進んでも進んでも
気が付くと、一本道に立っていた
左右は薄暗く、何も見えない
足を踏み出そうとすると、まるでそこが落とし穴の様に見えて身がすくむ
取り合えず、一本道を確認する
前は、少し明るくなっているが、どこまでも続く道
後ろは、薄暗く、戻りたいと思えない感じがした
「進むか……」
どっちが進む道かは分からなかったが、明るくなっている方へと進む
しばらく進んでも、風景も何も変わらないので、本当に進んでいるのかどうかも分からない
後ろを見ても、進んだ分だけ道が薄暗くなっているのか、最初に居た場所がどこなのかも分からない
それでも進んでいると、門のような物が見えてきた。ただ、その門はすでに開いていていつでも通る事ができそうだ
「いっちゃうの?」
横から声が聞こえて、そちらを見る。すると、そこには5歳になったばかりの息子が見えた
「どうしたんだ? こんなところで」
頭がぼーっとして、他の事は考えられない。息子がここに居る事が普通の事であるように思える
「いかないで」
息子はそう言うと、うっすらと消えそうになる
「まって!」
足元が落とし穴の様に真っ暗であったことも忘れ、息子の消えた場所へと向かう
完全に道からはずれたとき、目が覚めた
「パパ、起きたよ」
「パパ!」
見ると、自分を囲むように家族が居た。妻は、泣いていたのか目が赤い
「どうしたんだ、みんな」
「覚えて無いの?」
そう言われ、何があったか思い出そうとする
「ああ、思い出した……」
家族でキャンプに行こうと駐車場に車をとめた時、急に林から熊が出てきた
俺は息子を守るために熊の前に立ち、妻に怒鳴る
「息子を車に乗せて、行け!」
妻は、俺の事を置いていけないと言うが、全員が動けば誰が襲われるか分からない
「ゆっくり、刺激しないように車に乗れ、そして逃げろ!」
妻は息子を抱え、ゆっくりと車の運転席へと乗る。息子を助手席に押しやり、エンジンをかける
妻はクラクションを鳴らしたが、熊が逃げる様子は無い
妻は、俺が言ったとおりに車を発進させた
その後、俺の目の前に熊が迫り、そこから記憶がない
「俺は、熊に襲われたのか」
「ええ。助けを呼んで戻ってきたら血だらけで倒れていたわ。けれど、熊が居なかったからすぐに車に乗せて病院へ向かえたのよ」
熊は俺の事を食べなかったのか、それとも俺が何かしたのかの記憶はなかった
「パパ、戻ってきてくれてうれしいよ」
俺は息子をぎゅっと抱きしめる。だが、なぜ息子がこんなことを言ったのかは不思議だ。まるで、俺の夢の中を見たかのようだ