メモ帳
ビジネスホテルの部屋の中にある電話には、メモ帳が備え付けられていた
ただ、そのメモ帳は新品ではなく、使いまわしだ
そのメモ帳に、鉛筆を斜めに当ててこする
すると、前に何が書かれていたのか浮き上がってくる
大抵は、ビジネスマンなのだろう。次の打ち合わせの日時だったり、名前や場所のメモだったりする
ある時、いつもの癖みたいなもので、メモ帳を鉛筆でこすると
たすけて
と日本語で書かれていたので日本人なのだろう
誰に向けて書かれたものなのか。心配にはなったが、何かあればホテルの人が対応しているだろう
いつ書かれたのかすら分からないのだから
しかし、次の日の朝。昨日のメモ帳はいつの間にか新品と入れ替えられていた
いつの間に入れ替えたのだろうか? 寝ている間にホテルの人が変えるとは思えないが
閉じられたメモ帳を一枚めくり、表面を撫でると、新品になったのではなく一枚むしられていたのだと気付いた
それでも変な話だが、さらに変なのはメモ帳にすでに凹凸があったことだ
昨日から自分以外ここに出入りしていないはずなのに
おそるおそる何が書かれているのか、鉛筆でこすってみる
なんでたすけてくれないの
ぞわりとした
この部屋に誰か居るのだろうか
そう思って辺りを見渡している間に、メモ帳がまたむしられていた
どうして無視するの なぜたすけてくれないの
私は部屋を飛び出した
部屋から、びりびりとメモ帳の破れる音がする
私は部屋に戻る事が出来なくなり、ホテルの人にフロントまで荷物を運んでもらった
さりげなくあの部屋で何か事件でもあったのか聞いてみたが、何も無いようだ
はぐらかされたわけではなく、本当に分からないらしい
私の癖が、たまたま引き寄せたのか、何かがあったのかは分からない




