貸家で
今日は、貸家の下見に来た
アパートから引っ越して、夫婦二人で静かに暮らせる場所を探している
田舎の、昔ながらの建物で、市が援助をしているため、5年間は家賃がかからない
「ねえ、あれは仏壇かしら?」
妻がそういうと、畳の一室に扉が見える
立会人は、鍵を開けると、お好きにどうぞと外で待っているため、ここにはいない
黒い扉を開けると、中は空洞だった
「何もないな」
俺はそういって扉を閉めると、どこかでふすまの開く音がした
「担当者の人も来たのかしら?」
妻はそういうが、玄関の開いた音はしなかったはずだ
俺たちは続いて奥の部屋に行くと、障子の後ろに誰かが立っているような気がした
「誰かいるのか?」
そういうと、影が動いた気がした
障子を開けると、奥に一本の木が見えた
もしかしたら、その影だったのかもしれない
2階へ行き、窓から景色を見る
左手は山が見え、右手は海が見える
「いい景色ね」
妻は気に入ったようだ
俺は、ふとさっきの庭の木を見ると、何かがぶら下がっているように見えた
「あれはなんだ?」
俺が指さすが、妻は「どれ?」と分からないようだ
気のせいかと思い、窓を閉めると、ドサリという音がした
「何の音だ?」
「え?何も聞こえなかったわよ?」
それから数年、俺たちはこの家で暮らしている
ただ、庭の木にぶら下がっている首つり死体は俺にしか見えないらしい




