浅いプールで
「昔、このプールで溺れて死んだ人が居るらしいよ」
友達と、市民プールへ遊びに来ていたのに、友人の第一声がこれだ
今から楽しもうとしている私の気分を台無しにする
「なんでそう言う事言うのかなぁ……。私がそう言う話、嫌いって知ってるでしょ?」
「まあまあ。当時はここのプールの水深は2メートルほどだったんだけど、その事故があってから1メートルに改善したんだって、そういいたかったのよ」
「うっそだー」
実際、彼女の顔はにんまりとしていて、イタズラ成功って事でしょうに。まあ、彼女の性格は昔っから変わらないから仕方ないと言えば仕方ないんだけど
「さ、さっさと着替えて泳ごう、泳ごう」
更衣室へ行き、水着へと着替える。私は大人しめのワンピースタイプの水着だけど、彼女はビキニだ。この夏休みで彼氏でも作りたいのだろうけど、私はナンパお断り
だって、付き合うとかめんどくさいし
「どう? これ」
「気合入ってるね。でも、このプールって見た所家族連ればっかりじゃない?」
プールサイドから周りを見ると、子供が多い。水深が浅くて、大人じゃ泳ぎにくいのか、泳ぐのをメインにするような若い層は少ない
「はぁ、残念。けど、まだ夏休みは始まったばかりだし、今度は他の場所にしましょう」
「分かったけど、まずは泳ぎの練習だからね」
「はーい」
何を隠そう、これは彼女の泳ぎの練習だ。ビート版を使ってのバタ足なら25メートル泳げるらしいけど、さすがに高校生にもなってビート版は無い。そして私は、中学の時は水泳部だったから、泳ぎはうまい
まあ、競泳用の水着が恥ずかしすぎて、選手の道へはいかなかったんだけどね、実力もそこまでじゃないし
あの水着、ある意味はだかよりも恥ずかしいんじゃないかな
プールへ入ると、胸くらいまで水に浸かる感じだった。小学生なら十分に深いけど、大人ならすぐに足がつく深さだ
「まずは、軽く泳いでから、背泳ぎの練習とかかな?」
「えー、かっこよくクロールがいい」
「息継ぎを覚えたらね」
彼女はぶーぶーと不平を言うが、息継ぎも出来ないなら泳ぐのは無理だろう
「最初は、顔を水中へ入れて慣れるところから」
私は、息を止めて顔を水につける。ゆっくりと目を開けると、浅いプールの底が見える
(あれ? なんか、真ん中の方が黒い。カビかなにか? ちゃんと掃除してるのかなー)
「どう?」
「うん、顔を水につける程度は余裕、よゆー」
「じゃあ、手を引くからバタ足の練習かな」
「はーい」
私は、彼女の手を引いてゆっくりと下がる。彼女は、バタ足でばちゃばちゃと水を叩く
「きゃっ。ごめんなさい!」
私は、何かにひっかかって倒れそうになるのを、なんとか堪えて謝る。誰かの足を踏んだか、水中にもぐっている子供にでもひっかかったのか
「あれ?」
私は振り向いたけど、誰も居ない
「どったの?」
「私の後ろ、誰か居た?」
「誰もいなかったと思うよー。水ん中も、誰も横切ってないと思うし」
「そう」
じゃあ、何にひっかかったのか。私も水中を確認したけど、誰も居ないし、何か落ちている物も無い。変だとは思ったけれど、友人の泳ぎ練習を再開する
「それじゃあ、ゆっくりと手を放すから、自分で浮いて泳いでみて」
「おっけー」
私がゆっくりと手を放す。彼女は、少しずつ沈んでいく。しっかりと、足で水を掴めていないのだろう
あーあ、とうとう全身が水に浸かった。仕切り直しかな
しかし、見ていると、彼女は浮かんでこない。足がつくから、底に足をつけて立ち上がるだけなのに
私は、彼女の腕を掴んで引き上げる。しかし、何かが下へ引っ張っている様に感じる
「うーん!」
私は、思いっきり腕を引き上げる。何とか彼女を引き上げることに成功した
「げほっげほっ! はぁ、はぁ……ありがと、助かった」
「どうしたの? まさか、子供のイタズラとか?」
私は、悪ガキが彼女の足を掴んだのかもしれないと、水中を確かめるが、誰も居なかった
「ちょっとあがろ」
彼女は、疲れた様子でプールサイドに向かい、プールから上がる
「ねぇ……その足……」
「え?」
彼女の足首には、髪の毛のようなものが巻き付いていた
私達は、すぐに帰る事にした。帰りに、お祓いもしてもらったほうがいいかも
聞いた話では、このプールでは死亡事故は起きてはいないが、溺れかける人がたまに居るらしい




