恨み
長期間にわたる重度の介護が余りに辛く、母を殺めてしまった
首をしめている間も、母は
「生きたい、生きたい」
とかすれた声でうめいていた
そんな声を無視し、首をしめ続けると静かになった
遺体を毛布にくるみ、深夜になるのを待ってから車の後部座席に積む
県外の山まで捨てに行けば、簡単にはバレないだろうと、高速で県外へ移動する
深夜という事もあり、車はほとんどなく、あっても速度の遅いトラックばかり
朝までには帰る事が出来るだろうと、カーナビを見ながら運転していた
雨が降り出し、視界が悪くなった
「雨か……これなら、目撃者も減るかな」
慣れない高速を運転していると、後部座席からゴソリという音がした
遺体をくるんだ毛布は、縄で何重にも縛ってあるので、仮に母親が生きていたとしても出ることが出来ないだろう
しかし、もし生きているならプランを変更しなければならないと考え直したとき
「うわー!」
ハンドルに、やせ細った骨の様な腕がしっかりと握りしめていた
そして、ハンドルが力強く切られた
車は中央分離帯に激しくぶつかり、俺は意識を失っていた
「ここは……?」
気が付くと、病室の様だった。全身が痛み、起き上がることもできない
「気が付きましたか」
ちょうど、看護婦さんが居た様で、医者を呼んでくれた
医者と一緒に、警察官と思われる男性も居た
(やはり、母の遺体がバレたか……)
事故の時に、車の中を調べられているだろうから、当然だろうと思った
「あの……」
「あなたの母親ですが、まことに残念ながらお亡くなりになりました」
俺が聞くよりも先に、医者がそう伝えてきた。となりに警察が居るからだろうか、こちらを気遣うよりも真実を伝えるべきだと判断したのだろう
そして、警察から事故現場の事を聞かされた
恐らく、雨でスリップしたのだろうと
「あなたの母親は、あなたを守るように、あなたにしがみついていましたよ」
俺があとで鏡で確認したところ、俺の首にはっきりと両手でつかんだ跡があった




