お供え物
ある人気のない山道で事故があった
轢かれたのは、山菜取りに来ていた近所の主婦だった
事故を起こした車は、あろうことか現場の証拠になりそうなものをあらかた回収し、主婦を放置して逃げた
主婦は、轢かれた直後は生きていたと思われ、自力で助けを呼ぼうとしたよのか、現場から少し離れた場所で亡くなっていた
現場に決め手になるような証拠が無く、目撃者もなく、被害者もなくなってしまったため犯人は見つからなかった
それからしばらくは、現場に主婦の知り合いが置いたお供え物が置かれ続けていた
しかし、1年経つ頃にはわざわざここまで来る人はほとんど居なくなっていた
主婦には両親も子供もおらず、夫は心を壊してこの地からすでに引っ越していた
近所の人が、久しぶりに命日にお供え物を供えようと現場に来ると、そこにはすでにお供え物があった
「誰が来たのかしら? 最近は誰も山へ来てないと思うのだけど」
気になった近所の人は、1か月後にもう一度現場を訪れると、そこには新しいお供え物が置いてあった
ただ、1mほど現場からずれた場所に
次の月には、さらに現場からずれた場所に置いてあった
「一体誰が?」
近所の人が行くたびに、少しずつお供え物が供えられている場所が移動している。さらに、今は毎日きているが、時間が毎回違うにも関わらず、そのお供えをした人物とは会えていない
そして、とうとう主婦が轢かれたであろう現場にかなり近づいた
近所の人は、なぜか急に立ち眩みがして、ふらついた時に供えられていたジュース缶を倒してしまった
「あ、ごめんなさい」
近所の人は慌ててジュースの缶を起こそうとしたが、中に入っていたのが何だったのか分からないが、血のようなものだった
さらに、こぼれた液体は指をさす手のようにも見えた
何か、訴えのようなものを感じて、近所の人はその指さした方向へ歩いて行った
そして、しばらく林の中に入っていった場所に、何か吊るされていた
「ひ、人?!」
近所の人はすぐに警察に電話をしようとしたその時
「はんにん」
と主婦の声が聞こえた気がした
帰り道、倒したはずのジュース缶はなくなっていた




