵略を企てている様子です。
もし、あれが複数いたらと思うと、まだ今の自分では対処しきれません。
以前よりは強くなったつもりでいましたが、驕らずに仲間と力を合わせて、守るべき人達を守れる様に精進します。』
『魔人か…おそらく禁忌とされる魔術を扱っているのであろうな。』
『禁忌、ですか?』
『そうだ、この世界では魔王が扱う特別な魔術を禁忌としている。
とは言ってもそれは人間達だけの間だがな。』
『魔王とは一体何者なのでしょうか。
自分が王国にいた頃は50年に一度封印が解かれると勇者が選ばれて与えられた力で魔王を封印するという話は教わりましたが。』
『何百年も前の話だが、神の下で神を目指して修行を行なっていた者がいた。
だが、過酷な修行により精神が崩壊し、神から見捨てられてしまったらしい。
その者の成れの果てが魔王だ。
という話もあるらしい。
何しろ私達がこの世界に辿り着く以前の話なので、聞いたことがあるというだけだ。
都度封印が解かれても我々に関わってくることはないしな。
その辺りのことはこれから向かう真紅龍殿にでも聞くと良いだろう。
全ての龍に会うことだ。
さすればわかることがあるであろう。』
『そうですね、まだ道の途中でした。
まずは真紅龍様に会いに向かいます。』
『うむ、それが良い。
もし御子達がここへ来ることがあれば、伝えておこう。
そこまで急ぐ旅でもあるまい、島の皆と交流を深めてくれはしないだろうか。
皆下界の話には飢えているからな。
それに道が開くまで数日かかるだろう。』
そうして真紅龍の下へ向かうまでの数日、アルクス達は昼は手合わせと言われて次々に戦いを申し込まれ、夜は今までの冒険の話をする忙しい日々となった。
その頃、真紅龍のもとへと向かうアリシア達は道中にてアルクスの痕跡を辿っていた。
真紅龍のいる場所は竜の顎と呼ばれる現在いる大陸にある帝国南方にあった。
スペルビアから竜の顎に向かうためには大陸中央の山脈にある遺跡を経由して一度ドラコ・レグルスへと渡る必要があると教わったため、一同は街道を南下していた。
帝国の街と街をつなぐ街道の整備が行き届いているため交通の便が良く、行き交う人々も多くいた。
そしてそれは扇動者達にとっても都合が良いらしく、どこの街でも革命を煽る様な声が聞こえてきた。
だが現皇帝の統治が優れているのか、あまり賛同者が多い様には見えず若干焦っている気配も感じられた。
「あの人達どこの街にもいるよね。でも帝国の人達も何か自分達とは違うって感じとっているのかも。」
「ちゃんと観察すれば喋り方や顔つきも違うのがわかる。本当にどうしようもない奴ら以外には響かないんだろうな。」
「王国ではあんな奴らは見かけなかったが裏にどんな組織がいるんだろうな。」
「迷惑なだけだよ。時間の無駄だし早くアルクスのところに行こう!。」
アリシア達は声をかけられることも多く、旅を急ぐ旨を伝えても囲まれそうになることが何度もあったため扇動者達を見かける度に足早に逃げ出す癖がついていた。
竜の山に近づいてきたとある街で「竜の山で一攫千金を!」と盛り上がっている商人達から戦力が心許ないので同行できないかという誘いがあった。
商人達は商人というよりはあまりにもイカつく野盗の様な風貌であり、みな血気盛んであった。
だが話をしていくうちに常識や礼儀を弁えていて、人としては至極まともな面子であった。
なんでも元々は帝国軍に入っていたが、他国とはいえ女子どもにも手出しをするという非道を許せなかったために上官に意を唱えたところ除隊されて身を落としてしまったが、根が良い人間のため犯罪に走ることもできなかった。
気づいたら同じ様な境遇の人間が集まったので徒党を組んでいたのだが、風貌故に盗賊と誤解されることが多いためなんとか真っ当な仕事に就きたいと考え、商売をしようと思い立ったらしい。
アリシア達は快諾して商人達に同行することになったが、より一層パーティの怪しさが引き立った。
竜の山への道中は稀に魔獣が出ることもあったがアリシア達が難なく倒し、商人達は感心しつつもこの部位はあの街で売れる、この部位は…と売り上げを上げるためにも必死になって解体をしていた。
『一山当てられたとしたら、どうするんだ?』
バルトロがふと思った疑問を尋ねると商売を通じて街を作りたいという答えが返ってきた。
『帝国は広いからな、俺達みたいに様々な理由で周りとうまく馴染めない人間も多いんだ。
そういう人間が少しでも穏やかでいられる場所があったらいいなと思っててな。』
アリシア達はアルクスと似た様な夢を追う彼らに共感を覚え、共にいられる時間は少しでも力になろうと誓った。
商人達と少し打ち解けた矢先に訪れた街の様子が騒がしく、若干火の手が上がっている様だった。
『奪うもん奪ったらとっととずらかるぞ!』
アリシア達が急ぎ街の入り口まで辿り着くと、街を襲ったと見られる盗賊の集団が撤退するところに鉢合わせる形となり、行く手を阻もうと商人達が立ちはだかった。
『なんだお前達、同業か?生憎目ぼしいものは俺達がいただいちまったがな。
おっと変な気は起こすなよ、俺達にはコイツがいるからな。』
見た目から盗賊と間違われてしまった商人達。
盗賊が指笛を鳴らすと街中からゆっくりとマッドボアよりも巨大な大猪が現れた。
『ふっ、恐怖のあまりビビっちまったかな。まぁ俺達が逃げる間に時間稼ぎでも…』
盗賊がのんびりと喋っている間に、バルトロとスペルビアにより大猪は2つに両断されてしまった。
『なんだ、大したことなかったな。』
『たまには猪肉もいいよな。』
盗賊達が呆然としている間にアリシアと商人達は協力して盗賊達を縛り上げて、街中へ盗賊は捕まえたから安心するように伝えに向かった。
住人からは別の盗賊がやってきたと誤解されるも、アリシアが説明するとすぐに誤解は解けて大層歓迎された。
猪肉を住人に振る舞いながらの大宴会となった。
宴の中で街の用心棒にならないかと誘われるが、アリシア達は目的があるので辞退し商人達もいずれ大きな商会を作るのでそれまで待ってて欲しいと伝えて断ることになった。
盗賊の爪痕の後片付けを手伝い、一段落したところで街を出発して遂に竜の山へたどり着いた一同。
スペルビアの気配を察知してか、すれ違った亜竜達は大人しく少し怯える様子であった。
『なんだか大人しい竜達だな。結構激しい戦いになると思っていたんだが…
兄さん達に恐れをなしているのか?
とりあえず目的の村には問題なくいけそうだ。』
商人達は亜竜が襲ってこないことを訝しがっていたが、一行は難なく竜の山を登って行った。
遺跡へと向かう道から少し外れた道を進むとこんな山奥にも人が住んでいるのかというような秘境の村へ辿り着くと商人達は感謝の念を伝えてきた。
『助かった、ここで手に入るあるものが、各地で高く売れるんだ。
兄さん達はこの後どうするんだ?急ぎの用事がないのならこの後もお願いしたいところなんだが。』
『すまない、ここの山頂にある遺跡に用事があってな。用事が終わった後に何事もなければこの村に顔を出す。』
『ありがてえ、じゃあここで一旦お別れだな。縁があったらまたすぐに会えるかもな。』
アリシア達は商人達と別れ、遺跡へとたどり着いた。
『これに龍気を流し込めば、ドラコ・レグルスに行けるはずだ。』
そう言うとスペルビアは遺跡の中央にある石へと龍気を流し込んだ。
あっという間に石が光り、そして石から伝わった光が部屋全体を包み込み、アリシア達は光に飲み込まれた。
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