赤い靴
赤色……この色はなんでこんなにも恐怖を感じるんだろうか
やはり、血の色に近いからだろうか? しかし、血はもっと茶色い
赤を見て火を連想するからだろうか? 火はどちらかというとオレンジだし、人類なら青や白のほうが高温だと知っているはずだ
なぜ俺がこんなことを考えているかと言うと、玄関に見知らぬ赤いハイヒールが一つ転がっていたからだ
当然、俺に彼女は居ないので彼女が履き忘れた可能性はゼロだし、母親はもう40代後半なのでハイヒールを履く年でもない。それに、片方だけだ
俺は気持ち悪く思い、マンションの生け垣に捨てた。ゴミステーションまで行くのがめんどくさかったし、誰かに見つかって何かを言われるのも嫌だったからだ
その夜、俺は金縛りになって目が覚めた。動けないどころか喋ることも出来ない。一応、目だけは動くが、尚更それが恐怖を誘う
一体何が……狭い部屋を目だけ動かして調べると、玄関に見知らぬ女が立っているのに気が付いた
暗いせいで見づらかったが、赤い服で顔は髪に隠れて見えない
「私の靴しらなぁい?」
俺は一瞬であの捨てた靴の持ち主だと直感した。しかし、教えようにも口が動かない
「私の赤いくつぅ、しらなぁい?」
一歩、一歩、ゆっくりと俺に近づいてくる。叫ぶことも、目を閉じることも出来なくなった
「私の、大事な、赤いくつぅ、しらなぁい?」
とうとう、俺の顔を覗き込むようにして見てきた。幸いと言っていいのか、くらいおかげでどんな顔か見なくて済んでいる
「し、らな……い」
なんとか声を絞り出す。心臓がバクバクと音を立てているのが分かる
「ほんとぅに?」
今まで見えなかった顔が一瞬で俺の顔に近接し、女の目だけが視界いっぱいに広がる
「い、けが、き、の……な、か」
俺は溢れる涙のおかげでぼやけた視界で、なんとか捨てた場所を教える
「私の、赤いくつぅ、片方だけのくつぅ」
そう言ったあと女は俺の顔を手で掴む。そこで俺は気を失ったらしい
目を覚ますと朝だった。俺はパジャマのまま生け垣を見に行った。途中であの女が居るかもしれないと思ったが、靴があればあれは夢だったと思える
「靴が……ない」
俺は呆然と生け垣を見ていた時、視界の隅で両足に赤いハイヒールを履いた女が横切った気がした




